「久しいな、この格好をするのも」
「そうじゃな〜。特におんしは男ん格好するのも久し振りじゃなかか?」
「失礼な事を言うな。必要以外、女装などするか。俺はオカマではない」
「ほがか〜?結構ノリノリに見えたぜよ?」
「……っっ、テメェ等っっ…!!」
ギリギリと歯軋りの音まで聞こえそうな程、土方は歯を喰いしばった。
そして。
ダン!と地団太を踏んで叫んだ。
「テメェ等何ノンビリ寛いでやがんだっっ!!!!」
土方の家を出た坂本は、ちょっと寄りたい処があると言い、とあるマンションへと土方を連れて行った。
そして、部屋に入ると、ちょっと待ってろと言い、奥の部屋へと入って。
数分後に、出て来た坂本に土方はアングリと口を開いた。
「なっ…着替えに寄ったのかよ?!!」
叫び怒る土方に、坂本はニッコリと微笑んで。
「身だしなみは大事やき」
「時と場合を考えろ!!とっとと行かねェと、金時がっ…!!」
「まぁ、そう焦るな」
「なっ…!!」
静かな声で言葉を紡いだのは、坂本と同じくスーツに身を包んだ桂だった。
「急いては事を仕損じる。まずは落ち着いたらどうだ」
そう言って、桂は土方の横を通り過ぎ、キッチンでヤカンを沸かす。
「まずは座ったらどうだ?」
「…っ…」
冷静な2人の様子に、土方は何だか無性に悔しい気分となり、ドカっと近くにあったソファーに腰を落とす。
それに習って。
坂本も土方とは反対側のソファーに腰を掛ける。
暫くして、ヤカンが蒸気を発し、お湯が沸くと、桂はお茶を淹れ、それを2人の前に出す。
そして、冒頭の会話に到るのだが…。
「のんびりなどしておらんぞ、なぁ、坂本?」
「あぁ、そうじゃそうじゃ。のんびりなどしちょらんぞ」
「大体、んなスーツに着替える時点で危機感がねェんだよ!」
「まぁそう言うな。身だしなみはモテる男の第一歩だぞ」
「そうじゃそうじゃ。じゃから、おんしは女にモテんのじゃ」
「見たのか?!見たのか、お前等は!!つうか、大きなお世話だ!!!」
「何だ、やはりモテんのか」
「何じゃ、やっぱりモテんちや」
「うるせェェェェっっ!!!!!!!!」
土方の声が木霊する。
ぜぇぜぇと肩で息をする土方に、桂と坂本はふぅ、とお茶を一口飲む、それをテーブルに置いてから。
「ここにおんしを連れて来たのは、別に着替えたかったばあがやないんぜよ?」
「あ…?」
「細かい話をしたかったんだ。…他者に聞かれる心配のない所で」
「…どう言う事だ?」
話の内容に、ピンと土方は張り詰めた空気を発した。
それは、土方の前に座る、桂・坂本の表情も真剣なものへと変わっていったから。
「…『高杉』が今夜、何やら取引を行う、との情報が入ってる」
「なっ…!」
「場所は解っちょるんじゃ」
坂本から紡ぎだされた『高杉』の名。
それはここ数日、ほぼ毎日と言って良いほど、自分の職場で聞いていた名。
警察が血眼になって捜している人物。
バサリと眼前に広げられた地図と、指差された場所。
「何でそれを警察署来た時に言わねェんだよ!金時もそこに現れんのか?…なら、尚更民間人が危ない真似っ…!!」
警察が知り得ない情報を、元四天王とは言え、今は民間人の彼等が知っている事が癪に障った。
そして。
まるで自分が役立たずなような気もして、土方は余計苛立ちを募らせた。
しかし、バンとテーブルを叩く、土方が怒鳴っても、桂・坂本は冷静な口調で。
「大勢で動けば、奴等に察知される可能性がある」
「テメェ、警察馬鹿にしてんのか?んなヘマする訳ねェだろうが!!」
「そればあがやない。取引の時間も解っちゃーせん」
「あぁ?!時間だぁ?んなモン、張り込みしてりゃぁ良いだろうが!!」
「人の気配に酷く敏感な奴等だ。それは今まで尻尾を警察に掴ませなかった事で解っているだろう」
「ぐっ…!」
「それに」
「それに?」
「…ケリを、着けたい……俺達で」
「………………………………」
静かに桂から紡がれた言葉に、土方は黙った。
「俺が…俺達でケリを着けたい。過去を…清算したいんだ…」
俯いたせいと、長い髪で表情は、土方からは見えなかった。
「…ぁ、の…」
どう声を掛ければ良いのか。
土方は戸惑った。
そして。
何と答えて良いのか躊躇した。
事情は解る。
そして気持ちも。
でも。
これは遊びではない。
マフィアが関係し、そして麻薬も関係している。
幾ら関係…昔の仲間が関係し、そして彼等も関係している事とは言え。
今は民間人の彼等を、事件真っ只中に放り込んで良いものだろうか。
「…だから」
「…ぇ…」
土方は逡巡し、視線をテーブルに移し、顔を俯かせた瞬間。
桂から呟かれた言葉が、理解出来なくて。
顔を上げた。そして。眼前に。突き付けられた。
見慣れた、否、見た事のある、物。
「な、に…?」
「…邪魔するものは排除する」
「て、め…っ」
「正直貴様をココまで連れて来たのも、今まで生かしておいたのも」
「………………………………」
「警察が何処まで掴んでいるか、そして金時の動向を掴む為でもあったんだ」
「両方に精通しよったがはおんしばあじゃったからな」
「テメ…等、俺を…躍らせやがったな…」
「ふん…でも結局、警察は何も掴んではおらず」
「…金時も見失ってしもうた。しゃっちみちわしが電話して警告まやったってゆうがやき」
「!あの不審電話はテメェか」
前に架かって来た電話。
それの正体は、この坂本だったのだ。
『…坂田金時から目を離すな』
「しゃっちみちヅラに調べてもろーてまで掛けたとゆうがやき。…てき、期待外れぜよ」
「だから言っただろう。…何人たりとも、金時の心は捉えられぬ、と」
好き勝手に話を進められる。
しかし突き付けられた銃のせいで身動きは取れない。
ツゥっと汗が頬を伝う。
「まぁ、貴様には十分情報を提供してもらった」
「おんしのお陰で『神楽』の存在が浮き彫りになっちゅう。…やき色々とこちらで掴んじゅう情報も提供しちゅう」
「テメェ等だけで、解決…させるつもりか?」
「無論だ」
「っ、んな簡単…!!」
「…邪魔するつもりならココで消す」
「…っ!」
「金時には俺から上手く言っておくさ。…死にたくなくば、誓え。この件は忘れる、と」
突き付けられた黒い銃口。
そして真剣な眼差し。
土方はゴクリと唾を飲んだ。
静かな部屋に、それは妙に響いた気がした。
さっき、お茶を飲んだはずなのに、ひどく咽喉が渇いた。
カラカラになった咽喉を潤すように、もう一度唾を飲んだ。
そして…。
「…誓…」
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2007/04/06UP