心の何処かで解ってた。
この幸せが一時である事。
…俺が何者で。
何をしなきゃいけないのか。
解ってるつもりで、でもそれはやっぱりつもりでしかなかった。
目の前に現れたアイツは。
俺を見ているようで、何処も見ていなかった。
きっと。
きっとアイツを救えるのは俺だけで、アイツをあぁしたのも、多分俺。
責任、って訳じゃねェけど。
…俺はアイツを救いたい。
……否、救う、なんて大層なモンじゃない。
そう、これはきっと…。



「………………………」



シュっと衣擦れの音がする。
静かな部屋に、それは妙に響いた気がした。



「…………ごめんね」



もう何度。
誰も居ないこの部屋でこの言葉を紡いだだろう。
謝罪と言うよりは、懺悔に近い。



「………本当………ごめんね………」



言葉を紡げば。
ポツリポツリと思い出が甦る。
たった数週間。
日にちにしてみれば、少ない日数だけど。
俺にとっては掛け替えのない時間。
最初に会ったアイツは。
カリカリと。
イラついた顔を浮かべながら、『現場』と呼ばれるホストクラブの強制捜査の場に居た。
…本当はもっと前に歌舞伎町で会ってたけど。
きっとアイツは覚えてないんだろうなぁ…。
そんなアイツは。
俺をようやく見て。
声を掛けて。
名前を聞いてくれた。
きっと数日には忘れてしまうに違いない。
そう思ってた。
けど、二度目の偶然の出会い。
偶然なのに。
俺は勝手に必然みたく思って。
傍に居たかった。
少し強引でも、傍に居たいと思った。
今までホストやって。
こんな風に思う相手に出会った事なかったから。
初めての感覚・感情に戸惑ったけど。
俺は素直に従った。
そして知ったんだ。
人を好きになるって事。
人に好きになってもらえるって事。
愛する意味。
愛される意味。



「ご、め…んっ…」



楽しくて楽しくて。
幸せな時間を手放したくなくなってしまった。
―――――――ずっと続くと錯覚してしまった。
自分が何者で。
何をしなきゃいけないのか。
思い出させてくれたのは…。


『手筈は全て整った。…今夜、祭りが始まるぜ、金時』


チャリっと。
手の中にある、何も着いていないキー。


『乗り遅れんなよ…あばよ』


ギュっと握り締めて…願う。



「ごめんね…」



許されるなら。
出来る事なら、もう一度。



「…有難う」



―――――――愛してる。



「…バイバイ…」



そう…伝えたい…。






2006/08/12UP