「えーと、山崎…ん?コレ何て読むんだ」
「退です。山崎退」
そう。
俺の名は山崎退。
泣く子も黙る武装警察真選組の監察(密偵)だ。
そんな俺が何故こんな工場に面接に来ているかって?
「あっそ。おたくもリストラ?最近は職にあぶれた侍で街あふれ返ってるもんな〜」
勿論リストラなんかじゃない。
「かくゆう俺も昔は、腰に刀さしてたんだがね」
俺が動く時、それは…。
「今はコレさ」
事件の匂いをかぎつけた時だけさ。
「まァここはアンタみたいな落武者がたくさんいる。似た者同士仲良くやってくれ。…おーい、みーんな新入りだぞ」
「うぃーす」
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!万事屋の旦那!?アンタなんでこんな所に!?」
「?」
「俺ですよ、俺。真選組の山崎です。実は訳あって潜入捜査でここにもぐり込んだんですがね…」
「オイ、言っとくけど、そいつ記憶喪失で昔のことなんも覚えてねーぞ」
「記憶喪失!?」
「そういうことなんでスイマセン。旧知のようですが、僕は覚えてないんで。えーと真選組の何?真ちゃんとか呼べばいいのかな」
「ちょっとォォ!!潜入捜査って言ってるでしょ…あ゛っ!!言っちゃった」
「何ですか、アナタ。人の頭パンパンパンパン、タンバリン奏者気どりですか。…じゃあ、潜入捜査のせんちゃんとかどうですか?」
「嫌がらせ?山崎って言ってるでしょ」
「いや、覚えてないんで。タンバラーで」
「覚えてないっつーか、覚える気ねーじゃねーか!…そーいやキャラもいつもと違う。目も死んでないし。…え?でも万事屋は?他の連中はどうしたんですか」
「万事屋は…」
…正直ドキリとした。
トシと離れてから、僕はチラシにあった工場に面接に行った。
記憶がない事を話、以前住んでいた所も不慮の事故で失くしてしまった事も話した。
おやっさんは良い人で、それなら住み込みで働けば良いと言ってくれた。
僕はその好意に甘える事にし、精一杯働こうと思った。
…それからトシには会ってない。
僕はトシの職業を知っているから、調べようと思えばすぐに調べられたし、きっと勤め先もすぐに解るだろうと思った。
けど、僕は何もしなかった。
だって僕がトシの職場に行くって事は、僕の昔の恋人にも会うって事だから。
会いたくない。
それが僕の正直な気持ち。
その人には悪いけど、僕が好きなのはトシだから。
以前の記憶なんか知らない。以前の僕なんか知らない。
だって僕には以前の記憶もないし、解らないんだから。
だから…記憶があった時の恋人だから、今も恋人だって言われても僕は納得しない。
僕は僕と言う、人間なのだから。
以前の記憶とか、以前の僕とは関係ない。
…トシは、そんな僕を僕として受け入れてくれた唯一の以前の僕の知り合い。
トシには会いたい。
でも昔の僕の恋人には会いたくない。
きっと会ったら。
以前も恋人だったのだから、恋人として居ろ、記憶を戻せと言うのだろう…。
そんな折。
「俺ですよ、俺。真選組の山崎です」
工場に現れた男。
小声で話し掛けられた言葉にドキっとした。
(…真選組…)
トシが…僕を探すよう命じてくれたのだろうか?
それとも真選組の僕の前の恋人にトシが僕の事を話、その人が探しに来たのだろうか。
どちらにしても僕はドキっとした。
一瞬動揺が走ったけど。
ひそひそと話す僕達におやっさんが…。
「オイ、言っとくけど、そいつ記憶喪失で昔のことなんも覚えてねーぞ」
言ってくれた言葉に僕は便乗して、知らない振りをした。
この人と以前の僕がどう言う関係なのか知らないけど。
だけど素知らぬ顔して、ノリで話をして。
…何とかその場を乗り切った。
本当はトシの事とか聞きたかったけど。
でも記憶のない僕が。何でトシの事を知ってるとか聞かれると、それこそヤブ蛇だから。
僕は馳せる想いをそっと胸に閉じ込めた。
あれから…トシはどうしてる?
僕の事…忘れないで居てくれてる?
僕の事…少しは探してくれてるのかな?
……うぅん。
それはきっと僕の希望。
だってトシは真選組だから。…警察だから。
きっと本気で探してくれてたら、僕の居場所なんてすぐに見つけ出してくれてるはずだから。
未だに音沙汰内って事は。トシはきっと。
僕の事なんてどうでもよくって。
それとも男に告白した僕を気味悪がって。
…忘れてしまったんだろう。
…探してなんてくれてない。
そう思うと、胸が張り裂けそうなくらい痛くて。
切なくて切なくて。
今にも泣き出してしまいそうだ。
…だから今日も僕は。
「オイぃぃぃ、テメっ何やってんだ!?こういう流れ作業は一人がミスったらラインが全部止まっちまうんだよ!」
「ス…スイマセン」
「スイマセンじゃねーよ。テメーよォ何度も同じこと言わせやがって…簡単だろーが、こんなモンよォォ、コレをここに乗せ、コイツを立てればいいだけだろうがァ!」
「…っていうか、コレ、何つくってんですか。この工場、何を生産してるんですか?」
「アレだよ、お前。ジャスタウェイに決まってんだろーが!」
「だからジャスタウェイって何だってきいてんだろーがァ!」
「ジャスタウェイはジャスタウェイ以外の何物でもない。それ以上でもそれ以下でもない!」
「ただのガラクタじゃないかァ!!労働意欲がうせるんだよ!なんかコレ見てると」
「てめーらは無心にただ手ェ動かしてればいいんだよ。見ろォ坂田を!!」
「うおおおお!スゲェェ速ェェ!」
「さすが坂田サンだ。ものスゴイ勢いでジャスタウェイが量産されてゆく!」
「時期工場長は奴しかうねーな。みんなも負けないように頑張れ!」
「そんなんで工場長決まるの!?おしまいだ!ココおしまいだよ!!」
何も考えないように働く。
幸い僕は器用らしく。
問題なく働けた。
クタクタになるまで働こう。
トシの事も。
記憶の事も。
何も考えられなくなるくらい…。
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2008/01/17UP