海の上のピアニスト
  The Legend of 1900

1月5日(水)銀座丸の内ピカデリー1

―海をみながらこっぱみじんになった男のはなしです
    海を見るならやっぱりテキーラを飲みながらが最高でしょう―

―ほら吹きマックスはお金も得てトランペットもとりもどし
    話のうまいやつは得をしたでしょう―

そんな考えも浮かびますが、ここはマックスの話を信じてモリコーネの美しい音楽を聴きながらナインティーン・ハンドレッドの、思い出に一緒にひたることにしましょう。
そう考えて、みるとナインティーン・ハンドレッドは、なんてかわいそうなんだろう。
一生船の中でくらし、たくさんの仲間にかこまれ、とおりすがりにしろ、たくさんの人々と時間を共有しながら、なぜだれも、教えてあげなかったんだろう。無限に大きい世界は怖いかもしれないけど、無限に広がる世界の中にはもっと無限の愛があるんだって・・・。
彼を生んだ、おかあさんは、彼を生んだことも、彼を置き去りにしたことも絶対に忘れていないよ・・・と、誰の中に存在しなくても、どこかにいるおかあさんの心の中には、必ず存在しているよ・・・と。

20世紀最初の年
その船にのっていた妊婦、彼女は新大陸に夢をはせて、新しい土地で子供を産み育て生活をする気持ちでいたのではないだろうか?
でも、海は荒れるし船は揺れる、当時のヨーロッパからアメリカの航海は7日前後、なんらかの事情で早く生まれてしまった赤ん坊。彼女も必死に悩んだでしょう。だれも、航海中に子供を産んでその子を船に置き去りにする予定で移民船にのる人なんていないと思う。

移民船にのりアメリカに渡るということは当時のヨーロッパの人たちにはとても決心が必要だったこと。赤ん坊の分の移民許可書がない。赤ん坊どころか、自分すら船から降りられないかもしれない・・・といって故郷には帰れない。
もしかしたら、家族での移民だったかもしれない。家族のためにどうすればいいか・・・。ここまで来て家族と離れ離れになることはできない・・・。それでは・・・
目の前に現れた自由の女神、その時彼女は決心したのでしょう。
一等船室のお金持ちの人たちのだれかに拾われことに、望みをたくして赤ん坊を置き去りにする。 グランドピアノの上のレモン箱の中の赤ん坊が発見されるまでには、そんなドラマがあったっておかしくない。
故郷を捨てて移民してくる人たちの中には数知れずのドラマがある。

そして、それを見つけた黒人機関士、彼もまた、一生船底で機関士として働き、家族を持つことなどかなわない立場の人間だったのかもしれない。だからこそ、特別な結び付きを感じたのでしょう。
ナインティーン・ハンドレッド少年が8歳の時、この育ての親である黒人機関士ダニーが事故で亡くなってしまう。

夜もふけに弾いたナインティーンハンドレッド少年のピアノは人々の心を感動させ、やがて、『ヴァージニア号』の専属バンドのピアニストとなっていく。(天性の才能があって、知らずに音楽を演奏したり、作ったり出来る人は数多くいるけど、知らずにピアノの指使いを出来る人はいないと思ったりもしたけど・・・)

その後、この素晴らしい話を語ってくれるトランペッターマックスが登場し、有名な場面が現れ、二人は親友になっていく。

そしてこれまた、伝説のピアノ対決。
ナインティーンハンドレッドはきっと、幼い頃に聴いたピアノ以外に他人の弾くピアノを聴く機会などあまりなかったのでしょう。
そこに現れたジャズの創始者ともいわれるジェリー・ロール・モートン(実在の彼のことやアメリカそしてヨーロッパに伝えられたジャズやブルースについて、もう少し深く掘り下げてほしかったなという希望もあります)。

この二人の対決シーンに対するわたしの解釈は、もしかしたらまちがっているかもしれませんが、感じたままに・・・・最初、ジェリー・ロール・モートンの弾くピアノにナインティーンハンドレッドは本当に心から感動したのでしょう。
二曲目、これは多分、楽譜が読めないナインティーンハンドレッドがジェリー・ロール・モートンの弾いたそのままを完全にコピーしたのでしょう(これも感動の現れかも)。だからジェリー・ロール・モートンは怒った。
三曲目、熱くなり、恐怖心をおぼえ自分の技術を圧倒的に表に出し、心無いジャズを弾いた。それに、怒りを覚えたナインティーンハンドレッドが、それにも増す圧倒的なテクニックでねじふせた。そう解釈しないと、心に染み入る音楽を奏でるというナインティーンハンドレッドが勝負といえども、あんなテクニックでねじふせるようなことをするとは思えない。

心惹かれた少女との運命的な出会い、言い出せなかった思い、そして別れを経て、ナインティーンハンドレッドはニューヨークで船を降りる決心をしますが。『海の叫びを聴く』・・・そう、あの少女の父親の言葉です。でも、ニューヨークでは海の叫びが聞えるかどうか・・・あの老人はヨーロッパのどこか小高い丘の上で”海の叫び”を聴いたのだから・・・

結局は船から降りることが出来ずに彼の半生は過ぎていき、マックスも船を去り・・・

この作品は、なぜ・・とつきつめていくと、説明がつかないことばかりです。でもそれが、伝説のピアニスト、ナインティーンハンドレッドを語るために必要なことなのでしょう。

トランペットを片手に次にマックスがナインティーンハンドレッドの伝説を語り始めるのはいつでしょうか。
本当はナインティーンハンドレッドになりたかったのはマックスだったのかもしれません。夢の自分をナインティーンハンドレッドにおきかえて・・・・

1999年 米・伊作品
イタリア・シルヴァー・リボン賞6部門受賞
ダヴィッド・デ・ドナテッロ(イタリア・アカデミー)賞5部門受賞

監督・脚本…ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)
原作…アレッサンドロ・バリッコ(Alessandro Baricco)
音楽…エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)

<CAST>
Nineteen Hundred……………………………………ティム・ロス(Tim Roth)
Max……………………プルート・テイラー・ヴィンス(Pruitt Taylor Vince)
The Girl………………………………メラニー・ティエリー(melanie Thierry)
Jelly Roll Morton……クラレンス・ウィリアムズ三世(Clarence Williams 3)
Danny Boodmann…………………………………………ビル・ナン(Bill Nunn)
Music Store Owner………………………ピーター・ヴォーン(peter Vaughan)
Head of Port…………………………ナイオール・オブライアン(Niall O'Brien)
Farmer……………………………………ガブリエレ・ラヴィア(Gabriele Lavia)
Mexican Engineer…………………アルベルト・ヴァスケイ(Alberto Vazquez)
Captain…………………………………………ハリー・ディッスン(Harry Ditson)
Nineteen Hundred4歳…………………………イーストン・ゲイジ(Easton Gage)
Nineteen Hundred8歳………………………………コリー・バック(Cory Buck)


ニューヨーク移民の歴史的背景と歴史
  海の上のピアニストの時代の大西洋横断航路をぬけた客船



『海の上のピアニスト』の予告篇制作秘話などもありますので、一度、訪ねられてはいかがですか。
予告編大画報 http://www.h4.dion.ne.jp/~coz/


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