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★トラスト犬タッチャンからのメッセージ

 今年もサクラソウトラスト地で活動しますので、みなさんよろしくお願いします。
  
 ぼくは昭和生まれの18歳で、人間でいえば百歳以上の老犬です。

 3ヶ月で飼い主の所に来て以来、サクラソウトラスト地のある「荒沢」一帯の自然を守る活動をしている飼い主と共に歩んできました。残念ながら年には勝てず、足も不自由、腰も曲がってしまいヨボヨボです。飼い主はそろそろサクラソウトラスト犬を引退させなければならないと考えているようです。

 でもぼくはサクラソウトラスト地が大好きで、毎週日曜日に行われるイベントの日には、トラスト地に行きたいと飼い主にせがんで連れて行ってもらいます。特に厳しい寒さの続くこの冬、飼い主はぼくを心配で留守番をしていてほしいそうですが…

 役立つことはあまりないかもしれませんが、余生を大好きなサクラソウトラスト地で過ごしたいので、今年もよろしくお願いします。


ぼくは正真正銘の老犬ですが異変があればすぐに行動します。
   
 サクラソウトラスト地のある江川下流域一帯は、昔からずっと様々な開発がとどまることがありません。

 昨年、12月7日、17号トラスト地でボランティアのみなさんが作業中に、200mばかり離れた希少種が自生しているそばに、大勢の人が集まってきて、突然 「やぐら」のようなものを作りはじめました。

 ぼくは長年の経験から「なにか変だな」と思って調べに行きました。作業中のボランティアのみなさんは、一人をのぞいて、ぼくが出かけたことに気づきませんでした。

 囲いがしてあってなにも見えなくて残念! 

 ぼくはこのように、トラスト地にちょっとした異変が起これば、すぐに気づいて行動するのです。
*飼い主から一言。
 タッチャンが一人であれほどの距離を歩くことは、この2年間に一度もありませんでした。ズブズブの湿地を歩き回って調べて、帰ってきた時には足首まで泥だらけ。
 この様子を見ていた人の話では、現場の人々の間を回って歩いて、それから黙々と戻ってきたそうです。
 彼は長年の活動から得た勘で、非常な「不安」を感じたのでしょう。長年彼と行動を共にしていると、私よりむしろ彼のほうが自然破壊には敏感だと思います。

首都圏で最も良好な自然の中で突然の騒動!

彼は大変疲れた足取りでトボトボともどってきました。

ぼくは根っからの自然犬です。
 
 今冬のような記録的な寒さもぼくはヘッチャラです。

 ぼくには「ケアンテリア」というイギリスの狩猟犬の血が流れているせいか、寒い方がむしろ元気です。

 ぼくら「ケアンテリア」は、イギリスで「ケアン」(羊放牧のための石垣)の中にひそんでいるキツネから羊を守るために飼われてきました。飼い主から餌をもらわなくても自給自足で平気、牧場に穴を掘って寝起きをしながら羊をキツネから守ってきたそうで、自分でいうのもなんですが、年は老いてもその血は脈々とぼくのなかを流れています。

 事実若いときにイタチを追いつめて、「自然保護犬にあるまじき行為」と飼い主にひどく叱られたことがありました。

 冬でも太陽が照りつけると木陰が好きだし、烈風吹きすさぶ原野でも平気で寝てしまいます。飼い主が風邪を引かないようにチョッキを編んでくれましたが、実のところじゃまなことが多いのです。

 ぼくの自慢は16歳まで一度も病気をしたことがないことです。
*飼い主から一言
 「ケアンテリア」はイギリスの厳しい自然環境で働いてきた作業犬です。イギリスは北緯50°から60°の間に位置していて、モスクワ、バイカル湖、サハリン、カムチャッカ半島、ハドソン湾などとほぼ同じ位置です。私はバイカル湖とハドソン湾に行ったことがありますが、6月でも天気が悪ければダウンを着ていても耐えがたいほどの寒さです。  
 厳しい自然環境でキツネと戦ってきた仕事がら、頑丈な体と激しい気性の個体だけが生き残ってきたといわれています。
 このメリハリの利いた性格ゆえに、今はイギリスでも飼う人が少なくなっているそうです。私はヨーロッパへ出かけるたびに、ケアンテリアがいるかと気をつけていますが、本場のイギリスで1匹しか見かけなかったし(短期滞在でしたが)、その他ではオランダで1匹見ただけです。
 いわゆる家族犬としてはかなり飼いにくいのは確かです。タッチャンが5歳までに8人を咬んだことからも、その激しい性格をあらわしています。小さな体に不似合いな大型犬並みの牙を持っているのです。
 また、吠えることはほとんどなくて、年老いた今でも自分の気持ちを表すのに「うなる」だけです。特に意に染まない時には、その「うなり」の迫力たるや、飼い主でさえ内心ドッキリすることがあります。
 雄犬同士の喧嘩などは数え切れません。特に大型犬に闘志がわくようで、命がけの喧嘩で大けがをして大変な事態になったことがあります。そのときの傷が口の近くにくっきり残っていて、「歴戦の勇士の勲章」のようです。(タッチャンは体重7キロほどの犬で、小型犬と中型犬の中間ぐらいの犬です。)
 ちなみに人間を8人咬んだといいましたが、その8人目は飼い主の私でした。怒りにまかせて咬んでしまってから「しまった!」と仰天したのか、白い包帯の手を直視することもできず、それ以来咬むことができなくなってしまいました。嘘のような本当の話です。
 「バカヤロー解散」で有名な吉田首相の写真に、ケアンテリアを抱かれているのがたくさんあります。あのぐらいの個性の人しか飼えないのかもしれませんね。
 私が長年自然保護活動を継続できたのも、タッチャンがいつもそばにいて、危険な時にいち早く気づいて、対処できたからであることは間違いありません。機会があれば、彼との共闘の逸話もお知らせできればと思います。

烈風吹きすさぶ原野でサクラソウトラスト地の活動を見守っています。

この日の気温は5度。野焼きが終わった灰の上はふわふわしていて、タッチャンはあまりの気持ちのよさにすっかり寝込んでしまいました。

ぼくはサクラソウトラスト活動の安全のために気を配っています。

 一見ただ昼寝をしているように見えるかもしれませんが、実は大変重要な働きをしているのです。
*飼い主から一言
 トラスト地の冬作業は12月の草刈りから始まります。
 刈った草を刈草置き場に積み上げたり、時には刈草を焼きます。これを「野焼き」といいますが、野焼きは昔からの農法で、春からの植物の芽吹きをよくするための作業です。この農法のおかげで、ヨシは屋根やヨシズの材料としてよく生育し、サクラソウなどの湿地の植物たちは冬の太陽を十分に浴びることで、春には美しく花を咲かせ結実して生き続けてきました。

火の用心もタッチャンの仕事。
野焼きで火をつけるためのマッチの番をしているのです。
「なぜっ?」 。それは野焼きで火をつける人は一人と決まっているからです。以前、あっちこっちで火をつけて火事になりそうになったことがあるので、それ以来、「火をつけるのは一人」と決めました。

野焼きは風を利用して行う農法です。しかし、ひとつ間違えば大変なことになってしまいます。風向きが突然変わるサクラソウトラスト地の野焼きは恐ろしくもあり、一方ではもっと勢いよく燃やしたいという強力な願望がわき出してくるので、ついついあちこちと火をつけてしまうのです。
(C) Saeko Ogawa 2005

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