解ってた事、だった。
覚悟していた、つもりだった。



「…ぎん、と、き…」
「!…トシ」



軍服を抱き締める銀時を見つけて。
声を掛けたら、切なく揺れる瞳を向けられた。
…解ってた事だった。
……覚悟していたつもりだった。
それでも、思わずには居られない。
     どうして。どうして俺じゃ駄目なんだ?
お前の傍にずっと居たのは俺じゃねェか…。
どうして俺は駄目なんだ…。



「気づいて、たのか…?」



…否。
違う。それは違うんだ。



「…え?」



お前と総悟を。引き裂いたのは。…俺、だ。
他の誰でもねェ。俺自身じゃねェか…。
これは当然の結末。必然じゃねェか。
…潮時、なのかもな。



「…お前には恋人が居る」
「え…?こい、びと…?」
       真選組の中に、な」
       …え?」



俺の言葉に、揺れるお前が居る。
きっと。今お前の胸に渦巻いているのは、ずっと、ずっと引っ掛かっていた事の正体だろう。



「真選組って…え?トシ何ぃっ……」
「名を、沖田総悟と言う」
「ぉきた…?ま、待って…。…トシ、意味がわか……」
「ずっと…気づいてたんだろう?」



俺の軍服を見て、心に引っ掛かるものがあったんだろう。
だからだろう?
俺の軍服を抱き締めてたのも。
俺が出勤する時、俺の背中を切なげに見つけていたのも…。



「ト、シ…?」
「…悪ぃな。ずっと言い出さなくて」



解ってた。解ってたんだ…。
記憶がなくなったくらいで、お前と総悟を引き離す事なんか出来ねェって。
でも。それでも。
可能性があるなら、俺にチャンスがあるなら。
記憶がなくなった時だけでもお前の傍に居たかった。傍に居たかったんだ。



「しら、しらなっ…知らない、知らない!そんな人、僕、しらなっ…!!」
「ずっと、気になってたんだろう?その軍服見る度に、何か思い出したんじゃ…」
「違う!!そんなんじゃない!そんな理由で僕は軍服コレを…!!」
「…ちゃんと、元居た場所に還してやるから」
「な、に…言ってるの…?トシ、僕は……」
「…総悟、連れて来てやる」
「…ゃ、やだ…トシ、や、…何で?僕は、僕は……!!」



これで万事解決するはずだ。
夜な夜な万事屋を探している総悟も。
ずっと、誰かを探していた銀時も。
…これで…良かったんだ。



「…嫌だ!!!」
「……銀時?」



背を向けた俺に、銀時の叫び声が響いた。
振り返った俺に、銀時は…。



「嫌だ…!嫌だ嫌だ嫌だ!!会いたくない、還りたくなんか…ない!!」
「銀時…」
「会ってどうすれば良いの?僕は前の僕じゃない。前の僕じゃないんだ…!!」
「…会えば解る。覚えてなくても…魂がきっと覚えてる」



解らなくても、お前は軍服それに反応したじゃねェか。
だから、きっと…。



「覚えてなんかいない!だって、だって…僕は…!!」
「ぎ、んと…」



ポロリと。
頬を伝って流れた透明の液体が、床に零れ落ちる。
見た事のない、銀時の…涙。



「…っ、僕は…トシが好き、なのに……」
「!!!」



銀時の言葉に息を飲んだ。
ずっと…ずっと聞きたいと、そう思って欲しいと思ってた言葉が、今、紡がれた…。



「…っ、銀時!!」



そう言ったかと思ったら、銀時は俺の身体を押して、玄関から飛び出してしまった。
慌てて追い掛けようとしたが…。



「…っ、くそっ!!」



手を伸ばそうとして。
瞬間その手を引っ込めた。
銀時よろずやを追い掛けて良いのは俺じゃない。
俺じゃない、んだ…。



「…く、そ…」



目の前で起こった現実。
それは紛れもない事実。


『…っ、僕は…トシが好き、なのに……』


流れた一筋の涙。
呟かれた一言。
それは自分が焦がれて堪らなかった言葉。
そんな顔、させたい訳じゃなかった。
ただ自分が傍に居て、幸せを運んでやりたかった。
笑ってて欲しかったのだ。
その為ならば。
万事屋の想いも。
総悟の想いも。
罪深いこの行為さえ。
甘受出来た。
それなのに。



「…結局、俺が奴を幸せにする事なんざ、出来ねェんだ…」



好きと言ってくれた。
だけど、腕に抱く事も出来ない。
追い掛ける事すら儘ならない。
だって、自分は。
彼に。
万事屋に。
銀時に。
紡ぐ言葉を持っていない。
だって、それは…。



「…くそっ!!!」



言いたい言葉はここまで来ているのに。
伝えたい気持ちはここにあるのに。
抱き締めたい腕はここにあると言うのに。
言えない。伝えられない。抱き締める事は出来ない。
だって自分は、その資格を持っていないのだから。



「…くっ…」



解ってた。解ってた事だった。
結末は解っていたのだ。
それでも良いと行動を起こしたのは自分。
誰の責任でもない。
だから。
今は出来る事をしよう。
俺は携帯を取り出すと、コールを始める。
…そう。
俺に出来る事をしよう。
フィナーレの、その目印となろう。
願わくば。
お前が…万事屋が、銀時が。



「…土方だ。今から屯所に来れるか?」



…幸せになれる、その道標に。






2007/05/21UP