▼ タブレット閉塞とは
タブレットとは、直径約10cm、厚さ約1cmくらいの丸い砲金製の板のことで、
その中心には、丸や三角、四角といった形の穴があいています。
このタブレットは、単線鉄道における、いわば「通行証」なのです。
線路が一本しかない単線の鉄道においては、運転本数が増えてくるにしたがって、
当然ながら路線の途中で、上り列車と下り列車がすれ違わなければなりません(これを「交換」という)。
しかし、単線であるため駅と駅の間ですれ違うことが出来ず、
待避線(「交換設備」とも言う)のあるような規模の駅ですれ違うことになります。
駅ですれ違った後は、列車はそれぞれの目的地へ進行できるわけですが、
このとき、列車の進行方向には、次の交換施設のある駅まで、対向列車がいないことが前提となります。
そうでなければ、列車同士が正面衝突するという大事故になってしまいます
(実際に滋賀県の信楽高原鉄道で列車衝突事故が起こった)。
事故を防ぐためには、交換設備のある駅同士の間の区間に入れる列車を、確実に1本のみとしなければなりません。
そのために、路線を交換設備のある駅ごとに区切り、その区間に入るための「通行証」を1つ発行し、
それを列車に携行させるという方法をとります。
つまり、「通行証」が1つしか発行されないために、その「通行証」を携行している列車のみが、
その区間に入れることになり、衝突事故は防げるということになります(これを「閉塞」という)。
この「通行証」の一つが、タブレットであり、タブレットを使った閉塞方式が、タブレット閉塞です。
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▼ タブレットの使用方法
タブレットを使った閉塞方法は、19世紀にイギリスで考案された古典的保安方法であるため、
その作業全般が人の手によって行われます。
以下に、例を挙げて説明します。
まず、単線の路線における閉塞区間を設定します。
この場合、@、A・・・と置きます。
そして、それぞれの区間にタブレットを割り当てる。
タブレットは、それぞれの区間のものが一緒になってしまわないように区別する必要がありますが、
タブレットの中心にあいている、○や△といった穴で区別をすることが出来ます。
この場合、区間@には○のタブレットを、区間Aには△のタブレットを割り当てることにします(以上、図1)。
図1
次に、これらの区間に進入する列車に、タブレットを携行させます。
区間@に、列車aが進入するとします。
列車aは、区間の入り口となるA駅でタブレットを受け取り、区間@への進入許可を貰った上で、
区間@へ進入します(以上、図2)。
図2
次の区間Aの入り口となるB駅に到着すると、これまで携行してきた区間@のタブレットを、
これから先の区間Aのタブレットと交換し、区間Aへの進入許可を貰った上で、区間Aへ進入します。
後はこれの繰り返しです(以上、図3)。
図3
なお、タブレットは、列車に携行させるときは、タブレットキャリアーという、
直径50cmくらいの輪に収納ポケットがついたものに納めて使います。
通常はこのタブレットキャリアーを含めて、「タブレット」と呼びます。
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タブレットキャリアー
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タブレットの交換風景
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以上は、列車1本のみでタブレットの受け渡しをする場合ですが、
列車が2本になった場合、つまり駅で上り下りの列車がすれ違う場合には、
次のようにタブレットの受け渡しをします。
まず、区間@を、A駅からB駅に向かって列車aが進行し、
区間Aを、C駅からB駅に向かって列車bが進行しているとします(図4)。
図4
先にB駅に到着したのは列車aであり、このとき、列車aは区間@のタブレットをB駅に渡し、
対向列車が到着するのを待ちます。
列車bがB駅に到着すると、列車bは区間Aのタブレットと、列車aが携行していた区間@のタブレットを交換し、
区間@への進入許可を貰い、B駅を出発します。
列車bが出発した後、列車aは、列車bが持っていた区間Aのタブレットを受け取り、
区間Aへの進入許可を貰い、B駅を出発します(以上、図5)。
図5
以上、タブレットの使用方法について述べてきましたが、現在、このタブレット閉塞を用いている線区は、ほとんどありません。
このタブレット閉塞は人手による古典的保安システムであるために、経営的に見れば、
非常に効率の悪いシステムということになります。
従って、現在では単線区間でも、このタブレットと人手の代わりをコンピュータが行う、
特殊自動閉塞や自動閉塞という方法をとるところが圧倒的に多くなっています。
現在では、このタブレット閉塞を採用している線区は、JR因美線の智頭−東津山間や木次線、只見線など、
数路線です。
因美線 東津山−智頭間で行われていたタブレット閉塞は、
99年12月をもってCTCによる閉塞に切り替えられ、因美線におけるタブレット閉塞はその幕を閉じました
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▼ 「砂丘」の因美線通過方法
以上に見てきたように、因美線は、現在となっては非常に珍しい保安システムをとっているのですが、
優等列車である急行「砂丘」が、この因美線を経由していたため、その通過方法が近年、非常に注目を集めていました。
普通、タブレット閉塞区間では、設定された閉塞区間の出入口に当たる駅には停車をし、
駅員とタブレットの受け渡しをする方法をとります。
しかし、その閉塞区間の出入口となる駅が、特急・急行などの優等列車の通過駅であった場合、
停車してのタブレットの交換は出来ないことになります。
従って、このような場合には、列車を通過させながら、タブレットを交換する方法をとります。
まず、通過列車が各閉塞区間の出入口となる駅に接近すると、列車は減速を行います。
駅のホームの先端には、通過しながらタブレットを受け取るための受け器、
終端には、同じく通過しながらタブレットを渡すための授け器と呼ばれる、二つの設備が据え付けられており、
通過列車は、駅のホームの先端にさしかかると、乗務員が、まず、それまで携行していたタブレットを、受け器に投げ入れます。
ついで、ホームの終端にさしかかったところで、乗務員が腕を伸ばし、授け器に取り付けられた、
次の区間のタブレットをすくい取ります。
このとき、授け器に取り付けられるタブレットは、駅の係員が、事前に取り付けるものです。
そしてこれら一連の作業を行い、駅を後にした列車は、再び加速します。
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タブレットの”投げ入れ”
92年10月 美作河井駅
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タブレットの”すくい取り”
92年10月 東津山駅
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因美線では、智頭急行線開通に合わせて、93年9月に、智頭−鳥取間を特殊自動閉塞に切り替えました。
しかし、東津山−智頭間は、従来通りタブレット閉塞を採用しており、閉塞区間は、東津山−高野、
高野−美作加茂、美作加茂−美作河井、美作河井−那岐、那岐−智頭 でした。
このうち、高野、美作河井、那岐の各駅は、「砂丘」の通過駅であり、
これらの駅で、「砂丘」がタブレットの”投げ入れ””すくい取り”を行う風景が見られました。
タブレット閉塞自体が少なくなってしまった近年では、タブレットの”投げ入れ””すくい取り”
を見られるのは、定期の旅客列車では、「砂丘」のみでした。
また、タブレットの”すくい取り”をする時、「砂丘」では二通りの方法が見られました。
一つは、乗務員が腕を伸ばし、タブレットを腕ですくい取る方法。
もう一つは、タブレットキャッチャーという装置を使って、タブレットをすくい取る方法です。
タブレットキャッチャーとは、車両の運転台の側面についている、折畳み式のフックのことです。
このタブレットキャッチャーでタブレットをすくい取る時は、留め金を外し、タブレットキャッチャーを起こしてから、
タブレットをフックに引っかけてすくい取ります。
タブレットキャッチャー
「砂丘」のタブレット”すくい取り”は、運転業務を担当していたJR西日本の鳥取鉄道部と津山鉄道部で方法が違い、
鳥取鉄道部は乗務員の腕による”すくい取り”、津山鉄道部はタブレットキャッチャーによる”すくい取り”を行っていました。
「砂丘」が廃止されてしまった現在、このタブレットの”投げ入れ””すくい取り”は、JR線からは姿を消し、
私鉄2路線の貨物列車で行われているのみです。
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