「副長副長、ほら、これ!タバコ、タバコ!!」
「え…?ぁ、これ、をどうすれば…??」
「バっカ!副長つったら、アレだろ、ほら、これ!!!」
「えっと…この、黄色い物体は……?」
「マヨネーズっスよ!!」
「まよ、ねーず…」
「そうです!副長の大好物なんですよ!!いつもこぅ…テンコ盛りにして」
「な、何だろう…凄く、心惹かれ……」
「マジっスか?!じゃ、じゃぁ…早速食べ………」


「お〜ぃ、土方さぁ〜ん」


「ん?」
「沖田隊長の声?」
「何だ?」


チャっ


「ゲっ?!」
「ちょっ…沖田隊長?!!」
「ぅわ、あの人バズーカ持ってるぞ!!」
「に、逃げっ…!!」


「まだるっこしい事してねェで、これでとっとと思い出しやがれぃ」


「わっ、ちょっ…!!!」
「沖田隊長!ぉ、俺、俺達も居っ…!!」
「は、早っ…早く逃げっ…!!」



ドカンっっ!!!!!!!!!



10月8日
〜昼過ぎ〜



「いてて…」
「大丈夫か?トシ」
「は、はぃ…何とか」
「総悟も早く思い出して欲しいんだろうな〜。まぁ、バズーカってのは行き過ぎだがな」



あっはっはと豪快に笑うこの人を他所に、俺の全身は悲鳴をあげていた。
あれで擦り傷程度ってのもすげェよなぁ…。



「ぇ、っと…ど、何処行く…んですか?」



騒ぎを聞き付けた、えぇっと、近藤さん…だっけか?
が来て、騒ぎを鎮めてくれた。
一喝したら、蜘蛛の子を散らすみてェにわらわらと皆身を退いた。
そして俺に…



「トシ、出掛けるから準備して玄関に来い」



そう告げた。
出掛ける?何処に?
とにかく言われるまま、俺は部屋を出て玄関に向かった。
玄関で待っていたこの人と合流すると、何を言うでもなく、家を出て。
そして連れられるまま、俺は歩いて行った。



「何処って…ん〜、…トシ、お前記憶取り戻したいだろ?」
「え…?そ、そりゃぁ…」



突如紡がれた言葉にドキリとする。
…そう。
俺は目覚めてから、目覚める前の記憶を失っている。
医者の話だと、一時的な記憶喪失なのか、一生なのは解らないが、日が経てば思い出せる可能性もあるって話だった。
目が覚めてから2日経っているが、俺の記憶が戻る兆候は全くと言って良い程なかった。
一緒に住んでいるらしい、何人かの奴等には「焦る事ない。ゆっくり思い出せば良い」と言ってくれたが…。
…何故だろう。
心の何処かで、「早く思い出せ。時間がない」とランプを点灯させる。
何で急がねばならないのか、何を思い出さなければいけないのか。
それは全く解らなかったが、気がつけばカレンダーを見つめる俺がそこには居た。
カレンダー…?



「…着いたぞ、トシ」
「え…?」



思わず自分の考えに閉じ篭ってしまった俺に、声が掛かり、俺はハっとする。
着いたと言われたその先は…。



「万事屋…銀ちゃん???」



見上げると、そこにはデカデカとした看板に書かれた『万事屋銀ちゃん』と言う文字。
まさか…。



「お、おい、待ってくれ。まさか、ココで治そうってんじゃ…」
「荒療治だが、ここに世話んなるのが一番だろう。医者もきっかけがあれば一気に思い出すかもと言ってたしな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!幾ら何でもそりゃ…!!」
「時間もない事だしな」
「…え?」



幾ら何でも屋でも、人の記憶喪失治すなんて無理だろう。
そう思って静止を掛けた俺だが、「時間がない」との言葉に固まる。
…時間がない。そう、記憶のない俺がいつも思ってる事。
でも何でこの人が…?



「お〜い、銀時!居るんだろ〜?!」



そうこうしている内に、2階へあがって、ガンガンと玄関を叩く。



「銀時〜〜〜??!!!」
「ぁ、ぅ…」



聞きたい。
この人が知っている、「時間がない」って訳。
俺は何か重大な何かを忘れてて。
それを思い出さないと、多分だけど、一生後悔する。
…知りたい。
その理由も。この心の焦燥感を。



「あ〜?んだよ、ゴリラ、うっせェなぁ。んなデケェ声出して、少しは近所迷惑を考え……」
「よっ」
「………何しに来たのよ。土方君連れて」



俺の存在に気づいて、声のトーンが落ちた気がした。



「………………………」



…?何だろう。今何か…??



「依頼だ、万事屋」
「依頼〜??」



…よぉく見て見ると、ソイツは昨日、確か俺の部屋に来た人だった。
万事屋なんてやってんのか。
……………………。
何か、魚が死んだような目ェしてるし、…あの髪型…寝癖、かな?



「何の依頼よ。1つ言っておくけど、幾ら万事屋だって万能じゃねェからな。記憶喪失治せってのは無理だからな」
「解ってる解ってる。依頼内容は、アレだ。…これ」



グイっと腕を引かれ、万事屋の男の前に立たされる。



「え…?」
「……………………」
「トシをな、歌舞伎町巡りさせてやってくれ」
「はぁ?」
「え?あ??」
「巡回でもっともよく周った場所だからな。何か記憶の欠片が落ちてるかも知れん」
「おいおいおいおい。ゴリさんよぉ、冗談も顔だけにしてくれよな。真選組に居て、それでも記憶戻らなかったのに、巡回よくしてたとは言え、歌舞伎町周ったくれェで記憶が戻ると、マジでお前思ってる訳ぇ?」
「思ってねェよ。…ってかお前、顔だけって何だよ?!冗談って!!」
「???」



俺だけが会話についていけてない。
じゅんかい?



「思ってねェけど。…こうでもしねェと、お前。トシと向き合う気もねェどうが」
「…っ!…こんの、ゴリラ…!!」
「はっはっは!…じゃぁな、銀時。トシを頼んだぞ」
「ぁ、コラ!!まだ受けるとは言ってねェだろう!!」
「夕方迎えに来るからな。報酬はそん時に」



じゃぁな、と手を振ってその場を去ってしまった背を見送り、俺はポツンと取り残されてしまった。
ぇ、えーっと、この場合…。



「………………………………」
「………………………………」



2人で会話もないまま、固まってしまう。
こ、この場合…。



「…き」
「…あ?」
「昨日、は…わ、悪かったな。知り合いだった…なんて知らなかったから…」
「………お前」
「え?」
「…嫌、何でもねェ。…チっ、仕方ねーなー」
「あ?ちょっ、何処へ?」



スタスタと歩き始めてしまった男の背に声を掛けると。



「取り合えず依頼だ。仕方ねーから、歌舞伎町周るぞ」
「あ、あぁ…」



…どうやら、この街を練り歩く事、決定らしい。



「お前、自分がどう言う職業に就いてるかは聞いたのか?」
「あ、あぁ…それは……」
「ふ〜ん。…まぁ歌舞伎町は物騒ちゃぁ物騒だからな。お前みたいのが丸腰で歩いてて平気かなぁ」
「……………………………」



それは…どう言う意味だろう。
俺は…真選組は。
街を守る為に、色々と働いてると聞いた。
それなのに……



「ばっか。んな不安そうなツラしてんじゃねェよ。…大丈夫だよ。いざとなったら俺が守ってやっから」
「…別に、不安になって思ってない」



コツンっと叩かれハっとなる。
別に不安に思った訳じゃない。
けど。
守るってのは、やっぱ綺麗事だけじゃないんだな、と思っただけだ。



「…随分」
「へ?」
「随分知ってるみたいだな。…真選組の事」
「あ…あ〜、まぁ…な。偶然ちゅうか、まぁ、な」
「…俺と」
「ん?」
「俺とアンタ、親しかったのか…?」
「…………………………」



記憶を失った俺を、奴等は決して外には出さなかった。
「副長が記憶喪失なんて解ったら、攘夷志士の奴等に何されるか解ったもんじゃない」
と、家から一歩も出してもらえなかった。
それがどう言う意味かは解らなかったが、どうやら俺をこの状態で外に出すのは危険らしい、ってのは解った。
でも今日は出してもらった。
それもどうやら、この男が信用出来るからなんだろう。
じゃなきゃ、わざわざ危険を冒してまで、俺を外に出したりしないだろうし。
話を聞いて、どうやら真選組とこの男は結構深い関係らしいし。
…考えてみれば、昨日居たのも、もしかしたら俺の記憶に関係してかも知れない。
……とすると、この男と俺は、結構親しかったりする?



「…ゴリ……近藤には何て聞いてるんだ?」
「…何も。昨日、アンタが来て、誰なのか聞いたら、それはアンタから聞けって」
「…ふ〜ん」



短くそう答えて、男は口を噤んでしまった。



「あ、の…」
「…仕事上」
「…え?」
「仕事上だけ。…ほら、俺万事屋なんてやってっからさ。色々キナ臭い仕事にも関わってて、お前の仕事上関係しちゃったって。そんだけ」
「……そう、か」



短く告げられた関係に、俺はがっかりとした。
…がっかり?
何で俺はがっかりしているんだろう。
記憶の糸口を見つけられなかったから…?
…そう。そう、だよな。



「ほれ。ココがよくお前が巡回してたトコ。ここは歌舞伎町の風俗とかが集まっててな。まぁ、取締りのし甲斐があったつうか」
「……………………………」
「…何か思い出せた?」
「…否…何も…」
「まぁ、そうだろうね。…さぁ〜て後どっかあったかなぁ」




俺の回答に、さも当然と言った感じ。



「…ないのか?」
「え?」
「俺、が…その、よく行ってた場所、とかないのか?」



もっと…こぅ、何て言うか、よく言ってた場所とかの方が良いと思った。
だからそう言えば、男は微かに驚いた顔を見せてから。



「…そうだな。まっ、テメェのよく行く場所なんて、んなに数ねェけど」



ニっと笑って、また歩き始める。



「ど、何処か解るのか?」
「あ?あ〜まぁ、な」
「………………………………」



…やっぱり。
コイツはあんま親しくねェみてェな事言ってたけど、結構親しいんじゃねェか?
じゃなきゃ、俺がよく行く場所なんか解りっこない。
別にカマ掛けしてた訳じゃねェけど、俺は自分の直感が正しかった事が解った。
…でも。
じゃぁ何でコイツはそれを隠してる?
何か不味い事でもあるのか?



「な、なぁ…」
「ココ。お前がよく行ってた飯屋な」
「あ、あぁ」
「寄ってくか?」
「ぃや…腹減ってねェし」
「そっ。…じゃぁ次な」
「あ、あぁ」



答えを聞こうにも、どう聞いて良いのか解らない。
本当は親しいんだろ?
でもそう聞いても、かわされる気がする。
じゃぁ、一体どう聞けば…?



「ココ。お前がよく休みん時に来る、映画館」
「お、おぅ」
「今は、え〜っと…『ヤクザvsエイリアン2』だな。見るか?」
「も、物凄く惹かれるが、今はやんなきゃいけねェ事があるから」
「あっそ。…んじゃ、次は―…」
「ちょ、ちょっと待て!!」
「お前がよく行く……って、え?何だよ??」
「…お前、本当は………」


「見つけたぞ、土方十四郎!!!」


「俺と……って、え?」


気がつくと、何人かの奴等に囲まれて居て。
な、何だ??
土方って…俺の事、だよな??



「へっへっへ、丸腰で歩いてるなんざ、随分不用意だなぁ」
「流石の真選組副長も、オフの日にゃぁ腑抜けるかぁ?!」
「ここで遇ったが運の尽きだなぁ!!」
「覚悟しろ!!」
「え?あ?」
「…ぁっちゃぁ〜。も〜…そう言う面倒事に銀さん巻き込むなよなぁ…」
「え?あ?ん??」
「はぃはぃ。土方君はそこに居てね」
「あ?あ、あぁ…??」



俺の、知り合い…??



「んだ、テメェは?!」
「関係のねェ奴は引っ込んでろ!!」
「テメェから殺されてェのか?!」
「あ〜もぅ。弱い奴等程、デカい口叩くってね。良いから掛かって来いよ。銀さんね、今とっても虫の居何処が悪いの」
「あぁ?!!」
「んだと、テメェ!!」
「構わねェ!やっちまえ!!」



チャキっと真剣を向けたかと思ったら、一斉に飛び掛った。
コイツはコイツで呑気に木刀なんざ構えて。



「ばっ…!!」



馬鹿野郎!!!木刀が真剣に勝てるか!!!
俺はそう思って、止めに入ろうとした時。



ガキン!
ガッ!!
ザシュっ!!!

ザンっ!!!!




「なっ…!!!」



目にも留まらない速さで。
飛び掛った奴等が次々と地面に平伏す。
何…した?今…。



「…ふぅ」



一息吐くと、ソイツは帯に木刀を収めて。



「んな弱ェのに、多串君に挑もうなんて無謀だよ。銀さんで良かったね〜多串君だったら、君達惨殺決定だよ?」
「………………っげェ」
「はぁ〜。またこんな事あるかも知んないから、もう帰ろうっか?」
「…す、っげェ…」
「…………………………………」
「アンタ…一体何者なんだよ…?」
「……万事屋だよ。ただの」



そう言って歩き始めた。



「お、おい…!何処行くんだよ?!」
「だから帰るんだよ。またこんな事あるかも知れねェだろうが」



…確かに。
奴等はどうも俺を狙って来たらしい。
これだけとは思えねェ…。
けど。けど…!



「ま、待ってくれ!!」
「あ?」
「まだ…まだ周りきってねェだろう?!」
「あ…?」
「…引っ掛かってるんだ」
「…は?」
「心の何かが叫んでんだ。『思い出せ。時間がない』って」
「……………………………」
「また…こんな事、あるかも知れねェけど…。…もう少し、もう少しだけ付き合ってくれねェか!!」



自分でもよく解らなかった。
街を周って何か思い出すとは思えなかった。
でも気がついたら、俺はそう叫んでいた。



「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「…はぁ〜わぁ〜ったよ」
「じゃぁ…!」
「あぁ。もうちょっと、歌舞伎町探索に付き合ってやるよ」
「あ、有難う…!」
「よ、止せよ。テメーに礼言われると寒気が走る」
「何で?」
「嫌、何でって言われても……」
「なぁ、やっぱ思うんだが、俺とお前は親しかったんじゃねェのか?」
「親しくねェよ!!!アホな事言ってんじゃねェよ!!!」



……銀時の誕生日まで、後2日……






2006/12/01UP