それは俺がある学校に赴任して来て数日目に起きた。
「よーし、休憩!」
赴任して来たばかりの学校だったが、学生時代からずっとやっていた剣道の腕前を見込まれ、剣道部の顧問をする事になった。
最初は面倒だ、と思ったけど。
学生時代、よく顧問の先生が面倒を見てくれたのを思い出して、恩返しって訳でもないが、それを俺は引き受けた。
やってみると、人に教えるってのは案外難しいもんで。
自分では当たり前と思ってやっている事も、それを誰かに伝えるのは難しい。
放課後に残って、懸命に指導をすれば。
「先生、こう…ですか?」
なんて竹刀片手に聞いて来る。
それが何だか昔の自分を思い出させて。
「あぁ、そうだ」
大きく頷いてやれば嬉しそうに。
「先生、俺は?」
「俺も俺も!」
1人が出来れば自分もと。
懸命に強くなろうとしている姿に感銘を受ける。
…あぁ、俺も最初はこんなんだっけ?
なんて。
ちょっと年寄りくせェか?
「…そう言えば銀時は?」
「サボりじゃなかか?わしは知らんぜよ」
ふと出た名前。
…坂田銀時。
まだ顔は見た事ないけど、何でも3-Zきっての変わり者だとか。
俺が副担任を務めているクラス3年Z組は、この学校の変わり者を集めたみたいなクラスで。
赴任して来ていきなりだけど頑張って、的な事を言われた。
まだ副担を受け持って間もないが、あの変わり者の中の更に変わり者って…。
……あぁ、考えただけで頭が痛くなる……
しかもそいつが顧問の部活の、しかも部長だなんて…。
しかも出て来ねェし…。
「おーし、休憩終わり!打ち合いに入るから、2人1組になれ!…なったか〜?!」
考えても仕方ねェ。
下校時間まで残り僅かだし。
締めとすっか!
「先生、わし余った」
「ぇっと…」
「坂本じゃ」
「あ、あぁ、そうだったな。…悪い」
「赴任にして来て間もないきに、やちがなき。先生のクラスでもあるき、やき覚えくれぇ」
「あぁ。…んじゃ、俺とやるか?」
「おっ、わし強いぜよ?」
「俺は学生時代、全国2位だったんだぜ?」
「まっことか?!」
「んな嘘吐いてどーすんだよ」
「んじゃ、先生と銀時がやったら、げにまっこと面白いぜよ」
「…………坂田は強い、のか?」
「曲がりなりにもわしらん大将じゃ。強いぜよ」
誇らしげに言う坂本。
どんな奴だか知らないけど、…ふ〜ん。信頼はあるみたいだな。
「よーし、んじゃ、…始めっ!」
号令と共に、しないのぶつかり合う音と、気合いの声が剣道場に響く。
そんな中。
「…なぁ、坂本?」
「何じゃ?」
「さ、かたは…何で…、学校に、来、ないんだ?」
打ち合いをしながら話す。
「っ、た、ぶ、んじゃが、…嫌なんじゃないかと思う、きに!」
「…嫌?」
「そう、じゃっ…!」
「何が、だよ?っと…ぉ、隙、有り…!」
「ぅわっ?!ぁ、危なかったぜよ…」
「そ、れで?」
「ぁ?」
「坂田の話、だよ…!」
「あ、あぁ…っ、ちょっ、先生打ち合いながらよぉ話せるき!」
「まぁ、キャリアの差?」
「っっ、ズルイぜよ!…銀、時は!…外見が特別ぜよ」
「特別?」
「そうじゃ…隙有り…!!」
「甘い」
「うぉっ?!!」
ヒラリと避けて。
そのままチラリと時計に目をやる。
下校時刻10分前。
…まっ、こんなモンだろう。
「おーし、打ち合い止めっ!…集合!!!」
流石に動いて暑い。
俺は着ていたTシャツを引っ張って、流れて来た汗を拭く。
あ〜…シャワー浴びてぇ…。
その時だった…。
「…お〜す」
気だるそうな声と、ガラガラと開く戸。
皆の視線がそちらに向く。
「よぉよぉよぉよぉ、きちっとやってるかね〜しょく……」
「……………………………」
そいつを見て。
俺はすぐにそいつが『坂田銀時』だって解った。
だって。
「………………………………」
クルクルの…多分天パに、真っ白な髪の色。
だらしなく開いている制服から覗く、白い肌。
『特別』
ようやくさっき坂本が言った言葉が理解出来た。
「な、何だよ…」
そいつはトコトコと俺の目の前まで来ると。
ジっと俺を見つめて来た。
その視線に耐え切れなくて、声を発した俺に。
「なぁ」
「あ?」
ジっと見ていた瞳が。
ニコっと笑って。
「俺と付き合って」
サラリと紡がれた、言葉。
「はぁ?」
「銀時?!」
「銀?!!!」
…3-Zきっての変わり者と言うのを実感するのに。
時間はそう、掛からなかった。
![]()
2006/11/14UP
2011/04/23修正