FA for Industrial Engineer 新時代の生産現場の構築(その1) 5292
                            効率の良い工場を目指して

  CONTENTS
1.ラインはアイデアの宝の山
2.現場の気持ちを理解した設備にする
3.重厚長大から軽薄短小?
4.機械の動作分析のすすめ
5.セル生産は日本の製造業を救うのか?
6.低生産性からの脱出
7.天然資源と同様に大切な人的資源
8.いかにして稼働率をあげるか
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1. ラインはアイデアの宝の山

最新鋭の設備はPRに打って付けなので、営業部門はお客にみせたがる。その装置が出来るまでの苦労などはお構い無しである。見せれば、競合他社の耳に入り、
時には重要なことまで洩れ伝わってしまう。

機密管理は、生産ラインや個々の装置に対しても実施する必要がある。これが案外うまくいってない。

 ノウハウの流出防止として技術者が打てる対策は、ポイントとなる箇所は見えないようにする。設備の製作社名を表示しない等の方法が考えられるが、同時にトップの理解を得ておくのが必要である。
以前に、社長が「設備の製作社名を表示しないように。」と指示したが、忠実に実施していたのは私の所属する部署だけだった。

生産技術者はより多くのラインを見てその良いところ悪いところを判断できる力量を備えて欲しい。

2. 現場の人の気持ちを理解した設備にする

設備は作業用の治工具のように、すぐには再製作や変更できない場合が多い。だが、設備は導入したその日からよりよい形の設備に改良する努力を怠らないことだ。
特に、機械の動きには、意外と思われるかも知れないが多くの無駄が含まれているものだ。(4.機械の動作分析のすすめ の項を参照のこと)

作業改善する時に設備の設置場所を変更したい時がある。会社によって生産形態が異なり事情が異なると思うが、設備を移動するのにわざわざ運搬用の機器や器具を準備しないで簡単に出来ることが大切である。これは現場の人の創意工夫を生かす上でも必要である。設備にキャスターを付ける・設備への給電をダクト配線にして工事不要にする・低圧エアーの取り入れを簡単にするなどで、工夫が思いついたら、すぐ改善するという環境を作り出す。また、掃除がやりやすいとか、油を換えやすくする配慮する。これらは、現場の人との人間関係を良好にする上でも怠らないようにしたい。

3. 重厚長大から軽薄短小?

ローコストオートメーションが良いとは限らない。

製品の売れている期間が極端に短い時を除いての話であるが、は導入費用を節約できる以外のメリットはないと考える。筆者の勤務した会社では、他部門で一時樹脂のパイプを利用した棚や手押し車が流行っていたが、10年ほど経過した後はほとんど残っていない。棚などは余程の場合を除き長年使用するものである。 樹脂で作ったものは壊れやすいので次第に使われなくなり再購入するときには従来の金属製になってきたようだ。

 パソコンを使用した設備も作ったが5年ほどすると修理用の部品が手に入り難くなり、結局新型のものを購入するはめになったこともあった。

 インデックス装置もゼネバを利用したものは安いが耐久性がなく結局、カム式の設備を再導入した。繰りかえしになるが、製品寿命が極端に短く、生産形態の変化が激しい現場は別である。設備を製品の変更に対応しやすくする事も、考えなくてはならない。

私は設備を導入する際に2年以内の使用期間と想定される時にはLCAの実現に心がけるか、他の設備に転用可能にすることを設計時に考慮した。

4. 機械の動作分析のすすめ

 意外に見逃されているのが機械の動作の無駄である。無駄があっても人間と違い工賃として現れ難いせいもあり、無駄な動きを内含したまま放置されている例が多いようだ。

 たとえば水平多間接ロボットで製品を設備に運んで、加工や検査をしている場合に製品を置いた後に新たな製品を取上げる時にいちいちハンドを上限まで上昇させている例は多い。製品を置いたあとは持っていないので最小限ハンドを上昇させればよいが上限まで動いている。時間とエネルギーの無駄である。機械の耐久時間を延ばすためにも無駄な動作は削除すべきだ。

5.セル生産について

 60年代をピークにベルトコンベアを用いた流れ作業は高い生産性を有する生産システムとしてもてはやされた時期もあった。だが70年代からそのマイナスの面が強調され始め、多品種化に伴い現在ではあまり見かけなくなった。変わって近年は、セル生産がマスコミに取り上げられ、「セル生産は中国などに対抗できうる生産体制だ」等と主張する人もいた。 セル生産を導入した企業が身売りしてしまった例もあり、いくらか当初よりトーンダウンしているようだ。最良な方法とは生産する製品の置かれている状況で決まり、全ての製品に当てはまるものはない。有能な生産技術者はセル生産が向いているのかベルトコンベアラインが良いのか、自動化したほうが良いのかを判断できるはずである。

6.低生産性からの脱出

 最低賃金の額の引き上げについての論議がある。今以上に上げられてしまうと中国などに会社を移さざるを得ないので反対だと主張する人。逆に、最低賃金しか払えない企業は市場から退去すべきとの意見もある。

 大人独りがやっと生活できるだけの賃金しか支払えないのは問題がある。すぐには無理かもしれないが富の配分方法を含めて改善する必要がある。生産現場に限って意見を述べるなら低賃金しか得られない仕事をやらざるを得ないのでは、その人を社会が十分活用出来ていない。それは、その人に対して人間の尊厳を冒していると考えたい。そのような現場は設備の利用や作業方法の改善によって生産性を上げる努力をして、事業主が働く者に生活に必要な賃金を払えるようにする必要がある。各国の賃金に差があるのは仕方ないが、それだけに生産技術者の社会的な貢献の価値がある。

7.天然資源と同様に大切な人的資源

今、世の中では、資源の枯渇防止や温暖化防止でエコが一種のブームである。資源を大切にする心を持ち続けることは大切である。また、同様に人間のエネルギーを有効に使う事も忘れてはならない。私はこの事を学生時代に教えていただいた。人的資源を有効に活用する仕組みや仕事を創生することで、人がより豊かな生活を送れるようになる。私の人生の課題である。それは同様に人間社会の課題と思っている。そのひとつの改善手段がIE手法と考える。IE というと、現在ではインターネットエクスプローラを思い浮かべる方が多いと思うが一昔まえにはQC手法と同様にIE手法は工場の改善手段として知られており、企業では導入に躍起になっていた。

時代は変わり、自動化した設備や発展途上の国の労働者の活用することが生産現場の課題となったように見える。しかし、どのような生産形態にあってもIE の技術のひとつである動作研究の対象が自動化設備機械とか発展途上の国の労働者に広がっただけである。

ヤル気を出すための学問である行動科学理論も同様に大切な分野だ。職種や国の文化により多少の違いはあるが世界中の人は、ほぼ共通の動機付け要因が存在していると思っている。

確かにIEの各種の手法は経営者の力になるが、利益が上がっても、その全てが労働者に還元されない事もありうる。しかし、還元の割合を低くし続けると労働者の協力を得られなくなり、その経営者の事業は頓挫するであろう。 しっかりとした経営方針の下で倫理観を持ち信念を持って改善の業務を遂行する。理想かもしれないが、まやかしはいずれ暴かれる。従業員の協力があってこそ初めて高い生産性は達成できると信じている。 技術と共に信念を持つ必要がある。

IEの技術は「余計な力を使わず、いわゆる3K労働をなくす。」事で「より生産性の高い仕事をする。」だと思う。機械設備を使って人が居眠りをするのではなくて、 より効果がある仕事をする。学生の時は「機械でできる事は機械にやらせろと」教えられたが、現在は天然資源のことも考慮しなければならない。仕事では体力を使わないのでフィットネスクラブで汗を流す人が増えているのも考慮して、 人手で可能な仕事を人でやる事も考えざるを得ない。体力と知力のバランスが取れた職場を作る事も必要であり、これからの課題だ。

8.いかにして稼働率をあげるか

稼働率をあげるのは生産の効率を向上する上で大切な事である。製造現場の稼動率は設備と作業者によって左右される。朝、職場に来ても直ぐには仕事が始まらないところもあるかもしれない。 社員のやる気の問題か職場の慣習なのか機械の段取りに時間が掛かるのか原因は様々だろうが、まず原因を掴みみんながその事実を認識することから改善が始まる。 解決できない要因はきわめて少ないと思う。

ここでは機械設備が工程順に並んでいるラインについて取上げてみる。ほぼ工程は自動化している事を想定して話を進める。

ラインバランスという言葉がある。確かに一番時間が掛かっている工程から改善に着手するのはセオリーにかなっている。特に作業者がラインに並んでいる場合はそうだったかもしれない。しかし、自動化された設備が主なラインでは違った観点から改善を進める必要がある。 作業者が並んでいるラインでは時間のバランスが悪いと手待ちが生じて効率が悪くなる。設備が主であるラインは待つのは設備であるのでその設備稼働率は落ちるが待っている時の賃金を払う必要はない。作業者は拘束している限りたとえ手待ちで遊んでいても賃金は支払いは必要である。

設備が主のラインでは他の工程より短い時間で処理している設備機械であっても無駄はなくすべきだ。単に他の工程を改善するのが優先順位が上であるだけの事で、あまり手間を取られない改善で工程の時間が短縮される場合には、是非とも実施すべきと考える。短時間で済む工程を他の設備にあわせてユックリ動かすのは具の骨頂である。 それよりも寿命を短縮させない範囲で速く動作させその工程時間をライン全体の目標に設定してその時間で他の工程も処理可能になるように努力するわけである。

 次に心がけるのは設備の停止時間を少なくする事である。設備はトラブルがつきものである。使用する材料の寸法や特性が変化して設備が停止する事もあるだろう。停止の原因を画定して除去するためのパワーはかなりなものが必要になる。世に言うチョコ停はなかなかなくならない。

 それでも停止をゼロを目標にあげるのか・・チョコ停を前提にラインを構築する方法もある。どちらが良いと結論づけられないがチョコ停の影響を避ける方法はある。

続く(その2へ)

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