「………金時」
声が聞こえる。
「……金時」
誰かが…呼んでる…。
「…金時」
優しい声。
「んっ…」
「金時…ほら、いつまで寝てんだよ」
サラリと頬を撫でる指がくすぐったい。
目蓋の裏に当たる陽の光が眩しい。
金時は微かに身動ぎをする。
「ん、っ…まぶしっ…」
「いつまで寝てんだよ。いい加減起きろ」
金時は瞳を擦って、微かに身動ぎをしたら。
もう一度優しく頬を撫でられた。
それが気持ち良くて。
「寝んなっての」
「んっ…やだ」
「やだじゃねェっての。起きろ。朝…つうか昼だぞ」
「…チューしてくれたら起きる」
「寝惚けた事抜かしてんな」
「やーだー」
起きろとツンツンと髪を引っ張られて。
それでもこの心地良い空間を手放し難くて。
駄々っ子みたいに我侭を言う。
…目を閉じていても。
そこに土方が居ると、金時は気配で感じていた。
自分のすぐ近くに居て…優しく微笑んで、自分を見てるって解る。
離れたくない。
ここにずっと居たい。
このままで居たい。
金時はそんな思いを込めて、もう一度瞳を身動ぎをした。
「起きろっての。今何時だと思ってんだよ」
「チューしてくんなきゃ起きないー」
「あのな…」
「チューして。土方君」
柔らかいシーツに半分顔を埋めて。
柔らかい光が部屋を包む。
「…金時」
「チューして」
優しく、金時を呼ぶ声。
起きたての、少し虚ろな瞳が土方の姿を映す。
「はぁ〜…ったく、本当にお前はしょうがねェ奴だな」
ハァ〜っと長い溜息を吐いて。
金時がニコっと微笑めば。
苦笑するみたいに土方も微かに微笑む。
ん…と小さな声で呟いて。
徐々に近づいて来る、土方の首に金時は腕を伸ばす。
ギシっとベットのスプリングが微かに鳴って。
2つの影が重なる。
「ぇへへ…大好きだよ、土方」
「…あぁ」
「…ちょっとちょっと〜俺が好きだって言ってんだから、そこは『あぁ』じゃなくて、お前も言う所だろうが」
「…ふん。好きでもねェ奴にキスする程、俺は酔狂じゃねェよ」
「言ってよー」
「煩ェ。キスしてやったんだから、さっさと起きろ」
「起きました。目を覚ましてんだろ」
「…お前、そう言うのへ理屈って言うんだぞ」
「へ理屈上等。好きって言って。…土方の声で聞きたい」
ベットに横たわって居る、金時。
その金時の傍で、ベットに腰を掛けて居る土方。
金時は、傍に置かれた土方の腕にギュっと抱き着いて。
甘える仕草と上目遣い。
…それは、土方が弱い金時の仕草。
「〜っっ」
「ねぇ、言って?」
ジっと金時が土方を見つめれば。
土方は額に手を当てて、ハァ〜っと長い溜息を吐いて。
「…1回だけだぞ」
「土方君、意外とケチだな」
「っせェっ!んな頻繁に言って堪るか!!」
「はいはい、解った。…大好きだよ、土方?」
ん?と首を傾げれば。
「…俺も、その…」
「ん?」
「……好き、だよ」
「ぁははは!土方、真っ赤!可愛い〜!!」
「てめェっ、からかうな!望み叶えてやったんだから、起きろ!!」
照れ隠しに。
土方は金時の金糸を少し乱暴に混ぜる。
それを感受して。
ようやくそれが離れた頃。
金時もベットから起き上がって。
部屋を出る土方の背に。
金時は声を掛けた。
「なぁ、猫でも飼おっか?」
「…んだよ、急に」
「ん〜前にさ、俺猫っぽいって言われた事あんだ」
「あぁ、何かそれ、解る気がする」
「…どう言う意味だよ」
「勝手にじゃれ付いてきて。自分の気が向かない時は全然放置なの」
「ちょっとちょっとー!俺、土方君の事放置した事ないでしょー?」
「どうだか」
さっきの意趣返しか。
ニヤリと微笑んで、意味有り気に言う土方に。
金時は子供がするみたいに、プクっと頬を膨らませて。
「んなツラすんな。不細工んなんぞ」
「どーせ不細工ですよ」
「誰も不細工だとは言ってねェだろう」
「ツーン」
ぷいっと横を向いた金時。
その仕草が子供染みてて。
でもそれが凄く可愛らしくて。
土方はクスクスと笑いながら、金時に問う。
「で?」
「へ?」
「猫だよ、猫。何で急に飼おうなんて言い出したんだ?」
「あ、あぁ…ほら、淋しくないだろ?」
「…は?」
突然の言葉に、土方が目を丸くした。
「ほ、ほら…夜は俺、仕事行っちゃって、土方君独りでしょ?だ、だから淋しくないように、その…ね、猫を……」
「…プっ!」
モジモジと恥ずかしげに呟いた金時の言葉。
その言葉に土方が噴き出した。
「ぁはははは…!おま、それ、自分が淋しいから飼おうつってんだろ?!」
「ち、違いますぅ!ひ、土方君が淋しくないように、金さん…!」
図星なのか。
真っ赤になって反論する金時に。
土方はそっと金時の金糸を、優しく撫でて。
「良いんじゃね?」
「へ?」
「
土方の言葉に。
金時は顔をパっと明るくさせて。
「じゃ、じゃぁ…俺、真っ白な猫が良い!真っ白で可愛いの!!」
「はぃはぃ。んじゃ、今度、お互い休み取ってペットショップにでも行こうぜ」
「うん!」
暖かい部屋。
眩しい日差し。
優しいアナタ。
微笑むアナタ。
そんな所に。
ずっと居られると信じてた。
ずっと続くと思ってた。
『………金時』
呼んでる。
『……金時』
…誰かが、呼んでる。
「おいっ、金時!!」
「…っ…!」
「何寝てんだ!もうすぐいらっしゃるんだぞ?!しゃきっとしろ、しゃきっと!!」
呼ばれた声に、金時は目を覚ました。
一瞬、自分が何処に居るか解らなかった。
…薄暗い、ビルの一角。
そこに光はなかった。
あるのは…。
(…夢、か…)
窓から見える、ネオンの光。
部屋の中には。
黒服を着た数人の男と。
自身が座る、汚らしいソファーと机があるだけ。
「…バッカでー」
「ん?何か言ったか?」
「なぁーんも」
肩を竦めて答える。
同時に。
カツカツ、と。
廊下に足音が響く。
その瞬間。
部屋に居た黒服が姿勢を伸ばした。
金時はポリポリと後頭部を掻いて。
ゆっくりとドアが開くのを眺めた。
「…久し振りネ、金ちゃん」
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2006/9/10UP