「金時っっ!!!」
バタンっと扉を開くと同時に土方は部屋に飛び込み声を上げる。
バタバタと足音を立て、家中を探すが、何処にも金時の姿はなく。
「…っ、何処行きやがった、アイツ…!!」
「…おい、部屋は何処だ?」
「え?」
「アイツん部屋じゃ。何処じゃ?」
「あ、あぁ…そこの…って、ぉい!!」
土方が桂に聞かれ、それを指を差す形で答えると、桂と坂本は一直線に指差された部屋に向かう。
それを土方は慌てて追い駆ける。
「おい!勝手に…っ!!」
「…ヅラ、やっぱりなかか?!」
「…あぁ」
「…そがか」
「あ?ないって何が?やっぱりって何だよ…?」
部屋に入ると、2人は洋服ダンスを開け、納得した顔を浮かべる。
それを不思議そうに見ていた土方だったが。
「…スーツがなくなっている」
「スーツ?」
「そうじゃ。…わし等んとっては特別なスーツじゃ」
「特別…?スーツがか?」
「『攘夷』を立ち上げる際に我々で買った、揃いのスーツの事を言っているのだ」
言われた言葉に土方は、身体を強張らせた。
ギュっと拳を握って。
「…やっぱりアイツも『攘夷』の1人だったんだな」
「…あぁ、そうだ」
「予想はしちょったじゃろ?」
「……………………」
俯いてしまう土方に、桂はポケットから携帯を取り出し。
「…あぁ、俺だ。……あぁ、あぁ…そうだ。俺達も準備を始める」
「…首尾は大丈夫じゃろな?」
「あぁ、抜かりはない。…行くぞ、坂本」
電話し終わると、桂はまた携帯をポケットにしまい、坂本に声を掛ける。
そして出て行こうとする2人に、土方は…。
「…っ、おい!何処行くんだ!!」
「俺達も準備を始める」
「準備って…」
「夜には到着せねばならん。悪いが急ぐのだ」
「急ぐって…金時か?金時の所に行くんだろ?!」
「………………………」
それに桂は答えなかった。
ただ黙って玄関へ向かおうとしたのを、土方は桂の手首を掴んで静止に入った。
「俺も行く。俺も連れて行け」
「………行って…金時と会ってどうするつもりなのだ?」
「…助けたい」
「…助ける?何も知らぬ貴様が?」
「…あぁ…俺は何も知らない。アイツの事、何も知らねェよ」
桂のきつい口調に、一瞬動きを止めた土方だったが、すぐに真摯な瞳を桂に向けた。
「俺がアイツの事で知ってる事と言えば」
『土方君、土方君』
「いっつも笑ってて」
『お帰り!土方君』
「すぐにおちゃらけて」
『行ってらっしゃい、土方君。行ってらっしゃいのチューしてあげる。…ん〜』
「…本当は弱くて」
『…ごめん、土方君。もうちょっとこうさせて』
「……甘えん坊で」
『…土方、が…す、き…』
「純粋な奴だって事、だけだ」
土方の脳裏に浮かぶ、数々の金時。
時に笑って。時に甘えて。
時に弱さを見せ、時に縋りついた。
人から聞いた、幾つもの過去と、自信が知っている金時は。
当て嵌まらない。
『攘夷』の四天王で。
恐れられていたなんて想像もつかない。
ただ、信じられるのは。
今朝。
『…ぉ、れも…ぁい、…してる…』
はにかんで言った、あの言葉、あの表情。
ただそれだけ。
「…先行っちょれ、ヅラ」
「ヅラではない、桂だ。…どうする気だ、辰馬」
「わしが話しちゃるよ。…金時が言えんかった事とか、全部」
「…金時に、怒られるぞ」
「慣れちょるぜよ」
「…はぁ。解った」
桂は頷くと、急いで部屋を後にする。
坂本も土方もそれを見送って。
坂本は金時の部屋を出ると、ソファーに腰を沈めて。
「どっから聞きたいん?」
「…全部」
「全部話すにゃ時間がなさ過ぎじゃ。掻い摘んでで良かか?」
「…あぁ」
はぁ〜と深い溜め息を吐いて。
ポツポツと話し始める。
「さっき話した通り、わし等…金時、桂、高杉、わし、『攘夷』ちゅうホストクラブで働いちょった」
「『攘夷』…」
「そん頃のわし等なぁ、ホストは確かに女性からお金ば貰うけど、ホストはホストとして、プライド持って仕事しちょぉ思っちょったんじゃ」
「ホストはホストとして…?」
「気持ち良ぉお金払えるよう。騙したり、クスリ使こぉたりせんで、道外さんでちゅうこっちゃ」
それは近藤や沖田、山崎から聞かされた話だった。
「ある日な、大量の麻薬の密売の話が、わし等んトコに転がり込んで来たんじゃ」
「まや…!」
「しかもそれには多くのホスト関わっちょるみとぉな話も混じっとってな。そればぁ聞いた高杉が、逆上して突っ込んでったんじゃ」
「…んで、お前等が助けに」
「じゃが、不思議なんじゃ」
「…?」
「そこの現場には麻薬のまの時もなかったし、ただ、ボロボロの高杉だけが居ったんじゃ」
「え…?そ、それって…」
「高杉に駆け寄っちゃら、周りは黒服。しかもご丁寧に銃まで持っちょって。『今度今までのような活動をするな』言いよる」
「ちょっと待て!それじゃぁ…!」
「そうじゃ。多分おんし等が聞いちょる話と違うはずじゃ。…情報操作がされちょる」
「………………………」
「何はともあれ。…わしはこんで良かったぁ思ぉちょるんじゃ」
「良かった…?」
坂本の口から紡ぎ出された言葉に、土方は目を丸くした。
「…わし等始めたんは、楽しむためじゃった」
「楽しみ…?」
「お客もわし等ホストも楽しく。日常忘れて、夢の一時を。そう思っちょって、ホスト始めたんじゃ」
「日常を、忘れて…」
坂本の言葉で土方は警察で話していた事を思い出していた。
『攘夷』の人気の秘密。
「『女性に夢を見させるのがホストの仕事』…」
「よぉ知っちょるな。それわし等のスローガンじゃ。わし等は正義の味方でも何でもなか。…ホストじゃ」
「だったら…何で、んな事始めたんだ?…『ホスト係り』」
「…………『ホスト係り』やが」
土方がその言葉を紡ぐと、坂本はソファーの背凭れに背を預け、深い溜息を吐いた。
「…金時にパトロンが居たの、知っちゅうか?」
「パト、ロン…?」
「あぁ、パトロンは男の事指すやき。ホスト用語で『太い客』言うが、おんし知っちゅうか?」
「ふ、とぃ…客…」
『そしたら数日しない内に太い客。…あ、これはホスト用語で金持ちって事ね。まぁ太い客が付いた訳よ、俺に』
以前金時が口にした言葉を思い出す。
太い『客』…。
「そう言えばアイツ、前にも言ってたな。『太い客』がついたって」
「何?!いつじゃ?!!」
「お、俺んトコ来た時…何かその太い客とアフターだか何だかでホテル行こうとしたら、親が雇った用心棒に殴られたって……」
土方の言葉に坂本はガっと土方の肩を掴んで凄い形相で迫った。
それに圧倒されながらも、土方はポツリポツリと言葉を紡ぐ。
それを聞きながら、坂本は暫く考えて。
「金時、そいつの容姿ばぁ言うてなかったか?」
「ぃや、容姿とかは特に…ただ『相手の女の子の父親が何してるか知らないけど、用心棒雇って娘奪いに来るなんて、危ない系だろう』とは…」
「……こっからはわしの憶測なんじゃがな」
「あ、あぁ…」
「騙されてるかも知れん。わしも、金時も、…『高杉』も」
「…え?」
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2006/08/16UP