カツン…。
たった一歩の歩みの音が反響する。
土方は周りに注意しながら、歩を進める。


(…誰も居ないのか?)


気配を探っても、誰の気配もしない。
自分の勘は間違っていたのだろうか?
微かに過ぎる疑問も払拭しながら、手近な部屋を覗き込む。
疑問に感じるなら確かめれば良い。
モタモタしている時間すら、今は惜しいのだから。
部屋の奥へと進むが、一向に人の気配すらしない。



「…チっ」



小さく舌打ちしながら、一旦入った部屋を出る。
そして隣接する部屋へと足を踏み入れる。
1つ、また1つと部屋を確認する。
その時。


…カ…シャン…


「っ!」


小さく響いた音に、咄嗟に近くの柱へと身を隠す。
しかし銃撃されるでもなく、辺りはまた静寂へと包まれる。


(…気のせい、か?)


そんなはずはないと思いながらも、そっと顔だけを出す。
…視線を素早く辺りに走らせながら、何かに備え神経を張り巡らす。
しかし何も起こらず、土方は柱から身体を出す。
しばらくそのままジっとしていたが、何も起こらなかった。
はぁ、と息を吐き出し、緊張させていた身体の力を抜いた。
ゆっくりと部屋中を見渡すが、やはり人の影はおろか、気配すらせず。
気のせいなのだろうかと踵を返した、その時。


…カシャン…


「…!」


足に当たった。
床に転がった拳銃。
土方はまたゆっくりと辺りを見渡し、それを手にする。
ずっしりと重い、拳銃それ
中を確認すると、ちゃんと弾は込められており、不審な点はない。
だが、何故それがこんな所に?
過ぎる疑問に、それを持ち出そうか悩んだ。


(罠、か?)


引き金を引いた瞬間、暴発の可能性は否定出来ない。
しかし。


(…丸腰、よりマシか)


丸腰の状態で、誰かに会えば。
銃撃戦にでもなれば、自分に勝ち目はない。
足手まといになるより、銃を持ち、もしそれが暴発したとしても、足手まといの自身を自分で始末出来るのなら、それも良い。
そう考え、土方はその銃を懐へと入れた。
ふと。
静まり返った部屋に疑問を感じた。
外では先ほどまで銃撃戦が繰り広げられていた。
この部屋、このビルの最上階に昇るまで、確かに乾いた音が何度も聞こえていた。
それなのに今はどうだろう。
静まり返った部屋。
辺りには何の音もしない。
不意にドクリと心臓が冷たくなる。
冷たい汗が頬を伝う。
そっとガラスのない窓から外の様子を伺った。
暗闇に。誰の姿も確認出来ない。
あの煌々と着いていたランプは?
あれだけいた人は?
静まり返る部屋と、外。
桂は?辰馬は?
……死んでしまったのか?


(…っ、まさか!)


あれだけの人数をたった2人で相手にしていたのなら、当たり前だと思う。
しかし何もない広野でもないのだ。
辺りには廃墟が沢山ある。
それに身を隠せば。
あれからそんなに時間は経っていない。
…否、自分ではそう思っていても。
時計の針はもっと、自分が思っている以上のスピードで時を刻んでいたのだろうか?
バっと辺りを見渡して、小さく舌打ちする。
自分は廃墟の中に居るのだ。
時計などあるはずがない。
自分はいつも腕時計と言うものをしていない。
手首の動きが制限されるのを嫌がって着けていない。
時計はいつも携帯で確認していた。
しかし今、その携帯は電源をオフにしていて、黒い画面しか映し出していない。


(…電源を入れるか?)


しかし幾ら携帯電話の電源をオフにした時マナーモードにしていても。
電源を入れれば、入れた時バイブレーションが作動するだろう。
もし、今奴等が自分の事を探していたら?
もし、そのバイブレーションの音で奴等に見つかったら?
もし、携帯の微かな明かりで奴等に見つかってしまったら?
       危険は冒せない。
なら。
階下したに行くべきか?
それとも自分の勘に頼って、この廃墟の隅々を探すべきか?
幾つかの選択。
瞳を閉じて選択肢と選択する。
グっと手にしている拳銃を握り、階段へと走り出そうとした。
…その瞬間。





「ぉぉぉぉぉぉぉっっっっ…!!!!!」





「!!」



聞こえた声。
土方はすぐに踵を返して。
その声が聞こえた部屋へと駆け出したのだった。






2008/06/04UP