パーフェクト・ストーム
  ―THE PERFECT STORM―



2000.7.29
丸の内ルーブル

最近、話題作は試写会や先行々のラッシュで公開の日の前にすでにたくさんの人が観ているということが多いような気がします。
そうすると、こちらの意図とは別に漠然とした感想がどうしても耳や目に飛び込んできます。
ペーターゼン監督の特集を組んだり、原作本を読んだりと早々と作品を観にいくボルテージをあげていたわたしとしては、いざ、この作品を観に行くのが少し怖くもありました。


偶然の要素が重なりあって発生したかって誰も経験したことのないような嵐、そしてその中に巻き込まれたカジキ漁船アンドレア・ゲイル号。

この作品の息もつかせねクライマックスの60分間は原作者が、脚本家が、ペーターゼン監督が・・・帰港することがかなわなかった人々の関係者の希望と祈りから想像の中で彼らを想った気持ちを描いたもののような気がします。

作品の冒頭にあるように、この物語は実話をもとにつくられています。

実話ではあるけど、ある意味実態のない話。

このアンドレア・ゲイル号の物語は嵐のあと、その船の残骸も発見されていなく、乗組員の消息も不明のまま、通信資料もなく嵐の中のアンドレア・ゲイル号の様子を見たものもいないのです。分かっているのは、最後の通信をしたあともっとも嵐の強い海域にいてその進路上を進んでいたこと、そしてその後、燃料ドラム缶などわずかな漂流物を除いて、船も乗組員の姿も発見されていないこと。
この嵐に遭って生き残った人たちが経験したことや、漁師たちがそれまで経験したことなどをもとに語られている話なのです。

実際のところは何が起きていたのかは誰にもわからない。

眠りから覚めて夢の話を聞けばその夢がわかるけど、これは眠りから覚めることがなかった夢。

もしかしたら、最後の通信のあと大きな波に直面し、あっという間に転覆し沈没してしまったのかもしれない。
生きていることはないと分っていても、死んでしまったとはなかなか受け入れられない人たちの心情。

人間、誰にでもそれぞれのドラマがある。
でも、彼らはスーパーマンではないし、自然をあなどったものに対して自然とはかくも恐ろしいものであると想う。

戦争や事故で行方知れずになった兵士の家族はその死を受け入れられるだろうか。たとえ遺体がなくても、その時の状況を語る人がいれば信じられなくても受け入れることができるだろう。
アンドレア・ゲイル号の嵐の中での闘いや沈没を見た人もいなくその残骸も発見されず、でも彼らは戻ってこなかった。
ありえないことでも、いつかひょっこり自分の前に姿を現して、いつもの笑顔を見せてくれる。情報もなく行方不明になっている人の家族がみな心に想う想いではないだろうか。

原作者のセバスチャン・ユンガーが長い時間をかけて、グロスターの町や船員の話しを聞き6人の乗組員たちの性格や経験、数々のエピソードをまとめあげたとこころから、航海に出た先からの6人の乗組員の姿が形を帯びてきた。

海をよく知る人たちが、彼らをよく知る人たちが、こんなことが起きるだろう、あいつならこうやって乗りきるだろう。乗りきれなかったのはこんなことがおきたからだろうと。

嵐に遭うまでのエピソードはそれまでに彼らが経験したエピソードをおりこんでいる。
フィクション風だけど、そんなことがなかったとは否定は出来ない。

彼らはそれを生業にしている普通の漁師たちなのだ。人が事故や災害に見舞われたとき一体何ができるだろう。アンドレア・ゲイル号の乗組員たちは、その経験と生への望みで出来ることをいつものようにやったのだと思う。

はらはらドキドキの大スペクタクル、ヒーロー的な人物を見せたければ、この嵐の中に架空の船を出港させ、架空の人物を作り上げ嵐と格闘させればいいのだ。
でも、この映画はそういう作品なのではないと思います。
アンドレア・ゲイル号の乗組員はグロスターにいる他の漁師たちと何ら変わりのない普通の漁師たちなのだ。
家族や恋人にとっては特別な存在であっても、この事故に巻き込まれなければ語られることもなかったかもしれない。

彼らのことについての説明の場面は極端に少ないけれど、嵐の中で起こっていることが彼らのことを語る人々の声のような気がする。想像上のアンドレア・ゲイル号の中で彼らがしたであろうことを語る町の人々の気持ちを感じれば、彼らがどういう人たちだったのかもなんとなくわかってくる。

ウォルフガング・ペーターゼン監督の作品はたくさんあるけど、『U-ボート』でファンになり、今でもこの作品が一番好きな作品のひとつであるわたしは、『パーフェクトストーム』で描かれた人間模様がとても好きです。
嵐の中で消えていった人たち、その人たちを愛する人たちにかける深い慈しみや敬意の感が伝わってくるような気がしました。
それを感じることが出来、登場人物たちが、まるでずっと昔からそこに存在していたかのように感じるから、あの絶対的にリアルな嵐の中で、彼らとともに波にもまれて、自分もその中にいるような錯覚に陥ってしまったのでしょう。
そして彼らと荒れ狂う海が消えてしまったとき、自分が生きてその場にいることを実感します。

想像の中のアンドレア・ゲイル号の格闘、そして生き残った人やしめされたデータや証言から描かれたサトリ号と沿岸警備隊の実際におきたドラマ。

パニック性の高い余計なフィクションを入れていないところが、この作品が実話であることを語っているところだと想います。

この物語の主役はまぎれもなく、誰も見たことのない洋上で発生したパーフェクトストーム。
そしてヒーローとなるべき人は実際に活躍し事実に基づき描かれている沿岸警備隊の人々。
過酷な訓練を積み自分たちの身が危ういときでも、生きて救助を求めている人がいるかぎり、それを見捨てることができない。
常人では出来ないことをやってのけるのが沿岸警備隊の人たちなのだから控えめな描写でありながら心を惹きつけられる。

アンドレア・ゲイル号の船長ビリー・タイン。漁獲高が上がらない、船員の中には船を去るものも出ている。
自分を信じて長い航海を共にしてくれる仲間たちは、取り分の少ない報酬に困っている。自分の自尊心と彼についてくる仲間の生活をまもるために、自分の勘を信じて無理とも思える航海へと旅立つ。
でも、その構想はからまわりする。
彼のこころの葛藤ははかりしれないものがある。

この関係は中隊をまかされた隊長と兵士たちの関係によく似ている。
漁に関しても、それから出あう嵐についても、ビリー・タイン船長と他の乗組員の感覚には大きな隔たりがあったと思う。
船長はいつでも自分の考えに自信をもって他の船員を不安にさせない配慮をしながら、無事に報酬を伴う航海を終える責任があるのだろう。

海の状況を知っている強者の仲間たちが少し無謀と思われる航海に同行したのは、船長に対する信頼と自分の人生のための一獲千金の報酬をえるため。

船長の自信と彼らの欲望が、危ない道への選択をさせ、現実を見えなくしたのかもしれない。

ただ、ひとつ言えることは、アンドレア・ゲイル号の乗組員たちは最後の時まで、自分たちの経験や信念から、きっと、この嵐をのりきって帰港することだけを信じていたであろうこと。

自分たちの置かれている状況にまったく変わりがなく。
それどころかだんだん状況が悪化しているのにもかかわらず小さな成功を無邪気に喜ぶことができる。 生に向かって進んでいるからこそ出来る表現だと思います。

とってつけたように、登場人物をクローズアップさせないから、その人たちの人間味が見えてくる。

『Uボート』での艦長、乗組員がやはりそうだった。彼らの人間味を感じ取れるか否かは観る側に選択権が放たれる。

あの自己主張のかたまりの自然の怒り、あの荒れ狂うう波の中で翻弄された人々のドラマを感じたい。

以前に『プライベートライアン』を観て観るたびに感じることが違ってきて、圧倒的な戦闘シーンの陰にかくされたドラマを広げていったように、この『パーフェクトストーム』も、何度か観るとあの驚異的な嵐のシーンに圧倒されることなくたくさんのことが見えてくる作品なのではないかという感じがしました。

正直なところわたしはこの船長を演じたジョージ・クルーニは少し苦手な俳優さんです。どんな魅力的な役柄もこなせそうなジョージ・クルーニやマーク・ウォールバーグが、グロスターの人々の心を感じ、ビリー・タイン船長、ボビー・シャットフォードになりきってスクリーンに現れてくれたのがわたしにはうれしく感じました。


ウォルフガング・ペーターゼン監督についてまとめてあります。
  ウォルフガング・ペーターゼン監督の特集へ


パーフェクトストームオフィシャルサイト
  http://www.perfectstorm-japan.com/new_splash.html


STAFF
監督-+-+-Wolfgang Petersen ウォルフガング・ペーターゼン
脚本-+-+-Bill Witliff ビル・ウイットリフ
原作-+-+-Sebastian Junger セバスチャン・ユンガー
特殊効果監修-+-+-Jonn Frazier ジョン・フレイジャー
音楽-+-+-James Horner ジェイムズ・ホーナー
CAST
Billy Tyne ビリー・タイン -+-+-George Clooney ジョージ・クルーニー
Bobby Shatford ボビー・シャットフォード -+-+-Mark Wahlberg マーク・ウォルバーグ
Dale"Murph"Murphy デイル・マーフィー -+-+-John C. Reilly ジョン・C・ライリー
Christina Cotter クリスティーナ・コッター -+-+-Diane Lane ダイアン・レイン
Devid"Sully"Sullivan デイビット・サリバン -+-+-William Fichtner ウィリアム・フィッチナー
Michael"Bugsy"Moran マイケル・モーラン -+-+-John Hawkes ジョン・ホークス
Alfred Pierre アルフレッド・ピエール -+-+-Allen Payne アレン・ペイン
Linda Greenlaw リンダ・グリーンロー -+-+-Mary Elizabeth Mastrantonio メアリー・エリザベス・マストラントニオ
Melissa Brown メリッサ・ブラウン -+-+-Karen Allen カレン・アレン
Edie Bailey エディー・ベイリー -+-+-Cherry Jones チェリー・ジョーンズ
Alexander McAnally3 アレキサンダー・マカナリー3世 -+-+-Bob Gunton ボブ・ガンドン
Todd Grass トッド・グロス -+-+-Christopher McDonald クリストファー・マクドナルド
Bob Brown ボブ・ブラウン -+-+-Michael Ironside マイケル・アイアンサイド
Irene"Big Red"Johnson アイリーン・ジョンソン -+-+-Rusty Schwimmer ラスティー・シュイマー
Ethel Shatford エセル・シャットフォード -+-+-Janet Wright ジャネット・ライト
Sgt.Jeremy Mitchell ジェレミー・ミッチェル軍曹 -+-+-Dash Mihok ダッシュ・ミホク
Capt.Darryl Ennis ダリル・エリス大佐 -+-+-Josh Hopkins ジョッシュ・ホプキンス

THE PERFECT STORM Original Motion Picture Soundtrack

1.COMING HOME FROM THE SEA
2."THE FOG'S JUST LIFTING..."
3."LET'T GO BOYS"
4.TO THE FLEMISH CAP
5.THE DEISION TO TURN AROUND
6.SMALL VICTORIES
7.COAST GUARD RESCUE
8.ROGUE WAVE
9."THERE'S NO GOODBYE...ONLY LOVE"
10.YOURS FOREVER (theme from THE PERFECT STORM)
*Performes by JOHN MELLENCAMP
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2000.8.1 ADU