10月9日
〜時刻変更まで後1時間〜
「…居た」
駆け回ったせいで汗が流れる。
土方は流れる汗もそのままに、ゆっくり歩を進めた。
ゆっくり、ゆっくりと…。
「ようやく…見つけた」
「ひじ、かた…」
座っていた銀時だったが、土方の姿を確認し立ち上がる。
しばらく呆然としていたが、ゆっくりと視線を外して。
「…んな都合良くいかねェ、か」
「?」
「何で土方君がココに居る訳?ゴリさんとか心配するよ?」
「…お前を…探してた…」
「俺を?…何で?」
「約束、してただろ?」
「…約束…」
土方から言われた言葉に、銀時はポツリと呟いて。
しかしすぐにパっと表情を変えて。
「誰に聞いたの?それ」
「…さっき、万事屋行ったら…メガネの坊主、に」
「新八、か…」
「俺…覚えてなく、て…ごめん」
「ん〜ん、謝んないで。それ、嘘、だから」
「う、そ…?」
「そっ。…本当はね、恋人と旅行のはずだったの」
「こいび、と…」
「まぁ、見ての通り待ちぼうけ喰らってフられちゃったんだけどね」
「じゃ、んで…俺の名前……」
「ん〜…まぁ、ほら。アイツ等見ての通りお子ちゃまだからな。はっきし言うと色々面倒だから。だから顔見知りの土方君とって事にしてた訳」
「…………………………」
「ぁ、ちゃんと本人許可は取ってるからね〜。…まぁ、記憶ないかもだけど。…だから、どっちかって言うと俺の方がごめんね、紛らわしい事、して」
銀時は苦笑いを浮かべて、そう土方に告げた。
土方は戸惑いの表情を浮かべて、そんな土方を見ながら、銀時は先程座っていた場所に腰を下ろす。
土方も隣に座って。
「…いつからココに居るんだ」
「ん?」
「いつからココに座ってんだ?」
「…朝から。実はさ、時間の約束してなかったから」
「んなに待ってるのかよ。相手に電話、したのか?」
「電話しても出ねェよ」
「何で?」
「何でも」
そう言い切る銀時に、じゃぁ何で今まで待ってるんだ、と口を開こうとした時。
「…そろそろ今日が終わるな。…失恋、決定か」
「…帰ろうとか、思わなかったのかよ?」
「ん〜…」
何処となく空返事の銀時に、土方は溜息を吐いて。
前方を見続ける銀時を真似て、前方を見る。
「…思った、かな」
「それなのにまだ居んのかよ」
「ん〜…でもほら、夜に来たら申し訳ないじゃん」
「それで…この時間かよ」
「まぁ、ね…」
「………………………」
「………………………」
「んなに…」
「ん?」
「んなに、惚れ、てんのかよ…ソイツに」
「惚れてる…か」
「……どうなんだよ」
「そう、だね。…悔しいけど、ベタ惚れ」
「…んなに良い女なのかよ」
「ん〜…それがさ、俺にもさっぱりなんだよ」
「は?」
「眼つきがさ、すっげェ怖くて、常に瞳孔開きっぱなしだし、すぐ暴れるし、怒鳴るし、味覚最悪だし」
「……お前本当にソイツに惚れてんのかよ」
「惚れてるよ〜」
「…全っ然、良い女に聞こえねェんだけど」
問い掛けの回答はあまりにも散々で。
本当にこの男はソイツに惚れているのだろうか、と思い始めた頃。
「…でも、さ」
「……………………」
ほんの少し、微かに銀時の声色が変わって。
「気づいちゃったんだな〜ソイツが、抱えているモンつうの?」
「抱えている、もの…?」
「俺がずっと護れなかった、護っていきたかったモン。ソイツはそれを抱えて、大事だって言い放って」
「…………………………」
「懸命に護ってるの見て、あぁコイツ、俺とは違うんだなって」
「…………………………」
「大事だ、護りたいなんて言うのは簡単だ。でもそれを実行して、それの為に命張れる奴なんてなかなか居ねェぞ?」
「……………………………」
「俺に凄く似てて、でも全然似てなくて。…惹かれたんだろうな、どうしようもなく」
その時。
カチっと。
時計の針が頂点へと達した。
駅の電気が、次々と消えていく。
10月10日
〜1秒過ぎ〜
「あ〜ぁ…」
それと同時に、銀時は立ち上がって。
「ずっと座りっ放しで、銀さん腰痛くなっちゃったよ〜」
「…おぃ」
「タイムリミット。…さぁ〜て、帰ろっか。土方君も早く帰んないと、屯所の皆が心配するよ?」
「っ、お前、それで…っ!!」
荷物を持って何事もなかったかのように立ち去ろうとする銀時を、土方は止めた。
ガシっとその手首を掴んで。
「お前、それでむざむざ諦めっ…!」
その手を掴んで、自身に振り返させた。
無理矢理、自身の方へと振り向かせたのだった。
「っ!」
「…っ、なっ…!」
暗くて。
周りが暗くて。
錯覚だと思った。
「見、んなっ…!」
引き寄せた際に、飛び散った滴。
頬から顎に流れる、その無色透明なその滴は。
頬から滑って、顎から静かに流れ落ちた。
…涙…
「あぁ、もう…くそっ。…すっげェ俺格好悪ぃじゃん」
「おま…泣い…」
「…だから言ったろ。……すっげェ惚れてんだって。んな相手に振られたら泣きたくもなるつうの。あぁ、もう放せ」
パシっと土方に掴まれた腕を振り払うと、銀時はその手でゴシっと流れた涙を拭いた。
そして俯いてしまった銀時に、土方は掛ける言葉もなく、土方も押し黙ってしまった。
真っ暗な駅の中。
2人で立ち尽くす。
「…悪ぃ」
「……謝んないで」
「だ、って…」
「…こっちこそごめん」
俯いていた銀時はパっと顔を上げて。
「八つ当たり、した。…だから。こっちがごめん」
「…………………………」
ニコっと微笑んで、そう言うのだった。
「…………………………」
「…土方君?」
そのまままた黙ってしまった土方に、銀時が近づく。
俯いてしまった土方の顔を覗き込もうとして。
「ぅわっ…!」
「俺じゃ、駄目か?!」
「…は?」
バっと顔を上げた土方に驚いていたら。
その口から紡ぎ出された、言葉。
「俺じゃ、そいつの代わりになれないか?俺じゃ…駄目か?」
「…土方君、何言ってるか解ってる?」
「当たり前だ」
「…冗談にしては、結構笑えないんだけど?」
「だから冗談なんかじゃねェよ。本気で言ってる。俺じゃ、そいつの代わりになれないか?俺じゃ…」
「す、ストーップ!!ちょっとちょっと、どうしちゃったのよ?」
「…お前」
「俺?俺が、何?」
「お前…無理矢理笑ってんじゃねェか」
「無、理矢理…?」
「そうだよ…会った時から…、お前はずっと、何かに耐えてて、、無理して笑ってじゃねェか!」
「……………っ!」
「俺じゃ、お前を本当に笑わせる事は出来ねェのか?」
「そ、れは…」
「俺だったら、約束すっぽかしたりしねェし、連絡くれりゃぁいつだって、何処だってすぐに行く。お前に、悲しい思いさせたりしねェ」
「……………………………………」
「無理して作った笑顔なんか見たくねェ。痛いの我慢して欲しくねェ」
「…ゃっ、その…」
「だから…俺じゃ駄目か?そいつの代わりになれないか?俺じゃ…役不足か?」
「いや、そうじゃなくて…」
「確かにまだ記憶戻ってねェし、自分が何者かも解ってねェけど。…でも、俺は」
「ちょっと待てって!…あのね、土方君。俺男よ?んで、お前も男。男同士なんのよ?その辺解ってんのか?」
「…それが?」
「ゃ、それがって…そりゃ不味いでしょ、道徳的に」
「道徳なんて関係あるか。気持ちの問題だ」
「気持ちって……」
きっぱりと跳ね除ける土方に、銀時はグシャグシャっと髪を掻き回して。
「あ〜…本当記憶ねェのかよ、コイツ…」
「あ?」
「んでもねェよ、こっちの話!あ〜っと、…そうだねぇ…。結論的に言うと、気持ちは嬉しいけど、無理」
「何でっ…!!」
「言ったでしょ?俺はその相手にベタ惚れで、忘れられねェんだって」
「忘れろなんて言わねェよ!ただ…」
「笑ってて欲しい、だろ?その気持ちは嬉しいぜ?本当に。…でもさ」
「でも…?でも、何だよ」
「アイツと過ごした時間は確かに在ったもんだし。振られたからって、ずっと俯いて生きてく気もねェし。…笑えるさ、いつかまた」
「…思い出に生きて行く、とか抜かすのかよ?」
「ん〜…そう言う訳じゃねェけど……似たようなもん、かな」
「っ、んなの…!!」
「…神様。……本当に居たら良かったのにな」
「…はぁ?」
突然、銀時から紡ぎ出された単語。
『神様』
とてもじゃないが、銀時からは似つかわしくない単語に一瞬土方は呆気に取られる。
「何言っ…か、神様??」
「そう。…神様。……居たら良かったのになぁ」
「…何で?」
「お願いしたの。他には何も望まないから。…誕生日プレゼントは俺の心から欲しいモノを下さいって」
「たんじょ、び…?」
「…そっ。今日10月10日は俺の誕生日なの」
「……………………………」
「誰かにお祝いして欲しい訳でも、何か欲しい訳でもなかったんだけどさ」
「……………………………」
「直前になってどーしても欲しいモノが出来てさ。…それをお願いした訳。誰にお願いしても叶えられないから。神様に」
「……………………………」
「普段祈った事もねェ奴のお願いじゃぁ、やっぱ駄目か〜」
あははは、と銀時は乾いた笑いを浮かべて。
「さっ、帰ろ帰ろっ!マジで遅くなったら、真選組の奴等、捜索隊出し……」
持っていた鞄を、もう一度抱え直して。
銀時は一歩進んだ。
タイムリミットは過ぎたのだ。
未練がましくココに居る訳にはいかない。
新八と会ったと土方は言っていた。
それなら、新八も土方の記憶喪失の事を知っただろう。
それなのに自分が外出していては、きっと心配するだろうから。
…帰ろう。
「ほら、さっさと帰るぞ。早くこ、ぃ…」
いつまでも来ない土方に。
銀時は振り返って声を掛けた。
声を掛けようとした。
「………土方?!」
ドサっと手にしていた鞄が落ちた。
それでも視線の先でうずくまる土方に、銀時は駆け寄った。
「土方!おい、土方!どうしたんだよ、おいっ!!」
「…っ、っ…」
「頭?頭が痛ェのか?!…っ、おい、しっかりしろ!!」
「っ、…ぁ…」
「…ひじ、かた…?」
暫くすると、土方はゆっくりと顔を上げて。
何度か瞬きを繰り返して。
「……………………………」
「お、お〜い??」
「…ぁ、れ?」
「ん??」
「…銀、時…?」
「…ぇ?」
うずくまっていた身体を起き上げて。
キョロリと周りを見渡して。
「ぉ、れ…?ココ…??」
「…土方、君?もし、かし…て…?」
「あ?」
「…君、誰?」
「は?何言ってんだ?」
「良いから答えろ!…お前の名前は?!」
「はぁ?…んだってんだよ?……土方だよ。土方十四郎」
「俺は?!」
「だから何だってんだよ?!」
「良いから答えろ!俺の名前は?!!」
「銀時だろう?!坂田銀時!いきなり何だってんだよ?!!」
「も、ど…った…でも、な、で…?」
土方から紡ぎ出された言葉。
それにより記憶が戻った事が解った。
驚きのあまり、銀時は思わずペタリとへたり込んでしまう。
「お、おい…何だってんだよ…つうかココ…ターミナル、だよな?何で…俺…」
それに土方が驚き、跪いて銀時の顔を覗き込む。
「ぉい…どうなってんだ…?」
「…………………………………」
「ぎ、銀時…?」
そんな土方をギュっと銀時は抱き締める。
いつにない、銀時の行動に土方は戸惑うが…。
「…?ん、…ぉ、ちょっ…くる、苦し…っ…」
「…さ・ん・ざ・ん・し・ん・ぱ・い・さ・せ・や・が・って…」
「ぐ、ぐ、ぎゃ…ぁ…っ、…!」
ギリギリと回した腕を強める。
「ぎ、と…きっ!ちょっ、マ、マジ!くる…苦しっ…!!」
「…っ、我慢しろ!俺、ぉ、れだ…って、くる…し、かっ…!!」
フ、っと。
ギリギリと締め付けていた腕が力を緩めて。
「…おま……泣いて、るの…か?」
「っ、泣いて、ねっ!!」
「…じゃぁ、顔上げろ」
「ヤだっ!!!!」
土方の胸に顔を埋めたまま動かない銀時に、はぁ、と溜息を吐いて。
「あ〜っ、もう何だってんだよ!気がつけばターミナルに居るし、お前は泣いてるし!俺が何したってんだよ!!」
「…おま…覚えてねーのか?」
「は?…つうか、やっぱ泣いてんじゃねェか」
顔を上げた銀時の瞳に浮かぶ涙を、土方はスっと指で拭って。
ポカンとした表情をする銀時に、土方もまた、驚きの表情を浮かべる。
「今までの事、覚えてねーのかよ?」
「今までの、事?」
「………………………………………」
「な、何だよ?」
「っ、だ・か・ら。お前は多串だってんだよ!!」
「ぐっ、はっ…!げほっ、げほっ、げほ…!!」
ジっと土方を見て。
それから再度緩めていた腕の力を込めて。
銀時はパっと、土方から離れて。
「…ほんとー…だからお前は……」
「ゲホっ…銀時……?」
立ち上がって、背を向ける。
「おい…銀時?」
「…い〜っぱい告白した、のにな」
「は?…ってか誰に?!!」
「お前に」
「は、はぁぁ??!」
「何処に惚れてるとか、どんくらい好きかと、俺い〜っぱいお前に言ったのに。…そかそか、覚えてないんだ、へ〜ほ〜ふ〜ん」
「ちょっ、ちょっと待った!な、何だよそれ?!ってかいつだよ??!」
「今さっきだって」
「今さっき?!…ん?ちょっと待って。俺、…ぁれ?」
「因みに。今日は10月10日なんだよな〜」
「は?おまっ、人謀るのもいい加減にっ…!」
「本当だって。新聞見ろって」
キョロキョロと周りを見回す土方に。
銀時は楽しそうに笑って。
「…ったく。しょうがねェ、な!」
「ぅわ?!な、何だよ?!!」
「…そのままで居ろよ」
「は?」
アタフタと動き回る土方の腕を取って。
「そのままで居ろよ。…それが一番の、プレゼント。……だからな」
「は?え?あ??」
「よぉ〜し!行くぞ、温泉!!」
「え?あ?ぉ、おう…?」
鈍いけど。
抜けてるけど。
…馬鹿だけど。
「…ぁ、そう言えば」
「ぁ?」
「…最後に話したの……」
土方がうずくまる瞬間。
銀時が呟いた言葉。
…誕生日…
「あぁ、そうだ」
「ん?」
「10日、なんだよな。…今日」
「あ、あぁ…」
「――――誕生日、おめでとう。…銀時」
「…っっ」
そのままの君が良い。
そのままの君で良い。
「お前が生まれて来てくれて、…有難う」
「…感謝しろよ」
「あぁ」
「俺の事、好きか?」
「あぁ。寧ろ、愛してる」
「…知ってる」
記憶を失くしても。
…傍に居てくれようとしたから。
「ぁ」
「ん?」
「プレゼント…屯所に置きっ放しだ…」
「…もぉ〜しょうがねェなぁ…だからお前は多串君なんだよ」
「っ、おま、それさっきも言ったな?!つうか、気づかない内に10日になっててだな…!!」
「うっそ。…本当はもう貰ったしな」
「は?何を??」
Happy Birthday!
・END・
2006/12/11UP