「…坂田」
ガックリと項垂れた俺に、タッタと小走りに坂田は近寄って来て。
「遅かったな。今日もう帰るんだろ?一緒に帰ろうぜ」
「はぁ〜…坂田、あのな」
「坂田じゃなくて、銀時!名前で呼んでくれってば」
「…あのなぁ。そう言う訳にもいかねーだろ。1人だけ名前で呼んだら差別になっちまう」
「良いじゃん。俺はされたい、差別。差別大歓迎!」
「俺はそう言う訳にはいかねェの」
「ケチ〜」
「ケチで結構。…つうか、坂田。俺言ったよな?帰れって」
「ぅん、聞いた」
「だったらさっさと帰れっての。こんな真っ暗な中、何してん、だ・よ!」
「痛たたたた…!」
ガシっと頭を掴むとそのまま、グっと握り込む。
そうすると、坂田は痛い痛いと騒ぎ出す。
「だってー辰馬達がしつけェんだもん」
「坂本?…あぁ、そしたらアイツ等は?一緒じゃねェのか?」
「一緒じゃねェよ!帰り振りして巻いた。一緒だったら、ゆっくり先生と話せねーからな!」
話さなくて良いっての…。
てか、何を話すんだよ。
「真っ直ぐ帰るからさ。駅まで先生、一緒に帰ろ」
ニコニコとご機嫌に告げる坂田に、俺は微かに頭痛を覚える。
チラリと時計に目をやると、そろそろ8時になる…。
「お前な、こんな遅くまで居て。親に連絡したのか?」
「………………」
「坂田?」
俺の言葉に。
坂田はきょとんとした表情を浮かべた後。
「してない」
「〜っ、あのなぁ!」
「だってする必要、ねーもん」
「?どう言う意…」
俺がそれを言う前に。
「先生。…聞いてないの?」
「何を?」
坂田の質問に首を傾げると。
坂田は何でもないように。
「俺、親居ないの」
「…は?」
きっぱりと言い放たれた言葉。
え、どう言う…?
「俺。親居ないの。先生、俺の名前知ってるから、学長から俺の事色々聞いてるんだと思ってた」
「否、聞いて…ねェ」
「あ、そうなの?あれ?んじゃぁ何で俺の名前知ってたの?」
「あぁ、まぁ、坂本がお前の名前呼んでたし…お前、3-Zだしな」
「ぇ、先生もしかして3-Zの担任なの?」
「いいや、副担」
「え〜、そうなの?勿体ねー事したー!」
「勿体ねーって何で?」
「だってもっと早く知り合えたって事だろ?それって勿体なくね?」
「………あぁ、もう言ってろ」
もう反論する気も失せて。
俺がそう言うと、坂田は笑顔で言葉を続ける。
「あ、でね。俺、親居なくて、この学校の学長が一応保護者。つっても名前だけな。一緒にも暮らしてねーし。つー訳で、連絡する奴、だーれも居ないから」
「そ、そうか…」
「…せんせ?どうかした?」
しまった。もしかして地雷を踏んでしまったかと。
そう思ったけど。
「…ぁ、っと」
「ん?」
謝る気はしなかった。
つうか、ココで謝るのも可笑しいと思ったから。
「…事情は解った。今日は俺が送ってやる。…けど、これからは遅くまで出歩くな。良いか?」
それだけ言って。
俺はポンっと坂田の頭を軽く叩く。
そして俺は歩き出す。
「ちょっ、何処行くの?駅、こっちだよ、せんせ」
「俺は車で来てんだよ。駐車場こっち、早く来い。置いてくぞ」
歩き出す俺に、タッタと坂田が後ろから駆けて来る足音が聞こえた。
「待ってよ、先生!」
「大声出すな。別に、んな離れてねェだろうが」
「俺は並んで歩きたい、のっ!」
「どわっ!!」
後ろで待てと叫んだかと思うと、急に腕を掴まれた。
咄嗟の事で、思わずガクリとなった俺に、坂田は悪びれた様子もなく、微笑む。
「へへへ…捕まえた」
「腕を掴むな、腕を!」
「良いじゃん。先生がどっか行かないように」
「どっかって…何処に行くんだ、何処に」
離せと言っても聞かない坂田に、俺はもう一度溜息を吐いて。
あぁ、もう車まで数メートル。
このままで良いや、面倒臭ェ!
「ほれ、乗れ」
「はいはぁ〜い」
鍵を開けて、坂田を助手席に座らせる。
シートベルトを締めたのを確認して、車を発進させる。
「お前、家何処だ?」
「え?このままドライブ連れてってくれるんじゃないの?」
「誰がドライブつった?!!帰るに決まってんだろ、帰るに!」
「えぇ〜つまんねーの」
「つまんなくて良いんだよ。ほれ、さっさと住所言え」
「…言わなければ、このまま先生とドライブが楽しめる、と」
「…叩き出すぞ」
「う〜…、言うよ。言えば良いんだろ、言えば!」
ジロリと睨むと、口を尖らせ、ようやく住所を言い始めた。
聞いた坂田の家は俺の家と然程距離がなくて。
(…これならあんま遅くならずに帰れそうだな…)
そんな事を考えながら、赤信号に捕まる。
チラリと坂田の方を見ると…。
「な、何だよ…」
助手席のシートに身を預けながらも、顔は俺の方をジっと見てやがった。
その視線とバッチリ合ってしまい、俺が尋ねると。
「やっぱ大人の男だな〜と思って」
「はぁ?そりゃ、まぁ…お前よりは歳食ってるからな」
「そうじゃなくて。…先生もさ、独り暮らし?」
「あ?あぁ…」
「…ふ〜ん」
そう言うと、坂田はフっと窓の方に視線を逸らして。
それからポツリと。
「…淋しくない?」
「は?」
「帰って…ただいま、つっても誰も居なくて。…淋しく、ない?」
「…………………………」
「早く帰ったって、誰も待ってないし、誰の出迎えもないて」
不意に呟かれた言葉。
…淋しくない?
その言葉に思わず俺は坂田を凝視してしまって。
いつの間にか赤信号は青信号に変わっていて。
後続車がクラクションを鳴らして。
「…先生、信号、青」
「お、おぉ…」
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2006/11/14UP
2011/04/23修正