『保険はカケステが合理的』への反論と意見 
◆「保険はカケステで」と主張するFP先生のご意見
◆保険の貯蓄イメージは販売戦略のひとつ
◆保険の貯蓄機能が低下したというのは本当か
◆お金を殖やすのに保険を使うな というけれど
◆「もしもの時」とは病気した時と死んだ時だけではないでしょ
◆カケステ保険で保険料を節約して・・・それからどうするの?
◆終身保険は柔軟性の高い理想の保険という見方
            
先日ネットで見つけたあるファイナンシャルプランナーの記事の要約を紹介します・・

「保険はカケステで」と主張するFP先生のご意見

@ 日本では長年、生命保険が「保障」に加え「貯蓄」でもあると位置づけられてきた。
A 過去には高い予定利率によって有利な貯蓄性が実現されたが、現在のように予定利率が低下した局面では、生命保険の貯蓄としての魅力は薄れてしまった。
B 「おカネをふやす」のがおもな目的ならば、その手段は別の方法で追求したほうが合理的な時代だ。
C 「もしものときのライフプラン」はあくまでも「もしも」なので、そのための保障は必要と考える分だけ、しかもできるだけ少ないコストで準備できたほうが合理的でしょう。

一見して大変まっとうな意見のように見えますが、この考えは(いつも言っているように)、ひとつの考え方であるに過ぎないと思います。 この断言口調が私には非常に気になりました。
・・・さて、では私の反論です。

【@への意見】 ・・・貯蓄イメージは販売戦略のひとつ

日本人は世界に名だたる貯蓄好きといわれ、その傾向は戦後の復興期から高度成長期、バブルの形成期とその崩壊後の景気低迷期にいたるまで変わりません。
このことは、最近銀行などで大いに売れている投資型年金が「変額なのに元本保証である」ことにも如実に現われています。
そうした日本人の性格を保険販売に利用しようとした保険会社が、『 貯金代わりにもなる保険』のイメージを全面に出した販売戦略を続けていたというのが実態だと思います。

本来はその特性上掛け捨てのコストとして割り切るべきものを、掛け捨てではなく戻ってくる、場合によっては貯金にもなる、というイメージを与えることで買い手の抵抗感を和らげる手段であったのでしょう。

しかし、実際には貯蓄性の比較的高い終身保険、養老保険や年金保険に、特に買い手が要求していないのに、カケステの定期保険を特約の形でくっつけて売られた商品も多く、貯蓄性が高いと思い込んでいた契約が実は実質的にはかなりの部分がカケステであったなどというミスマッチも起きていたのが現実だったのです。

また、若い頃に加入した貯蓄性の高い保険でせっかく積み上げてきたお金を、保障性重視の新たな保険への切り替えのために投入してしまって、その不合理さに後で気がついたなどという怒りの言葉を私は何度も聞いています。
貯蓄型保険自体の良し悪しはともかく、保険と貯蓄の境目の曖昧さは主に売る側の販売戦略にその理由があったと思います。

保険が貯蓄と位置づけられていたというより、保険の貯蓄性はセールストークとして利用されていたというのが正解でしょう。



【Aへの反論】・・・保険の貯蓄機能が低下したというのは本当か

魅力が薄れたと言う保険の貯蓄機能を検証しました。
保険を解約した際に戻ってくる金額がそれまでに支払った保険料累計額に対してどれだけになるかという割合を解約返戻率といいます。返戻率(へんれいりつ)は保険の貯蓄性の判断基準のひとつです。
予定利率 5%時代の終身保険に40歳で加入した場合で65歳時の解約返戻率は127%です。
この保険の保険料を1万円とすると、予定利率がかなり低下した現時点での同じ保険の保険料は2万円にもなります。(保険会社によっては2万5千円も)
保険料が2倍にもなってしまったこの保険ですが、65歳時点の解約返戻率はといえば 105%です。また、ここ数年で新たに登場した老後資金重視の終身保険では 116%となっているのです。
この保険を65歳で解約すれば払い込んだ保険料以上のお金が戻って来るのです。
確かに10年前の保険よりパフォーマンスは落ちてはいますが、魅力が無いと切り捨てるほどに効率が低下したとは私には思えないのですが、どうでしょうか?

超低金利が続いている現在、確定利率の貯蓄商品の代表である定期預金などは最近金利が上がってきたといっても、せいぜい0.6%〜0.8%などどいう超低空飛行なのです。
先ほど紹介した65歳時返戻率116%となる終身保険は、その解約返戻金の殖え方を利率に換算すると、年利1.2%の積立て複利運用に相当するのです。
生命保険の貯蓄性がもう過去のものと言い切るのはどうかと思いますが、いかがでしょうか?



【Bへの反論】・・・お金を殖やすのに保険を使うな というけれど

保険は保険、貯蓄は貯蓄、という考え方が間違いだとは言いません。
目的の明確化を怠ったままで、なんとなく貯金のようであり保険のようでもあるなどという曖昧な認識での商品選択はおそらくミスマッチを生むことでしょう。

しかし、私はいつも言っているのですが、保険というのはその役割からして貯金の一手段なのであり、また貯金は一種の保険でもあるのです。
(詳しくはコラム記事をどうぞ→「貯金と保険」 )
このFPが言うのは保険は保険と割り切ってカケステの定期保険だけに絞り、浮いたお金を貯蓄に回すということなのでしょうが、ではいったいどんな貯蓄商品を想定しているのでしょう。ライフプランというからにはカケステ保険化で浮かせたお金の使い方までを含めてアドバイスをするのがFPの仕事だと思うのですが・・・。

また、貯蓄や資金準備というのは必ずしも、お金の額を殖やすことだけなのではありません。
遣わずに置いておくこと、少ないお金を将来に向けて殖やすこと、ある状態になったときに手にできるようにしておくこと、など、資金準備には色々な考え方、方法があります。
流動性を重視すべき資金なのか収益性の追求が大事なのか、絶対に減らさないようにすべきなのか、などなど、資金の目的によってもそのやり方が変わってくるのです。
殖え方が以前より低下したから、やめたほうが良いなどというのは、あまりにも偏狭なお金の捉え方だと私は思います。


Cへの反論】 「もしもの時」とは病気した時と死んだ時だけではないでしょ

保険の目的は「もしもの時に備えること」なのであるから、その目的に絞ってできるだけ少ないコストの保険を選択すべし。 至極もっともなこと、というか当たり前の理屈です。
さて、問題なのは、だからと言って、カケステの定期保険が合理的という結論に飛んでしまうことの浅薄さだと思うのです。「もしも」に対処するためには「もしも」の定義を明確にした上でなければ、その先に進むことはできません。

生命保険がその保障の対象とすることが出来る「もしも」は早期の死亡だけではありません。
早期の死亡、長期療養の末の死亡、高度障害状態、要介護状態、長生きと収入の減少、公的保障水準の予想外の低下、住宅環境の激変などなど、長い人生には色々なもしもがあり得ますし、そのどれになるかは当然予測不可能なのです。

働き盛りの時期の突然の死亡と、子育ても終わった老齢期の死亡では必要な保障額は大きく違って来ますが、どの年代であってもある程度の保障は必要でしょう。そうであれば、期間限定の保険、即ち定期保険だけでOKというのは考え難いところです。

また、医療保険やガン保険や介護費用保険など色々な保険に加入していたとしても、そのどれにも当てはまらないような不測の事態に陥ることも大いに考えられます。
それこそ、どういうことになるのかを想定できない「もしも」なのです。


★カケステ保険で保険料を節約して・・・それからどうするの?

繰り返しになりますが、保険を掛け捨て保険に移行して浮かせたお金を老後資金準備に回すといっても、現実にはどんな手段があるでしょうか。あらゆる金融機関の預貯金金利は全て1%未満であり、長期国債ですら1%台ですから、なんとかインフレについてゆく程度で、とても運用とはいえない状況。

では株式投資や投資信託を利用せよと言うのでしょうか。
日本では株式投資を、一発当てる宝くじのごときものと勘違いしている人がいまだに多く、株式投資の本来の姿である長期投資のマインドが根付いていません。
そのため投資信託などの販売実績は増加の一途ではあっても、安定した長期運用の効果をもたらしてくれそうな優良ファンドを見つけるのは至難の技であろうと私は考えています。

短期売買、回転売買が主流となってしまっているリスク商品を購入し、売り買いのタイミングを見極めての絶妙な乗り換えを繰り返しながら、10年、20年と老後資金運用を果たすなどという超絶技法を実現できるひとが一体どれだけいるのでしょうか。

仮に浮かせた保険料を利用してコツコツ貯金や資産運用を継続できたとしても、住宅ローンの繰上げ返済に回したり、車の買い替え、家のリフォーム、子供の留学、などの支出が次々に必要になり、一方思うように収入が増えずに、やむなく貯金は切り崩されてしまうということも想像に難くないと思います。
年金保険、養老保険、終身保険などの所謂貯蓄性のある保険商品は、安易に取り崩してしまう危険の少ない安定的長期運用商品でもあります。利率が高い低いだけの問題ではありません。


★終身保険は柔軟性の高い理想の保険という見方もある!

保険料をコツコツと払っている段階では、当然のことながら家計をリスクから守る役割を果たし続け、保険料を払い終えた後も、必要であればその保障を継続することができ、必要の無い部分、過大となった保障額についてはそれを部分的に解約して積立金の一部を利用できる、つまり一種の貯金として機能する。
こんな終身保険が、人生のあらゆる「もしも」に対応可能な柔軟性のある有効な金融商品であることを再認識する必要があると私は思います。

「保険は掛け捨てが合理的」を全面否定はしませんが、あくまでのひとつの考え方に過ぎないと認識して頂きたいと思います。

ちなみに、冒頭に引用したあるFPの記事ですが、実はこれは某保険会社の「1年定期保険」のPRコーナーに掲載されたものなのです。 この考えがどこまでご自分の意見なのか分かりませんが、FPも商売ですので、色々大変なのでしょう。




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