「っ、そ、だろ…」
自分の身に何が起きたのか把握出来なかった。
アイツが…銀時が…万事屋が…。
「ぉれを、好き…?」
だってお前はそんな素振り見せなかったじゃないか。
「…あぁ…」
そうか…そう、だった…。
お前と俺は似てんだったな。
だったら…だったら同じなのかもな知れない。
同じ気持ちだったのに。
同じように隠して。
想いを募らせていた…。
そして、知らず知らずに傷ついていた。
同じ気持ち…なのに。
「ったく。いつまで呆けてるつもりでぃ」
「総、悟…」
ぐいっと胸蔵を掴まれ。
無理矢理顔を上げさせられる。
「早く旦那んトコ行って、ケジメ着けろぃ。ウジウジしてたってしょうがねェだろうが」
「無理、だ…」
酷い事をした。
俺は。
万事屋にも。
銀時にも。
踏み出せない俺の代わりに踏み出してくれた万事屋に。
記憶を失っても俺を想ってくれた銀時に。
俺はどっちにも酷い事をした…。
今更どのツラ下げて会いに行ける?
「腑抜けんのもいい加減にしろぃ!!アンタのヘタレにどれだけの人間が傷ついたと思ってるんでぃ!!」
「ど、いう事…だ?」
「旦那が居なくなって、淋しい人間はアンタだけじゃねェって事でさぁ」
「!!」
『…万事屋は…解散しました』
「お、前…もしかして…」
じゃぁ、もしかして…。
もしかして総悟が夜な夜な出掛けてたのは…。
口を開き掛けた俺に、総悟はますます険しい顔つきで。
「俺の事ぁどーでも良いから、とっととテメェのやるべき事をやりやがれ、このヘタレ」
「なっ…おま、さっきからヘタレヘテレ連呼するたぁどう言う了見だ!」
「連呼なんかしてねェでさぁ。まだたったの2回しか言ってねェ。それにヘタレ以外の何者でもねェでしょうが。特に、今のアンタは」
「ぐっ…!」
「汚名を返上してぇなら。旦那の件、しっかりカタぁつけやがれ」
「っ、上等だ!…全て取り戻して見せらぁ!!」
酷い事をした。
踏み出してくれた万事屋に、俺は応えられなかった。
酷い事をした。
気持ちを伝えてくれた銀時に、俺は応えられなかった。
謝っても許される事じゃねェ。
けど…。
探していたものは見つかった。
求めていたものはすぐ傍らにあったのだ。
言葉はここにあった。
伝えたい気持ちはここにあった。
抱き締めたい腕はここにあった。
だから。
紡がせて欲しい。伝えさせて欲しい。抱き締めさせて欲しい。
記憶をなくしてまで、俺を想ってくれた、お前に。
万事屋…、銀時…。
頑なになってごめん。隠してばかりでごめん。本当を伝えなくて、表さなくて傷つけてごめん。
そんな俺を好きになってくれて有難う。一歩踏み出してくれて有難う。記憶をなくしても好きになってくれて有難う。
…きっと。
今更と言われるかも知れない。何を今更と思われるかも知れない。
それでアイツが拒むなら、それでも良いと思っている。
俺がお前を傷つけた分、俺もお前に与えられる、その痛みを甘受しよう。
だから紡ごう、秘めていたこの想いを。
だから伝えよう、咽喉の奥で止めていたこの言葉を。
だから抱き締めよう、伸ばせなかったこの両腕を。
俺も…愛してる。
記憶を失う前も、記憶を失った後も。
ずっとずっと…変わらない、想いを抱いている。
「…は、ぁ…はぁ、はぁ……」
ただ全力で走り続けた。
暗闇を。道を。伸びる限り。
「…っ、はぁ、は、ぁ…」
息が切れて。空気が足りないと、口を開ける。出来るだけ、空気を肺に送り込ませる。
立ち止まって。
はぁはぁ、と肩で息をする。
暗闇。周りを埋め尽くす漆黒に、僕は今立たされている。
少し落ち着いて。振り返れば。
続く暗闇、何も見えない。
「…ふ、ぅ…っ…」
…追い掛けて来て欲しかった。
追い掛けて来て。
会いたくないなら会わなくて良いと。
僕の、僕の好きにして良いと。
…安心させて欲しかった。
「…ふ、っく…」
ねぇ、何で?
トシは前の僕に恋人が居る事を知っていた。
ねぇ、何で?
何ですぐにその人に会わせようとしなかったの?
ねぇ、何で?
今更になってそんな事を言うの?
ねぇ、何で?
「…ぅ、っく…ぇ…っ」
僕はこんなにも…こんなにもトシの事が好き、なのに。
沖田、総悟…。
記憶のあった僕が愛した人。
トシの仲間…。
「…ゃ、だ…やだ、よぉ…」
会いたくない。会いたくなんかない。
だって僕の心は決まってるんだ。
トシと居たい。トシと共に在りたい。…トシの傍に居たいんだ。
「ぅっく、ひ、っく…」
涙が枯れるかと思うくらい。
僕は道端で泣き続けた。
前の僕は、何でトシを選ばなかったの?
前の僕は、何でトシと仲が悪かったの?
前の僕は…。
思い出そうとしても思い出せない。
だって…思い出したくなんかない。
「ぇ、っ、っく…」
…疲れた。
身体も心も、何もかも。…凄く凄く疲れた。
「…帰り、たい」
帰る場所なんてない、のに。
…あぁ。夢なら良いのに。
これは夢で。凄く性質の悪い夢で。
目が覚めて。僕の隣にはトシが居て。…微笑んでるんだ。
そして僕は起きて、トシにご飯を作ってあげるんだ。
行ってらっしゃいって言って、少し間を空けて、トシは行って来ますって言う。
そんな毎日。
…帰りたい。……還りたい。
「………?」
ふと。
預けた壁に、カサリと紙の音。
何だろうと、それに目を走らすと…。
「…従業員募集…」
そこにあったのは、工場の従業員を募集するチラシ。
随分前にあったんだろう。
劣化して、あちこちが破けてる。
俺は泣き過ぎで微かに重くなった目を凝らして、住所を見る。
「…ここから…近い…」
…腕は治った。交通事故で負った怪我は全て完治してる。
「…行こう」
…働こう。
それはずっと僕が望んでいた事。
生まれ変わったつもりで、1からやり直そう。
そうすれば。
…忘れられる。
この、胸を締め付ける痛みも。
この、焦がれるようば『恋』も。
…トシの事も。
全て。全て。…忘れられるはずだ。
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2007/06/01UP