お昼の時間。
僕は工場の片隅でジミーと共に配給されるお弁当を食べていた。
そうしたら、ジミーの携帯電話が鳴って。
「ハイ……いや こっちはまだ何もつかめてませんが」
ジミーの通話を聞きながら、僕は何食わぬ顔でお弁当を食べる。
…内心、物凄くドキドキしながら。
「ハイ……い゛っ!?マジすか!?わかりました。すぐもどりますんで」
その電話は誰から?
真選組から?
トシから?
…でも。
聞けない。聞ける訳がない。
だって僕は今、全く記憶がない事になってるんだ。
そりゃ、本当に記憶はないけど、…でも。
「旦那ァ、俺 もうココひきあげます」
ジミーの言葉にドキリと心臓が鳴る。
でも次に紡がれた言葉に、僕の期待は淡く砕かれる。
「局長がなんか行方不明になってるらしくて」
…そうだよ。
トシが僕を探す訳がない。
…追い掛けて来てはくれなかった。
…視界に視えたのは、暗く深い暗闇だった。
……局長。
それはきっとトシの上司だね。
あぁ、僕が居なくてもトシは日常に戻れるんだね。
解ってたのに。
突きつけられると…とても辛い。
「ジミー アレくらいでへこたれるなよ。誰だって最初はうまくいかない。人間なんでも慣れさ」
でも僕は自分の心情を悟られまいと軽口を叩く。
…慣れ。
自分で言ってて、それは自分に言い聞かせる言葉。
そうさ。きっと慣れるさ。
この胸の痛みも。引き裂かれるほどの切なさも。
時が経てばきっと慣れて来て。
……独りでだって平気になる。
「ジミーって誰?!それはもしかして地味から来てるのか!?それから俺は密偵で来てるだけだから!!」
ジミーの突っ込みに、少し心は軽くなる。
…大丈夫。
僕は独りでもやっていける。
「旦那も早いとこひき払った方がいいと思いますよ。ここの工事長、何かと黒い噂の絶えない野郎でね」
…噂?
僕はそのまま黙って、ジミーの言葉に耳を傾ける。
「巷じゃ 職にあぶれた浪人を雇う人情派で通ってるらしいが、その実は攘夷浪士を囲い、幕府を転覆せんと企んでる過激テロリストと噂されてるんです」
…攘夷、浪士。
何だろう。胸がザワザワとする。
凄く知ってるような。…全然知らないような。
「他にもこの工場で裏じゃ攘夷浪士の武器を製造してるとか。近く大量殺戮平気を用いて、大きなテロを起こそうとしているとかロクな噂がない」
テロ…。
…確か、真選組はそう言うの未然に防ぐ、幕府の戌だって…工場の皆が…。
「まァ 結果こんなモンしか出てきませんでしたが」
だったら。
もしここでテロがあったら、トシはココに来るかも知れない…?
「火のない所に煙はたたないよいうし…」
そこまで考えて、僕はハっとなった。
僕は今何を考えてた?
何て事を考えたんだ…!
「おやっさんがエロリストだと!いいがかりは止めろ。おやっさんはな僕を拾ってくれた恩人だぞ」
「テロリストね」
「それに僕は以前の堕落した自分は受け入れられない。生き直そうと心に決めたんだ」
…そうだ。
僕は生き直そうと決めたんだ。
真っ当な人間になる事を誓ったんだ…!
あんな恐ろしくて、自分勝手な考えをするなんて…!!
「そうですか。ちょっと残念な気もしますが、アンタ確かに一見ただのチャランポランでしたがね。局長も沖田隊長も一目置いてるようだったので」
…『沖田』
その言葉にドクリと心臓が鳴る。
それは重い心臓の音で、もしかしたらジミーが真選組に戻った時に、『沖田』に僕の事を話すかも知れない事実を僕に気づかせた。
…どうしよう。
口止めしといた方が良いんだろか。
でも、どうやって?
僕は記憶がない事になってるんだ。
実際記憶はないけど。
でも、じゃぁ何で『沖田』さんの事を?
僕が狼狽していると…。
「坂田さーん、仕事始まりますよ」
「おっといけねェ。じゃ これで俺は…」
後ろから声を掛けられて。
振り向けば。
「坂田さん ちょっと僕のジャスタウェイ見てくれませんか?どうですか コレ」
「そうだね もうちょっとここ気持ち上の方がいいかな ゴリさん」
ゴリさんが僕を呼びに来てくれた。
僕はモグモグとご飯が入ったままの口で、ゴリさんの質問に答える。
すると。
「お前 何してんのォォォォ!!」
ガコっと言う音と共に、ゴリさんがジミーに殴られる。
「ゴリさァァん!!」
「もしもーし バカ発見しました。…えぇ スグ 連れて帰りますんで」
吹き飛ばされたゴリさんの所に駆け寄って。
「ゴリさん しっかりしろ!ジミー何て真似するんだ!ゴリさんはなァ 僕と同じように記憶を失っていて 頭はデリケートに扱ってやらないとスグ飛ぶんだ!!初期のファミコン並みなんだぞ!!」
「記憶喪失ぅ!?マジですか、局長ォ!!アンタ バカのくせに 何ややこしい症状に見舞われてんのォォ!!バカのくせに!!」
「言いすぎだろ、ジミー バカはバカなりにバカな悩み抱えてんだ!!」
「うるせーよ もうダリーよ! めんどくせーよ!おめーら」
ズンズンとジミーがゴリさんに近づいて。
「とにかく!一緒に帰りますよ、局長!」
「やめろゥ!!僕は江戸一番のジャスタウェイ職人になるって決めたんだ 何でもいいから一番になるっておやっさんと約束したんだ!!」
「だったら安心しろ お前は世界一のバカだ」
…『帰る』
『還る』
帰りたい…僕も。
……還りたい。
…………………トシの、元へ。
「さっ 早く」
「あっ」
ゴリさんの腕からスルリと落ちた、ジャスタウェイ。
そしたら。
ドォン
…ジャスタウェイが爆発した。
![]()
2009/01/15UP