「…アイツは
    銀時はわしがそらに連れて行く」



辰馬より紡がれた言葉に、土方は瞬間意味を理解出来なかった。



「な、に…言って、や、がる…」



追い着かない思考、辛うじて紡げた言葉は自身でも笑いたくなるぐらい滑稽で。
震える全身を叱咤するように、土方はグっと自分の胸の部分の握り締めた。
カラカラに乾いた咽喉を潤す為に、唾液を飲み込む。
その音が妙に辺りに響いた気がする。





「…た、つま…」





その時だった。
耳に届いた、声。
ハっとなって顔を上げれば。
微かに開いた万事屋の玄関に、銀時が立っていた。



「!ぎ、んと…き…」



全身の毛穴と言う毛穴が開き、ドっと汗が出た。
聞かれた…?今までの話、全て…?



「…起きちょったんか?銀時」
「…2つも…知ってる殺気が近くにあったら起きるだろう、普通…」
「あっはっは!わし等が起こしてしもうたか!それは悪かったぜよ」



頭上の2人が会話をする。
土方はそれを黙って見るしかなかった。
…否。言葉を紡ぐ事が出来なかった。
話してる2人が、まるで自分なんかココには居ないんだと。
割り込めない空気をまとっているような気がしたから。
ドクドクと煩いほどに、心臓が早鐘を打つ。
冷たい汗が頬を伝う。
寝着を着た銀時。
横顔は微かに疲れているように見える。
それは…。



「…土方…」
「!!」



その横顔がゆっくりと動いて…自分を見る。
その顔はいつも知っている、銀時の表情ではなかった。
ドクドクと、また、心臓が鳴る…。



「…ぎ、んとき…ぉまえ…ま、さか…」



嫌な予感が胸を過ぎる。
違う、違うと自身に言い聞かせるが、それこそが違うんだと、思う心が悲鳴をあげる。
聞きたくない。
これ以上、銀時からも、辰馬からも何も聞きたくないと。
目を閉じたいと。
耳を塞ぎたいと思っているのに。
指の1本も動きはしない。



「…もしかして…聞いた…?」
「な、にを…」



驚愕の表情が消えない。
その問いに、違う、知らない、と言いたかった。
でもカラカラに乾いた咽喉は、自身の意思とは関係のない、紡ぎたくない言葉を呟いた。



「…辰馬」
「んぁ?何じゃぁ、銀時」
「…土方と話したい。……ちょっと席外してて」
「…了解」



銀時の言葉に、辰馬はスっと銃を下ろして。
それを自身の懐にしまって。
カンカン、と。
階段を下りて来る。
土方と擦れ違った瞬間、土方は何かを言おうとしたが、辰馬はそのまま階段を下りきって。
まだ夜の明けない、歌舞伎町の町に消えた。



「………………………………………」



また、静寂が訪れた。
土方はただ、消えた辰馬の姿を、まるで探すように下に視線を投げたまま。
銀時は、階段途中の土方を見つめたまま。
だが…。



「…ひじ、かた…」
「………………………………………」



小さく呟かれて、土方は微かに身体を強張らせた。
ゆっくりと顔を前に向けたが、視線は下がったままだった。
何を言って良いか解らない、それが土方の正直な気持ち。
解らない。信じたくない。…聞きたくない。…何も言いたくなかった。



「土方…」
「…言うな」
「だ、って…!」
「言うなっ!!」



もう一度小さな声で呼ばれたが、土方はそれを許さなかった。
まだ言葉を紡ごうとする銀時に、土方は声を荒げて静止する。
また、静寂が訪れる。



「…やっぱり聞いた、んだな」
「!…言うな。……言うな言うな言うな!!」



諦めたように呟かれた言葉に、今度こそ、土方は自身で耳を塞いで頭を振った。
聞きたくない。聞きたくないだ。
言われたら、それを信じなくてはならない。受け入れなくてはならない。



「聞きたくねェっ…!受け入れたくなんかねェんだ…!!」
「っ、俺は…!…お前が思ってるほど、強くなんかねェんだ…!」
「だからって…!だからって、これはねェだろうが…!」



愛しい人が傍に居なくて。
そらに行って、居ないからと言って。
それを他の奴で紛らわすなんて…それが自分だったなんて。
…酷い裏切りだと。
土方は1人、苦笑した。



「…とんだ、ピエロ…だな」



愛している、と。
愛していたと自分だけ思っていた。
腕の中に居た恋人は、自分の腕の中で自分ではない他の人に想いを馳せていた。
他の人を想い、穏やかな、はにかむように微笑んでいた。
それを知らずに、自分は1人幸せを噛み締めて。
愛しい、と。言葉を紡いでいた。



「…行きたきゃ行けば良いじゃねェか」



そらへ。



「ひじか…」
「そうすりゃぁ愛しい奴と離れる事もねェ。アイツもそう言ってるしよぉ」



残酷な、ひどく傷つけたい気持ちが頭をもたげる。



「…行っちまえよ」



そして。
永遠に自分の前には現れないでくれ。






2007/05/27UP