トントントントン…。
ん…?
音…包丁の小気味良い音…。
それから鼻腔をくすぐる味噌汁の…良い匂い…。
…あれ?でもいつも、んな音するか?
…あれ?天井、いつもと違くねェか?
んん??
…………っ、そうだ!!
「…っ!!」
半覚醒状態から覚醒状態となり、隣の布団に目を走らす。
そこには綺麗に畳まれた布団。
「っ、ぎんと…!」
「ぁ、起きた?お早う〜」
「銀、時…」
「今朝食の準備してるからさ。用意して待ってて」
「あ、あぁ…」
夢、じゃなかった…。
心の何処かでこれは夢じゃないか、俺は都合の良い夢を見てるんじゃないか、そう思ってしまう。
起きたら銀時は居なくて。
総悟の隣で、微笑んでるじゃないか。
…そう思ってしまう。
「トシ?まだ眠いの?」
そんな俺の考えを他所に。
銀時は小首を傾げて、俺に声を掛ける。
「嫌…ちょっとボーとしてた」
「そ?朝食、和食にしたけど大丈夫?」
「あぁ…ってか料理出来たんだな」
俺がそう言うと。
「…ぅん。身体が覚えてたって奴?」
淋しそうに、そう言った。
まずい…。
「…俺は料理が出来ねェから大助かりだな」
「…………………………」
苦し紛れにそう言うと、銀時は一瞬驚いた表情を浮かべて。
「…じゃぁ、お世話になってるお礼も出来て一石二鳥?」
「だな」
…ゆっくりと微笑んだ。
それにホっとして。
「んじゃ、俺顔洗って来る」
「うん。その間仕度しとくから」
「サンキュ」
まずった…。
あんな顔、させるつもりなんかなかったのに…。
あれだな。
あんま過去を彷彿とさせる話題は避けた方が良いな…。
…………………………。
…嫌、本来なら思い出す手助けをしなきゃいけねェんだよな。
万事屋の連中だって、このまま解散なんて受け入れる訳ねェんだから。
あんなに懐いてたんだし…。
「…それに」
アイツ…総悟の事も。
このまま黙ってる訳にはいかねェだろう。
…黙ってる…訳にも…。
「…トシ?」
「っ!な、何だ…?」
「何だじゃないだろ〜?いつまで顔、洗ってるのさ。お味噌汁冷めちゃうよ?」
「あ、あぁ…今、行く…」
ばしゃばしゃと顔を洗い、俺はその場を後にするのだった。
「副長〜!!」
「ぅわ?!な、何だ?!!」
屯所に着くと、門を潜ると同時に山崎に泣きつかれる。
「な、何だよ、テメー!!」
「副長〜!何処行ってたんスか〜!!局長も沖田隊長も居なくて、凄い不安だったんですよ〜!」
「近藤さんに…総悟も?」
「えぇっ!ぁ、でも沖田隊長は帰って来てます。局長はまだ…って副長?!」
山崎の言葉を最後まで聞かず、俺は屯所の中に急いで入った。
総悟も…夜出掛けてた?
まさか…まさか…!!
「…っっ…」
今の戸を開けると、そこにはいつもおふざけたアイマスクをして眠る総悟の姿。
「…っと、副長!……何だか夜通しで出掛けてたみたいで…俺が聞いても『私用だ』としか言ってくれなくて…」
「…そう、か」
いつもならそのアイマスクを見ていると腹も立つ、ものだが。
今日は…上下する胸も。そのアイマスクも。
…疲れてるように見えた。
「…山崎」
「はぃ?」
「…奴の分の見回りは俺がやる。……寝かせといてやれ」
「は…え、えぇ?!で、でも…ぁの…」
罪滅ぼしにもならない。
それは自己満足的な謝罪だ。
否、謝罪にもならない。
解っていた。解ってたはずなんだ。
この胸の痛みも、罪悪感も。
全ては己の身から出た、錆びだと。
「…どう言う風の吹き回しでぃ」
「沖田隊長!?起きてらっしゃったんですか?!」
「俺が寝ててアンタが怒んない、しかも巡回も代わるなんて。…気味が悪い」
「……………………………………」
「巡回には行きますぜぃ。…探しモンがありやしてね」
「……………………………………」
「沖田隊長…。…副長、ぁの…」
いっそう。
どうしてだと問い詰められれば良い、と思った。
どうしていつも怒鳴るのに、今日はしないんだと。
何か疾しい事でもしてるんじゃないのかと。
そうすれば。
白状出来る気もした。
自ら。
自ら吐露する事の出来ない俺を。
「…っ、くそっ!!!」
「わっ!…ふ、副長…?」
…何処かで。
疑わない、問い詰めない総悟のせいにしていた。
…当たり前だ。
総悟は俺と万事屋が仲が悪いと思っているんだ。
アイツは俺の気持ちを知らない。
だから。
俺がアイツを保護してやるなんて思わないだろう。
当然だ。
誰にも…万事屋にだって気づかれないようにしていたんだ。
俺の気持ち。
俺の想い。
「副長…?どうかなさったんですか?」
「…山崎…」
ふと。
山崎が俺を呼んだ。
少し戸惑っているような表情で。
「何かあったんですか?俺…何か手伝える事ありますか?」
「山崎…」
「……副長も、沖田隊長も…何か変、です」
「…そう、だな」
…解ってた。
解ってたはずだ。
俺は。
「…悪ィな、余計な心配掛けちまって」
「!そ、んな…」
「大丈夫だ。それよりテメーは、マムシの件、宜しく頼む。間違ってもヘマすんじゃねェぞ」
「……………………………」
「……………………………」
「……解りました。……何かあったら携帯に連絡下さい。こっちも何か解り次第連絡しますから」
「…あぁ」
総悟と万事屋の仲を邪魔してるだけ、だと。
解ってたはずなんだ。
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2007/04/30UP