興福寺 阿修羅像


阿修羅像

 興福寺創建1300年を記念して本年東京と福岡において阿修羅展が行われ、多くの人々を魅了した。  私はこれまで興福寺の阿修羅像は、眉間にしわを寄せ非常に神経質で、苦悩する若者の内面の葛藤を表すかのようで、この像を凝視する気持ちにもなれず一種の近づきがたいものをずっと感じてきた。確かに顔立ちも整い芸術的にはすばらしい仏像だと思うがそれほどこの像に夢中になるような心境になれないでいた。本年の阿修羅ブームに対しても、なぜ多くの特に若い女性等がそんなにもすんなりとこの仏像にとりつかれるのか不可解であった。
 2000年にこの仏像を年賀状用として取り上げて以来、この像に対して以前から抱いていた近づきがたい思いは少し薄らいできた。職場の文化祭に出品するために、今年のブームにあやかりもう一度この仏像を版画にしてみることを決意した。あらためてこの像を見つめると、いわゆる仏像のお顔とはかけ離れいかにも生身の人間に近く、かつ極めて均整のとれたお顔に、多くの人々が魅力を感ずるのが少し分かるような気がしてきた。見る人の心の置き方により、この像に対する見方もずいぶん変わるものだと感じている。
 私にとっては今なおこの像の内面の深い精神性を感じ、近づきがたいものを感じつつこの像に心酔するところまで至れないでいるが、それは見る人それぞれの思いでこの像を受けとめればよいのであろう。
 今回の木版画としてのこの作品は、50枚全てが比較的ミスも少なく上手く摺ることができた。もとより一枚一枚手摺りのために、摺りの出来不出来の微妙な差はあるのは致し方がないであろう。オリジナルはパソコン画面で見るより深みのある色合いで、全体の色のバランスの点でも、比較的上手くできたように思われる。小豆色の柔らかい色合いの中でこの像をじっくり見つめることにより、この像の内面に秘めた葛藤の中にも優しさを感じられるものと思われる。

50枚限定 7色  W22.3 × H32.5 (p)


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