『どうして…そんな、いきなりどうしてなんですか、銀さん!!』

『嫌よ、私!離れたくないアル!銀ちゃん!!』



謝る事しか出来なかった。
…突然の別れ。
理不尽な解散。
流れた涙に贖罪の言葉を探した。
けれど、どんな言葉を紡ごうとと、身勝手な離別は変わる事なく。
ただ頭を下げ、謝りの言葉を告げるしかなかった。
…こんな結末を、誰も望んではいなかったのに。
気付いた時には何もかもが手遅れで。


(…手遅れ?)


銀時は自分の考えを嘲笑った。
手遅れなんかではない。
自分はいつ爆発するとも解らない爆弾を抱えていたのだ。
それがただ、爆発してしまっただけ。
しかも自分だけではない、色んな人を巻き込んで。


(最低だ、俺…)


…望む人になりたかった。
彼の、皆の望む自分になりたくて。
ただただ、そうなろうと努力した。
…けれども自分は、それにはなれなかった。
だって自分は弱いから。
…強くなんかないから。
……望む『強い』自分にはなれなかった。
弱さを隠し、縋った結果がこれだ。
そして自分の魂が終わるまで、居続けようと決めた地球からも離れようとしている。
離れたくなんか、本当はない。
居れるなら、ずっと居続けたい。
だけれども。
彼が望むなら。
彼がそう言うのなら。
…離れようと思った。
自分は彼の望む自分になれなくて。
傷つけて。…裏切った。
彼の望む自分にはなれないけど。
最後の応えとして。
…自分は地球から離れようとしている。
離れてしまえば。
街中で彼と会う事も。
同じ空を見上げる事も出来なくなってしまうけど。
それが酷く悲しいけれど。
彼にしてあげられる事は、もう。
これしかないのだから。


(…だから)


許して欲しいとは言わない。…言えない。
どんなに絶望されようと、蔑まされようと。
これが真実の自分で有り、本当の自分なのだから。
…ただ。
あの時、きちんと告げられなかった言葉がある。
彼も告げず、告げられず。
それでもケジメとして。紡がなければならないだろう。
銀時はフっと空を見上げる。
彼の上に続いているだろう、この空の下。
面と向かってなんて言いたくないし、言えないだろう。
だから、この空の下、風が運んでくれる事を願い、…そして祈ろう。
これからの彼に。幸溢れん事を。


(…今まで有難う、土方。…そしてごめん。お前の望む、俺になれなくて。………………さようなら)


…ちゃんと。
告げていればこんな結末にはならなかっただろうか。
あの時。
真実を告げていれば…。


(…有り得ねェな)


もし、は存在しない。
出来てしまった路は。
決して塞がりはしないのだから。
辿った路は引き戻せないのだから。
銀時はもう一度空を見上げ、降り途中だった万事屋の階段を降りきるのだった。
暑くも寒くもない、澄みきった空の下。
…この空を見つめる事は、もう二度とないだろう。


















































屯所に戻れば、雑然とした仕事が自分の机に並んでいる。
忙しさに感けてしまえば、痛む心に気づかずに済む。
土方はそんな事を考えながら、陽が昇った後に屯所に戻った。
寝る気にもならず、軍服に着替えると、朝食も取らず仕事に没頭した。
片付けても片付けても終わらない仕事に辟易しながらも、今日だけは有り難かった。
…何も考えたくない。
走る筆先に、土方は一心不乱に仕事に順じた。
どれだけあっても足りない、そう感じながら。



「副長〜。上部うえから書類来てますけど?」
「あ〜…そこ、置いとけ」
「でも結構急ぎみたいですよ?」
「あ〜…じゃぁ今見る。貸せ」



スラリと土方の自室の襖を開け、山崎が告げる。
告げられた言葉に、土方は面倒臭ェと舌打ちをしながら、その茶封筒に入った封筒を受け取る。
そして、それを開封して。



「…あ?」
「え?」



呆気に取られたような土方の言葉に、立ち去ろうとした山崎も動きを止める。



「どうしました?副長」
「どーしたもこーしたも…コレぁ、今日ターミナルに出入国する船と乗組員のリストじゃねェか」
「え?あれ?」
「あれじゃねェよ。んなの俺の管轄じゃねェ。入国管理局の仕事だろうが。手違いだ」



それを封筒に戻そうとして、土方は動きを止める。



「…あ?」
「副長?」
「…ちょっと待て、山崎」



微かに見えた書類に、土方はまたその書類を封筒から取り出す。
その動作を山崎は不思議そうに見つめる。
本来関係のない書類であれば、すぐにでも山崎に渡すはずなのに。
土方は何が気になったのだろう?



「ぁ、の…副長?」



テロリストの名前でも見つけたのだろうか。
そんな一抹の不安を声に出して、呼べば。



「…こらぁ…」



書類に書いてあった艦隊の名前は『快援隊』
入国者の責任者欄に、土方は苦々しく眉間に皺を寄せた。
     責任者:坂本辰馬    
チっと舌打ちをしながら、もう1枚入っていた書類も見る。
そこに。



「…!!」



出国日は本日、午後。
出国船隊は、入国と同じ船隊名、『快援隊』
責任者:坂本辰馬
船員:坂田銀時



「マ、ジ…かよ…」



確かに自分は口にした。
そしてあの時は望んだ。
しかしそれは何処か現実味がなかった。
銀時がココから…地球から居なくなる。
この空の何処かに居ると思っていた彼の存在がなくなる。
そう考えて土方は自身がゾワリと悪寒に襲われた事に気づく。
自分が望んだ事なのに。
もう二度と会いたくないと思ったのに。
ひどく急激に現れた現実に、自分の思考が追いついていない事に気づかされた。
グシャっと握り潰した書類に、山崎が「あぁ!副長!」と叫び声を上げるが、それすら耳に入らなかった。
チラリと時計を見ると、すでに11時を差そうとしている。
今からターミナルに行けば間に合う。
土方はそう考えて、頭を振った。
別れを告げたのは自分。
そして、これを望んだのも自分。
銀時はそれに応えただけ。
このまま時が過ぎれば、銀時は地球を発ち、そしてもう二度と自分と出会う事はない。
…そう、これは自分が望んだ事。



「…っ、くそ!」



それなのに。
この胸の焦燥感は何だろう。
何故こんなにもすっきりしないんだろう。



「っ、くそっ!…何だってんだよ!!」



イライラする。
望んだ事が現実になろうとしているのに。
起ころうとしている現実を受け入れる事が出来ない。
グシャグシャと髪を掻き回して、イライラを発散させようとするが、無駄で。
脳裏を過ぎるのは、今まで過ごした銀時の顔。
いつもの魚の死んだような、ダルそうな表情。
嬉しそうに笑う。
恥ずかしそうに、はにかんで。
愛しそうに、告げる。言葉、声、吐息。


「…っっ…」


その時に。
ようやく気づいた。…気づかされたのだ。


(…俺ぁ…)


紡いでいない。
伝えていない事がある。
…彼にとって。
自分との時間は何だったのだろう?
…彼にとって。
自分の存在とは一体何だったのだろう?
銀時にとって。
『土方十四郎』と言う人間は、どう言う位置づけだったのだろう。
それは土方自身にも解らなかった。
情事の後に呟かれた名前。
突然現れた、男の存在。
それらに翻弄されて、土方は大事な事を銀時に伝える事を忘れていた。
大事な、たった一言だけれど、それはとても大切な事。



「ふ、副長?!」



土方は立ち上がると、山崎の隣をすり抜け、屯所の廊下を走る。
それに驚いて、山崎が土方を呼べば。



「山崎!」
「は、はい!」
「近藤さんに伝えてくれ。『土方は午後、半休貰う』ってな!!」
「は、はぃ??!!」



…伝えていない事がある。
それはとても短くて。
でも。とても大切で、大事で。



「っ、間に合えっ…!!」






2007/07/03UP