「…騙されてるかも知れん。わしも、金時も、…『高杉』も」
「…え?」
突然坂本から紡ぎ出された言葉に、土方は思わず目を見開いてしまう。
『騙されている』
…一体誰に?
「さっきから言うちょるように、これはわしの憶測なんじゃがな」
「あぁ…」
先を促すように頷くと。
「その、金時が言うちょった『太い客』ってのが『神楽』じゃったら、辻褄が合うんじゃ」
「…『神楽』?誰だ、それ?」
「マフィアのボスでな、ほがぁ金時に執心でなぁ」
「…ケっ、奇特な事で」
「そがな言うちょるけど、金時はモテちょったんじゃぞ。おんしも解ろうが?」
「なっ…!」
「綺麗やし、強いし。…可愛いじゃろ?」
坂本の口調に、土方の眉間に深い皺が刻まれる。
目もますます険しくなり…。
「…テメェもその1人だとか抜かすんじゃねェだろうな?」
「わしはあいつの保護者じゃき。そんな気はほとほとないぜよ」
肩を竦めて苦笑しながら、坂本が告げる。
しかしそんな仕草よりも、土方にはもっと気掛かりな言葉が坂本より紡がれた。
「保護者って何だよ…?」
「…まぁ、そこら辺の事情はこれが終わった後にじっくり話しちゃる。今は時間がない」
坂本は懐より携帯電話を取り出し、ダイアルする。
「おい」
「…桂に連絡するぜよ。もし『神楽』が絡んじゅうんじゃったら、面倒じゃ」
「面倒…?」
「…多分、『神楽』の狙いは金時じゃ」
「狙いって何だよ?」
「さっきも言うたき。『神楽』は金時に『執心』だったぜよ。…あ、もしもし、ヅラか?わしじゃ、辰馬じゃ」
桂が出たのか、坂本は幾つか言葉を紡いで。
その中で…。
「『神楽』の狙いは『金時』が『高杉』殺す事ぜよ。後手に回ったら面倒な事になる。おんしも解ちょるじゃろ?」
「…っ!」
土方は我が耳を疑った。
先程坂本から紡がれた言葉を考え込んでいた土方だったが、その言葉に顔を上げ、坂本を凝視した。
金時が誰かを殺す…?
誰か…高杉を…?
「おぃ!そりゃぁどう言う…!!」
「言うたが。『神楽』は金時に『執心』なんじゃ。金時手に入れる為じゃったら、あいつが傷ついても構わん。そう言う奴ぜよ」
「でも…まさか…!」
「わしの見立てでは、こうじゃ」
坂本から紡がれた言葉は俄かには信じ難いものだった。
まずは『攘夷』に『ホスト係り』をさせ。
『偽の情報』を流し、『高杉』を特攻させる。
そしてそれを助けに来た他メンバーに『高杉』を助ける為の条件を出す。
即ち、『攘夷』の解散である。
…無論、『高杉』を助けたい3人はその条件を飲む。
「『攘夷』を解散させれば、金時の心の拠り所はなくなるき」
そうして『独り』になった金時。
だが、それで終わる訳もない。
自身のせいで失った『攘夷』を取り戻そうと『高杉』が動く。
それを影で助けながら。
『高杉』と『金時』を接触させる。
もう何も失いたくない『金時』は『高杉』を止めに入る。
「そっからどうするかはわしもよう解らん。金時に手を下させるのか、ほれとも見せかけるのか…どっちにしろ『神楽』は『高杉』を消すつもりぜよ」
「…………………………」
土方は言葉がなかった。
たった1人の人間を手に入れるだけで、そんな壮大な事をするだろうか。
「…信じられんちゅう顔しちょるな」
「だ、そ、…りゃ…」
「それくらい、『神楽』にとって金時は特別な存在ちゅう訳じゃ」
「な、んで…そいつは…んなに…」
「理由がか?…簡単じゃ」
ピっと坂本は携帯を切って、微笑する。
その微笑みは何処か淋しさを伴って。
「…金時が誰のモンにもならんかったから」
「誰の…?」
「どがな愛されても。どがに貢がれても、あいつは誰のモンにもならんかった」
「そ、だけ…で…」
「…人間なぁ」
よいしょと言いながら、坂本は身を沈めていたソファーから身体を起こす。
それを見ながら、土方はだた次に坂本から紡がれる言葉を待った。
「…手に入れられんモン程、欲しくなるんじゃ」
「だからって…人を蔑ろにして良い道理にはならねェだろう」
「…おんし金時の喧嘩、見た事あるか?」
「は?ねェよ…つうか、1ホストのあいつの喧嘩なんか…」
「惚れるぜよ」
「は?」
「絶対惚れるぜよ。鮮やかな金髪に、流れるような体捌き、いつもは緩い瞳が冷たい炎を宿らせる」
「…………………………」
「まっこと綺麗じゃ。抗う事なんぞ許されん。見る者全てを虜にする。…それぐらい喧嘩ん時の金時は綺麗なんじゃ」
「…あんたも…その1人、って訳か…」
苦虫を潰すように土方が呟いた。
その言葉に坂本は最初目を見開いていたが、ゆっくりと苦笑して。
「そりゃ惚れたが、わしはモノにしたいとは思っちょらん」
「……………………」
「何じゃ、疑っちょるのか?まっことじゃ。あいつは自由で居るのが一番じゃ。自由でこそ、あいつは輝く」
「……………………」
「わしはあいつに惚れちょるが、モノにしたいとかそう言う類ではないぜよ。わしはあいつを見守りたいだけじゃ」
「見守る…?」
「そうじゃ。あいつが何処に行って、どうなるか。…幸せくじゅうて欲しいと思っちゅう」
「…幸せ」
紡がれた言葉に土方は思った。
自分の前ではいつも笑っていた。
幸せとまではいかないが、ずっとそんな重い過去を背負ってるなんて思いもしなかった。
知った金時の過去。
辛い現実。
自分は何処まで金時と関わり、どんな関わりを持っていると言うのだろう。
金時にとって自分の位置は一体何処なんだろうか。
「……………………」
黙ってしまった土方に、坂本は。
「ほがーに難しく考えき良いよ。それより…」
あっはっは、と豪快に笑って。
バンっと土方の背中を叩いた。
「痛ェっ!痛ェよ、んだよ…!」
「これからじゃろ?」
「は?」
「金時の過去よか、大事なんはこれからじゃろ?」
「…………………」
「おんし、金時の事、抱いたんじゃろ?」
「?!!」
突然紡がれた言葉に、土方が目を白黒させていると。
「図星やか…」
「てめっ、カマ掛けたな!!」
ニヤりと微笑んだ坂本に、しまったと思った時には遅くて。
「さっきも言うたき、誰のモンにもならんかった金時が選んだんじゃ…自信持ちぃ」
睨み付けた土方だったが、坂本は気にもしないで。
もう一度、今度はさっきより強めに土方の背にまた平手打ちをする。
「ぐほっ…!!」
「金時、連れ戻しに行くき。…手伝え」
前を見据えた坂本に、土方の顔も引き締まって。
「…命令してんじゃねェよ」
全てを終わらせる為に。
大切なものを取り戻す為に。
…前を見た。
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2006/08/22UP