INSTINCT

ハーモニーベイの夜明け
   ―INSTINCT―



はたして人は進化の最終段階として誕生したのか.......
  それは取るものの神話にすぎない.........

アンソニー・ホプキンス主演の『ハーモニーベイの夜明け』は人として生きることを問う作品です。

この作品のヒントになった本がここにあります(1994年5月の初版本です)
VOICE出版の「イシュマエル 人に、まだ希望はあるか」(ISBN4-900550-34-5)です。
この本はダニエル・クインの著書でテッド・ターナー賞を受賞しています。

この本が直接、映画の内容になったのではありません。

プロデューサーのマイケル・テイラーとそのパートナーのバーバラ・ボイルがこの小説「イシュマエル」に深く感動したことにはじまり.......

「イシュマエル」を読んで「考えさせられると同時に、胸がしめつけられるようで、実に感動的な体験だった」と語る脚本家のジェラルド・ディペーゴの手によって映画化は無理と思われた小説は、別のキャラクターを使い、映画的なまったく違うアプローチによるストーリーを構築し、その中に小説の中のメッセージを残すという形をとる脚本として出来上がったそうです。

出来上がった脚本は製作総指揮のウォルフガング・ペーターゼンとゲイル・カッツにより、さらに改稿されジョン・タートルトーブ監督が自分ならこの脚本を生かせると名乗りで出たそうです。
(参考:『ハーモニーベイの夜明け』オフィシャルサイト&DVDより)

イシュマエルと聞いて聖書との結び付きを感じる人も多いでしょう。
この著書の中でイシュマエルというのはオスのローランドゴリラの名前です。
しかし、このイシュマエルという名前をつけてもらう前の名前はゴリアテといいます。
ゴリアテと聞いてナチの戦車や天空の城ラピュタを思い浮かべる人もいるでしょう。
巨大なもののとして登場することが多いような気がします。

人類を「取るもの」と「残すもの」に分け(これは文明人と呼ばれる人たちと未開人と呼ばれるひとたちでもあります)、その起源、そして行方が、教師イシュマエルと一人の生徒による禅問答のような形で語られていき謎解きをしながら答えを引きだし物語が作られていきます。

それは哲学であり、聖書の解読であり、進化論であり、様々な宗教であり、思想であり、自分たちが何者であるのか? 何をすべきなのか? と解き明かしていく話しなのです。

様々な禅問答のように語られていく話しの中に引き込まれ「取る者」と「残す者」を意識し、そして最後には衝撃をうけ、「何か」が分かったような気持ちになる作品です。その「何か」は、読むひとそれぞれの「何か」なのだと思います。

この本を読んでいて、以前からずっと疑問に思っていたことのヒントを少なからず得たような気がします。

ずっと以前からとても疑問に思っていたこと、それは人類の奢り高ぶった意識と進化についてです。

地図を見ていて(日本が中心の地図ではない世界地図です)アフリカの大きさに驚いたことがあります。
そして、考えてみたら人の起源はこの大きな大陸アフリカではないか......そしてこの地で文明が生まれ、それはチグリス・ユーフラテスの肥沃な三角地帯中東に移りさらに北に広まっていった。
農耕を始めたことで文明が生まれます。文明とはいったいなんなのか?
文明人といわれる人はいったい何者なのか?何をしたのか?

「イシュマエル」........
この本を読んだ時、これが予告で観た『ハーモニーベイの夜明け』の映画のどこにつながっていくのかが不思議でした。
そして『ハーモニーベイの夜明け』を観た時、本当にまったく違う話しなのに、「イシュマエル」の残したメッセージがしっかりと組み込まれていることを感じました。

『ハーモニーベイの夜明け』.......
2年前から行方不明となっていた高名な人類学者であり霊長類学者のイーサン・パウエル(アンソニー・ホプキンス)はルワンダの密林の奥深くでゴリラと行動を供にしているところを発見されます。その発見時レンジャー部隊2人を惨殺したことでアメリカへ強制送還されます。
パウエル博士は全米最悪の重罪犯刑務所「ハーモニーベイ」に投獄され精神異常者用の施設に隔離されます。功名心から何も話そうとしないパウエル博士の精神鑑定人として名乗りをあげたマイアミ大学の若き精神科医テオ・コールダー(キューバ・グッテイングJr.)が何故このような殺人を犯したのか?何故ゴリラと供に行動していたのか?とパウエル博士の精神鑑定をハーモニーベイ刑務所で始める.........

と、いうものですが

「取る者」を「奪う者」として表現し、精神異常者とされた犯罪者たち、それを支配する看守長のダックス(ジョン・アシュトン)を通じて、奪う者すべての本質「支配欲」を表現しています。
隔離された施設の中で、少しの時間外へ出られる楽しみ、隔離された中でも、空に触れ風や空気を感じることの出来る空間への憧れと、ささやかな自由。
支配欲の塊の人間から、みんなのちからで逃れる時(このシーンはとても感動的、このシーンとラスト一つ前のシーンがとても好きです)
そして、本当の自由とはなんなのか?

パウエル博士の苦しみと怒りを知ったとき胸が痛みます。
ゴリラと行動を供にしてケモノになったと言うテオの恩師ベン・ヒラード(ドナルド・サザーランド)。
ケモノになったのでは無くヒトとしてゴリラに受け入れられたというパウエル博士。
雨を受けて自然の中に溶け込み雨の恵みを厄介なものと思わなくなったときの満たされた気持ち。

アンソニー・ホプキンスの演じるパウエル博士の回想に惹き込まれ、ゴリラたちと一緒に行動していたときの喜びに触れ、そしてその後の怒りと哀しみに触れる。

そんなことを感じながら、いつのまにか「イシュマエル」のメッセージを受け取っている自分に気がつきます。

この作品でアンソニー・ホプキンスをはじめとして俳優陣も目を惹きますが、やはりなんといってもゴリラたちです。このゴリラたちはスタン・ウィンストンが手掛けています。
「スタン・ウィンストン・スタジオ」が作りだしたゴリラたちは本物かと思うほど愛情に満ちたものでした。


監督…ジョン・タートルトーブ
製作総指揮…ウォルフガング・ペーターゼン、ゲイル・カッツ
製作…マイケル・テイラー、バーバラ・ボイル
原案…ダニエル・クイン著「イシュマエル」
脚本…ジェラルド・ディペーゴ
撮影監督…フィリップ・ルスロ
編集…リチャード・フランシス=ブルース
スペシャル・キャラクター・エフェクツ
   …スタン・ウィンストン(スタン・ウィンストン・スタジオ)
音楽…ダニー・エルフマン

<CAST>
イーサン・パウエル…アンソニー・ホプキンス
テオ・コールダー…キューバ・グッテイングJr.
ベン・ヒラード…ドナルド・サザーランド
リン…モーラ・ティアニー
看守長のダックス…ジョン・アシュトン
刑務所の精神科医マレー…ジョージ・ズンザ

更新日 2000.12.18 ADU

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