心に残る言葉−お母さんもみんなとおんなじだ(記:2004年10月1日)


 とおるが小学校3年生の時のこと。

 その頃、とおるは非常に荒れていて(これについてはいつか別に書くつもり) 小学校に行っても授業中教室にいなかったり(一人で廊下に出ていたり、勝手に校舎から出て校庭にいたり・・・) 特殊学級(?って今も言うのかな?)にいることが多かった。 そのことについては先生から連絡をもらっていたし、とおる本人にも聞いていたので私も知っていた。



 それはたぶん11月の参観日の日。

 その頃の私は、仕事に余裕がある時は参観日の日は1日仕事を休み、午前中はたまっている家事をし、 午後は小学校に行くことにしてた。(参観は午後)
 その日は天気は良かったけどずっと外に居るには寒い日だった。
 ハッキリ覚えていないんだけど、たぶん私は2階の掃除をしていて、窓から外にいるとおるを発見したんだと思う。 家のすぐ隣は歩道のある道路で、歩道は縁石だけ高くなっている。とおるはそこに腰掛けていた。
 ビックリした。
 最初は何か忘れ物でもしたから取りに来たのかなぁ・・・?なんても思ったんだけど、 そこに『座っている』んだからそうじゃないことはすぐにわかった。

 慌てて外に出て
「あんた、なにしてんの?」
と言ったら
「帰ってきたんだよ。」
と言ったと思う。

 話を聞くと最初は校庭にいたらしいんだけど、そのうち先生が来たから逃げて、そのまま帰ってきたって。
そんな話をしているとその先生が車でとおるを探しにきた。
(どうやら学校中の先生が学校やら学校周辺を探し回ってくれてたらしい。)
 それまでとおるは教室にいないことはあっても(結構当たり前くらい教室にいなかった) 校庭や体育館とかには居て、小学校の敷地から出ることはなかった。 きっと、その日は参観日だったからとおるも「今日は家にお母さんがいる」と思って帰ってきたに違いなかった。



 とおるは学校を辞めたいと言っていた。(この日よりも前から言ってはいた。) だから私と先生は2人でとおるを『説得』した。
「学校を辞めても勉強はしなくちゃならないんだよ。 お母さんは頭が悪いから勉強は教えられないけど、どうやって勉強するつもり?」
「とおるが学校辞めてずっと家に居ても、お母さんは仕事に行かなくちゃならないから一人になっちゃうんだよ。」
あと、どういう話の展開だったか、よく覚えていないけど
「お母さんも会社に行けば、勉強(仕事)を教えてもらったり、怒られたりしてるんだよ。 お母さんだけじゃなくてみんなそうなんだよ。みんなイヤなこともあるけど我慢してるんだよ。 あんただけじゃないんだよ。」
みたいなことも言ったような気がする。



 結局、先生には先に学校に戻ってもらい、とおるは参観に行く私と一緒に学校に戻ることになった。
 とおるは
「学校を辞めても勉強はしなくちゃならない」
って言われた時に
「そんなのわかってる」
と言ったので、 参観に行く時間になるまで自分の部屋で漢字の書き取りをすることにしたみたいだった。

 黙々と漢字を書いてるとおるの側を行ったり来たりしながら私は家事を続けた。 しばらくして、ふと私はとおるに言った。
「あんたさぁ、黙って学校から帰ってきちゃダメだよ。みんな心配するじゃん。」
そしたらとおるが言った。
「お母さんもみんなとおんなじだ。」

 きっととおるは
「お母さんも全然わかってない」
って言いたかったんだと思う。けど、その気持ちがわかっても、 とおるが本当にわかって欲しい気持ちに対して私がどうしたらいいのかはわからない・・・。



 一度家に帰ってきて満足したのか、参観に行く時には
「お母さん、先に行くよ。」
なんて言ってさっさと私の前を走って行った。



 それまでも、今も、私は子育てに自信があるわけじゃないけど、 たぶん私の中で最も私を凹ませる言葉のひとつだと思う。








 おかげさまでとおるは今も毎日学校へ行っている。私は今も毎日その言葉を噛み締めている。
   


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