東大寺大仏殿八角灯籠 「音声菩薩(シンバル)」


東大寺大仏殿八角灯籠

 2010年秋、東京国立博物館において、「東大寺大仏 -天平の至宝-」が開催された。学生時代の恩師の叙勲のお祝いで東京に出たため、これを見に行った。その展示の中に、大仏殿の前にある八角灯籠の音声菩薩が展示されていた。あらためてその四面に彫刻された仏像のすばらしさに感激した。
 大仏殿を訪ねた際、その大きさに圧倒され、その前にあるこの八角灯籠の存在に気がつかないまま、中に入る人が少なくないだろうが、この灯籠の四面に彫刻された音声菩薩はいずれも優しい顔立ちで見るものをほっとさせる。豊かな表情と優しい顔立ちは見るものの心をいやしてくれる。
 以前に(1981年)その一つを年賀状用の版画にしたが、あらためてこの作品をもう少し大判で版画にしてみたいとその場で強く思った。しかし大変細かい彫刻が施されており、これを版画にするにはかなりの根気強さと労力が必要であり、若いときならばいざ知らず次第に根気強さが失われている現在、相当の覚悟をしないと簡単には取り組めない作品でもある。
 今年の3月になり、取りかかろうとしたが用紙が切れたため画材屋に、これまでよりもかなり高価な紙を注文したところ届くまでに1月以上かかり、しかも予想以上に厚すぎ木版画用に向かないように思われ、再度ネットで2種類の紙を購入し、ようやく6月中旬頃から取りかかる。今回購入した3種類のうち2種類は私の版画にはあまり相性がよくなかった。紙選びの大変さをあらためて感じた。
 毎日仕事から帰り夜3時間くらい取り組み、土日はいろいろな仕事等の合間に取り組み一版彫るのに1週間。結局1月半くらいかかりようやく完成。
 オリジナルは銅で青緑色をしているが、当初は鍍金されていたとのことで、今回はその当時の状況をイメージしつつ作品にした。また構図ももう少し顔をアップしたものにしようか迷ったが、今回は少しオリジナル作品と私自身の技術にこだわった構図にした。
 時間がかかっても出来るだけ丁寧に取り組もうとした分、作品としてはまずまずの出来となった。しかし、細かい作業が必要であり、集中力が切れ少し詰めの甘いところも散見される。

50枚限定 6色  W22.5 × H33.0 (p)


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