津山が誇る鉄道文化遺産 〜旧津山機関区 扇形機関庫〜

美作河井駅 転車台の概要


2007/04/23開設 2017/05/03改訂
美作河井の転車台
旧美作河井転向給水所 転車台
■ プレートガーダー部分
製造年不詳
製造所不詳
構造バランス型上路式(中央支承:半球6本ボルト)
回転方式手動
桁の全長約12.19メートル(40フィート)
■ 全体部
設置年不詳(昭和11(1936)年〜昭和17(1942)年の間か?)

■ 美作河井駅の沿革

津山市北部、鳥取県境に程近い因美線・美作河井駅には、 今となっては非常に貴重な転車台が現存しています。

急行「砂丘」が走っていた頃は、静かな山間のタブレット交換駅として有名だった美作河井駅。
開業は昭和6(1931)年9月12日で、当時は鳥取と津山を結ぶ因美線のうち、 津山から延びる因美南線の終点駅でした。
翌、昭和7(1932)年7月1日の智頭−美作河井間の開業によって、因美線は全線開通。
全通後は貨物の積み出し駅として、 また旅客列車・貨物列車の折り返し駅としても賑わいました。
さらに冬場には、鳥取方面からのラッセル車の折り返し駅としても機能していました。
こうした折り返し列車の方向転換・給水のため、 美作河井駅には転車台や給水塔などを備えた津山機関庫所管の転向給水所が設けられたのです。 (参考資料1)

しかし、ディーゼル車の登場などで転車台での方向転換や給水が必要なくなると、 転向給水所も廃止となり、その後、貨物営業なども廃止され、徐々に賑わいが失われていきました。
美作河井は因美線で行われていたタブレット閉塞の閉塞駅だったため、 運転扱いの駅員配置は続いていましたが、平成9(1997)年11月の急行「砂丘」廃止により、 タブレット閉塞の区間見直しが行われ、美作河井駅でのタブレット交換と駅員配置も廃止、 ついに無人駅となりました。

美作河井駅を管轄する組織は、開業から昭和25(1950)年までは岡山運輸事務所 (昭和17(1942)年以降は岡山管理部)、昭和25年から平成3(1991)年までは米子鉄道管理局 (昭和63(1988)年以降はJR西日本米子支社)、平成3年以降はJR西日本岡山支社 (津山鉄道部)となっています。

美作河井駅
美作河井駅は、山間の静かな駅。

■ 美作河井駅転車台の概要と特徴について

美作河井駅に現在でも残されている転車台は、転向給水所が開設された当初のものと思われます。
この転向給水所は、智頭駅に設けられていた仮設の転車台、機関車庫等 (因美線全通まで、智頭駅は因美北線の終点駅だったため設けられていた。(参考資料2))が 撤去されたことに伴い、転車台等を移設の上、昭和11(1936)年から昭和17(1942)年の間に開設されたものと思われます。

転向給水所の廃止以降、給水塔などの周辺設備も撤去され、転車台のみ放置された形で、 ピット内に木が生えるなど荒れ放題の状態でしたが、 平成18(2006)年12月、津山鉄道部により樹木の伐採が行われ、 転車台の姿が明らかとなりました。

この転車台は、ピットの直径が約12.4メートル、桁の全長が約12.19メートル(40フィート)の、 上路式転車台です。
この転車台の特徴は、その構造や全長などにあります。

この転車台は、津山駅の転車台と異なり、手動で(人力で)回転させる方式です。
美作河井駅の転車台は、一日の使用回数が少なかったため、手動による回転方式が採られていたと 思われます。
ちなみに、近隣に残る転車台の中では、若桜鉄道(旧国鉄若桜線)の若桜駅(鳥取県若桜町)に残る転車台 (昭和5(1930)年・川崎車輌製、50フィート上路式)も、手動による回転方式です。

美作河井駅の転車台では、レールが載る左右の桁は、中央支承の部分と、桁の両端部分でつながっており、 その他の部分では、左右の桁をつなぐ部材はありません。
この形態は、各地の転車台で見られるような橋梁構造とは異なっています。
この中央支承部分は、上から見るとX字状になっており、 その4端と左右の桁がボルトで固定されています。
また、その中心部分は半球状の形態をしており、 この半球状の部分の周囲を囲むように、6本のボルトが取り付けられています。
こうした形状の転車台で、桁の全長が40フィートのものは、明治期に外国から輸入された転車台であると されています。(参考資料3)
美作河井駅の転車台では、製造銘版、製造所等の刻印が確認されておらず、製造時期等も不明ですが、 上記の特徴的な形状から、明治期に輸入された転車台の可能性が高いと考えられます。

転車台の中央支承部分
桁端の車輪部分
左の画像は、美作河井駅の転車台の、中央支承部分から桁端にかけて撮したもの。
X字状に広がり、半球形の中心部分の周囲を6本のボルトが取り囲む、特徴的な中央支承。
また、左右の桁をつなぐ部材は、中央支承と桁端以外にない。
右の画像は、その桁端部分。
左右の桁をつなぐ部材の延長に、車輪が取り付けられている。

■ 特徴の類似する転車台について

国内に現存する転車台のうち、こうした形状の40フィート転車台は、ここ美作河井駅の転車台と、 津軽鉄道の津軽五所川原駅(青森県五所川原市)・津軽中里駅(青森県中泊町)にある転車台を除いて確認されていません。
同様の形状をしている転車台としては、愛知県犬山市にある博物館明治村の明治村東京駅に設置されている 旧尾西鉄道の転車台がありますが、明治村に移転される際、桁の長さを短くするなどの改造を受けており、 桁の元の長さなどの詳細は不明とされています。

この明治村東京駅の転車台について、 中部産業遺産研究会の方々が平成14(2002)年から平成16(2004)年にかけて調査を行った結果、 桁の元の全長は推定40フィートとの結論が出されています。
またこの調査結果の中で、明治31(1898)年には、それ以前に設計された40フィート転車台の図面化が行われており、 明治村東京駅の転車台の形状もこの図面に似ていること、 明治初期の古写真に外観が似ている転車台が写っていることなどから、 明治村東京駅の転車台は、国内に現存する最古級の転車台の可能性があるとしています。
さらに、国内に現存する転車台では、他に40フィートのものが確認されていない、などのことから、 明治村東京駅の転車台は、明治初期の転車台の可能性がある唯一のものであると結論付けています。 (以上、参考資料4)
この中部産業遺産研究会の調査の段階では、美作河井駅などの40フィート転車台の存在が知られていなかったため、 このような結論に至ったものと思われます。

明治村東京駅の転車台
明治村東京駅転車台の中央支承部分
左の画像は、明治村東京駅の転車台の全景。
右の画像は、その転車台の中央支承部分。
桁の構造や中央支承の形状など、美作河井駅の転車台と似ていることがわかる。

また、津軽中里駅に現存する転車台は、バランス型上路式で、桁の長さは実測で約12.66メートル(約41フィート6インチ)。
X字状に広がった中央支承の中心部分が半球形となっている点、その半球形の周りが6本のボルトで囲まれている点、 及び桁や桁端車輪の形状など、美作河井駅の転車台、明治村東京駅の転車台と似ています。
また、明治31年に図面化された40フィート転車台の図面とも似ています。
しかしながら、この津軽中里駅と津軽五所川原駅の転車台は、昭和初期に国内で製造された転車台の可能性があります。
津軽鉄道への転車台設置は路線建設前に既に決まっており、開業前の昭和3(1928)年6月、 津軽鉄道と株式会社石井鉄工所との間に、鉄桁、転車台、ポイントクロッシング等の購入契約が結ばれています。
(レールについては、旧陸奥鉄道(五能線)に敷設されていた明治期の輸入レールの払い下げを受けています。)
津軽中里駅への転車台設置は、当初は昭和5(1930)年11月の開業にあわせて行われる予定でしたが、 建設工事が遅れから、開業の後に設置されています。(以上、参考資料6)
現在も津軽五所川原駅と津軽中里駅に残っている転車台が当初からのものであれば、 明治期に作成された転車台の詳細図面に準拠している40フィート転車台でありながら、 上記の契約に基づいて昭和初期に国内で製造・納入されたものである可能性が高いことになります。

津軽中里駅転車台の全景
津軽中里駅転車台の中央支承部分
左の画像は、津軽鉄道津軽中里駅の転車台の全景。
右の画像は、その転車台の中央支承部分。
ピット内部は荒れており、桁が回転しないようにレールなどを固定されているため、 現在は転車台としてではなく、橋梁のように使用されている。
桁の構造や中央支承の形状などは美作河井駅の転車台と似ているが、 この転車台は昭和に入って製造されたものの可能性がある。
鎖錠装置や押し手、桁の両横にあった歩み板の支持部材などは失われている。
(いずれも'07年6月撮影)


■ 美作河井駅転車台の持つ価値について

美作河井駅の転車台は、細部に違いはあるものの、明治村東京駅の転車台に似ており、 明治村東京駅転車台の調査結果で示された、明治31年以前の40フィート転車台の図面、 及び明治初期の古写真の転車台、双方に酷似しています。
美作河井駅の転車台は、その詳細な来歴が明らかにはなっていないものの、 上記の結果から、国内に現存する最古級の転車台である可能性があることになります。
また、国内に現存する40フィート転車台が他にないとすれば、 国内に現存する40フィート転車台は、明治村東京駅の転車台、美作河井駅の転車台、 津軽五所川原駅の転車台、津軽中里駅の転車台の4例のみということになり、 さらに、完全な形状で残っているものとしては、美作河井駅の転車台が国内で唯一のものと言えるでしょう。

我が国の鉄道創成期に設置された転車台については、これまでその構造、全長などの詳細はわかっていません。
しかし、転車台に載る機関車の構造が発達し、タンク型からテンダ型へ、またその全長が長くなるに従い、 転車台の桁の長さも増していったとされています。
また、国鉄の資料においては、明治期に40フィート、50フィートの転車台がイギリス、アメリカから輸入され、 国産の転車台としては、明治42(1909)年に製造された50フィートのものが最初であるとされています。 (以上、参考資料3)
つまり、桁の長さが40フィートの転車台は、外国からの輸入品の可能性が高く、 かつ50フィート転車台よりも古いものである可能性があることになります。

現在、日本に現存する最古の転車台は、国の登録文化財となっている大井川鉄道千頭駅の転車台 (明治30(1897)年イギリス製・新潟県の旧赤谷線東赤谷駅からの移設)とされ(参考資料5)、 また、長良川鉄道北濃駅の転車台(明治35(1902)年アメリカ製・岐阜駅からの移設)も、 国の登録文化財となっています。
しかし、いずれも桁の長さは50フィートです。

以上のことから、美作河井駅の転車台は、明治期に輸入された転車台の可能性、 さらに国内に現存する最古の転車台の可能性を秘めた、非常に貴重な転車台であると同時に、 鉄道の歴史を示す貴重な「産業遺産」でもあるのです。


■ 美作河井駅の転車台が、JR西日本の「登録鉄道文化財」
及び 経済産業省の「近代化産業遺産」に認定されました! ■

美作河井転車台(看板入)

転向給水所が廃止されて以降、放置されて荒れ放題となっていた美作河井駅の転車台が整備されたのは、 平成19(2007)年。
前年12月にピット内や周辺の樹木が伐採された後、ピット内の土砂の除去や桁上の枕木・レールの最設置、 案内板の設置などが、平成19(2007)年4月にかけて行われました。
これは、同年4月〜6月にかけて岡山県とJR6社がタイアップして行われた大型観光キャンペーン 「岡山デスティネーションキャンペーン」に合わせ、津山駅の扇形機関庫・転車台とともに 地域の貴重な近代化遺産でもあるこの転車台の「掘り起こし」を行い、保存活用していこうと行われたもの。
平成19(2007)年4月28日には、 鉄道ファンのボランティアの手によってピット内の土砂を除去する「発掘イベント」も行われました。
整備されたこの転車台は、常時見学が可能となっており、多くの方々が見学に訪れています。
こうした中で、この転車台の貴重性などが認められ、平成20(2008)年10月にはJR西日本社内での「登録鉄道文化財」に認定され、 さらに平成21(2009)年2月には、経済産業省の「近代化産業遺産」に認定されました。
全国的にも貴重な遺産として、この転車台は今後も保存整備が続けられていくことになっています。


※このページの作成にあたっては、以下の資料を参考にしています。
1.米子鉄道管理局『米子鉄道管理局史』 昭和38年
2.鉄道省米子建設事務所『因美線鳥取智頭間建設概要』 大正12年
3.日本国有鉄道『鉄道技術発達史 第二編 施設 V』 昭和34年
4.橋本英樹、土橋文明、夏目勝之、白井昭『明治村東京駅転車台』
    (シンポジウム「日本の技術史をみる眼」第22回 講演報告資料集
     平成16年 中部産業遺産研究会)
5.中部産業遺産研究会『中部産遺研会報 Vol.2』 平成14年
6.津軽鉄道株式会社『津軽鉄道六十年史』 平成5年

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美作河井駅の転車台は駅構内(JRの敷地内)にありますが、現役設備ではなく、 常時見学可能です。
(美作河井駅は無人駅です。)
最近では、この転車台を見に訪れる方も増えてきていますが、 線路横断など危険な行為は行わないで下さい。
転車台と駅舎は線路を挟んで反対方向にありますが、 駅構内には踏切や警報機などもなく、また定期列車以外に臨時列車が通過する場合もあります。
転車台へのルートとしては、若宮神社参道(矢筈山登山道)があります。
このルートの入口は、駅舎前の坂を下る途中にありますが、もともと登山道などのため、 足下が悪く、夏場は草が茂っている場合がありますので、ご注意下さい。
また転車台周辺でも、足下が悪い所や草が茂っている所などがありますので、十分ご注意下さい。
住民の方やJRの方のご迷惑にならないよう、節度を守って見るようにしましょう。


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