10月9日
〜早朝〜



「…よし、忘れ物なし」



小さな手提げ鞄に物を積める。
…多分使う事はないだろうけど。



「一応新八に書き置きして…と」



10日未明に帰るんで、その間神楽を宜しく、と。
よいしょ、と然して重くもない鞄を持って家を出る。
ぁ、しまった。



「…時間の約束してねェじゃん」



ターミナルで待ち合わせって事しか約束してない。



「まぁ…来やしねェ、か…」



例え時間を約束していたとしても。
土方は来ないって、…解ってる。
解ってる癖に。
大概諦め悪いね、俺も。



「…これが…最後…」



でもこれが最後。
10日が過ぎて、アイツが現れなきゃ…。



「……神様」



…今まで祈りを捧げた事なんかねェけど。
もし…もし本当に居るなら。



「…誕生日プレゼントは土方、くれよ…」



俺を好きなアイツじゃなくて良い。
ただ、俺が好きなアイツが良い。
鬼の副長と呼ばれたアイツが良い。
…本当…



「なぁ〜んでこんなに好きかねぇ」



自分でも滑稽に思えるくらい。
何でって思うくらい。
…お前が好きだよ。



『…引っ掛かってるんだ』
『心の何かが叫んでんだ。『思い出せ。時間がない』って』



「うっし、行くか!」



玄関から家を出て。
俺は空を仰ぎ見てから、タっと走り出した。
願わくば、この道を戻る時は。
…今と正反対の気持ちでありますように。










同日
〜昼過ぎ〜



「ぁれ、土方さん?」
「…ぇ?」
「銀さんならもう出ましたよ?」
「え?」
「ぁ、あれ?」
「…………………」
「…………………」



お互い口を噤んでしまうが、俺はようやく口を開いた。



「ぇっと…ごめん、俺今…記憶がないんだ」
「記憶が…?」
「何か事故…らしくて」
「ぇ…?じゃぁ、銀さん誰と…?」
「今居ないのか?」
「居ないって言うか…出掛けるってメモが…僕、てっきり土方さんと…」
「俺と?!っ、何処にだ?!何処に出掛けるってた?!!」
「え?!そ、それは…解りません。けど…温泉に行くみたいな話を…」
「っ、くそ!!」



『仕事上だけ。…ほら、俺万事屋なんてやってっからさ。色々キナ臭い仕事にも関わってて、お前の仕事上関係しちゃったって。そんだけ』


「っ、にがだよ…!」



ずっとずっと気になっていた。
大切な…とても大切な何かを自分は忘れているような気がしてた。
誰に聞いてもそれは解らなくて。
ふと思い出した、家の中以外で会った男。
あの男なら何か知っていると、昨日連れて来られた万事屋を人づてに聞いて向かった。
そして出会った。
万事屋と繋がる糸を。
自分との関係を。
約束をしていたのだ、それが何なのかはまだ解らないけど。思い出してはいない。
だけれども。
行かねばいけないと。
逢わないといけないと。
…じゃぁ何処へ?
何処へ行けばあの男に逢えるのだろう?



「っかんねェよ!」



無我夢中で走った。
街を。街中を走り回った。
ただ…銀髪の、あの男を探して。



「…そう言えば温泉って…っ、ターミナルか!」



会ってどうなるとも解らない。
ただ解るのは、ただの仕事上の関係なんかじゃなかったって事。
一緒に何処か行く仲だって事。
この大切な何かが、奴の事だなんて確証はない。
ないけど、俺の何かが駆り立てる。
万事屋に逢え。
…そう駆り立てる。



「チッ、陽が暮れちまった…」



明るかった周りを闇が支配する。
煌びやかなネオンが辺りを照らすけど、俺の周りは暗く感じた。
光がない。たった独りきりのような気分だ。
駅に着いて。…駅内に入ろうとした、その時だった。



「…居た」



駅の出入り口で。
銀髪が輝いて見えた。



……銀時の誕生日まで、後2時間……






2006/12/06UP