「おはよう」
「あ、土方さん、お早ぅござぃ、ま…す」
「?何だよ」
「あ、イエ!何でもありません!!お早うございます!!」



署に着いて。
玄関前を掃除している制服警官に挨拶をする。
声を掛けて振り向かれて。
返された挨拶は何故か途切れ途切れだった。
何だ?と不思議に思って質問すれば。
何でもない、今日は良い天気ですね、等と返された。
空を仰ぎ見れば。
青い空が広がり、太陽が照っている。
…あぁ、良い天気だ。



「…土方さん、機嫌良いな」
「あぁ…」



ヒソヒソと話している事に土方は全く気づかないまま、署に入る。
すれ違う人々に「おはよう」と声を掛け、土方は自分の課に向かう。
無自覚に笑みが浮かんでいるのも本人は気づいていない。



「はよ、近藤さん」
「おぉ、トシ。おはょぅ…って」
「ん?何だよ?どうかしたのか?」
「どうかしたのは、トシじゃねェのか?何かエラク上機嫌じゃねェか。何か良い事でもあったか?」
「………え?」
「口元。緩んでるぞ?」



近藤に指摘され、バっと手で口元を覆った。



「ま、マジでか…」
「マジでだ」
「…近藤さん」
「ん?」
「…んな、わ、解り易いか?」
「んー…そうだな。ちょっと、な」



苦笑して答える近藤に、土方は頬が赤くなるのを感じた。
『上機嫌だな』
その言葉が何度も頭をリフレインする。
無意識に心が喜んでいたのだ。



「まぁ朝から気分が良いのは良い事だな」
「…だな」



そんな近藤の言葉にも、土方は素直に頷いて見せた。
いつもの朝。
でも、何処かがいつもと違う朝。
何だかくすぐったい。



「さて。仕事するか」



浮かれる気持ちを抑えるように、土方が仕事モードになる。
書類を幾つか机に出し、それに目を通す。
書類に判を押し、仕事がようやくひと段落着いた頃…。



♪♪♪♪



聞き慣れたメロディーに携帯を取り出す。
メールが1件着信している。
いつもはメールなんて使わない。
誰からだろう、とメールを開くと。


『土方へ
今日の晩飯何食いたい?丸焦げ目玉焼きのお礼に好きなモン作ってやるよー


「……だから大人しくしてろつったろ」



ピピピっと携帯を操作し、返信。



『大人しく寝てろつったろ。夕飯は何か出前取りゃ良い』

『え〜…不経済。却下』

『じゃぁ俺が何か作ってやるから!大人しくしてろって!!』

『…お前は俺を癌にしたいの?』

『悪かったな 料理下手で!!』

『だから金さんが美味しい料理作ってやるって。早く何食いたいか返信しろー!!』

『…簡単なモンで良いよ』

『簡単なモン?…ケーキでも良い?』

『何処が簡単なんだよ

『俺的には簡単』

『んなもんが飯になる訳ねェだろうが!!』

『え〜…じゃぁリクエストしてよ。何でも良いとか言ったら、甘味尽くしにしてやっからな』

『……エビのマヨネーズ和え。他は任せる』

『オッケー。エビのマヨネーズ和えね。お前本当マヨネーズ好きだな』

『放っとけ』

『じゃぁお仕事頑張ってね〜chu(^З^)−



「…男がキモい絵文字使ってんじゃねェっての」
「キモいのはアンタですぜぃ」
「ぅわっっ!!!!」



パタンと携帯を閉じて独り言を言うと、それに答えるかのように背後から沖田がひょいっと顔を出す。



「そそそそそ総悟!いきなり現れんな!ビックリするだろうが!!」
「前から居やしたぜ。つうか土方さん。携帯見てニヤニヤして相当キショイですぜ」
「に、ニヤニヤ…?」
「そっ。ニヤニヤ」



言われてまたカァっと顔が熱くなるのを感じる。
それを目聡く見た沖田がニヤニヤと笑いながら近づいて来る。
土方はそれに嫌な予感を覚えて少しずつ後退さる。



「土方さんがメールしてるなんて珍しいですねぇ…誰とメールしてやしたんですかぃ?」
「だ、誰でも良いだろうが。て、てめェには関係のねェ事だ」
「隠すなんてますます怪しいですね〜…その携帯見せろぃ!!」
「あ、馬鹿!!止めろ!!!」
「はっはっは、トシも総悟も仲良しだなぁ」
「近藤さんも見てねェで助けろよ!!」
「そうですぜぃ、近藤さん。俺と土方さんは仲良しなんでさぁ」
「お前も思ってもねェ事言ってんじゃねェっ!!!」



バタバタバタバタバタ!!!!



そんなじゃれ合いをしていたら。
署に響く足音。
それもどうやらこちらに向かっているようだ。



「な、何だ?」
「事件か?」

「失礼します!!」

「山崎?」
「どうしたんだ?」
「た、大変です!た、大変な事が解り…ました……」



途切れ途切れの息で言葉を口にする山崎に3人が寄る。



「と、取り合えず落ち着け、山崎。総悟、水渡してやれ」
「はいよ」
「大変な事ってどうしたんだよ?」
「はぁはぁ…そ、それが…」
「ほれ、山崎。水」
「あ、有難うございます」



沖田が水を渡すと、山崎はそれを一気に飲み干して。



「ぷはっ!はぁ〜全力疾走で来たんで流石にキツかったです」
「それで?大変な事ってどうしたんだ」
「あぁ、そうだ!!そうなんです、大変な事が解ったんです!!」
「だから何でぃ?」
「近藤さん、大当たりです!今回の傷害事件の被害者、『高杉』の息の掛かった連中でした!!」
「!!!」



土方と沖田がバっと近藤の方に振り返る。
近藤は瞬間驚いた表情を浮かべたが、すぐに真面目な表情になって。



「…ずっと気になっていたんだ。上層部は被害者の身元を『用心棒』以外俺達に明かさなかった。面子の為ってのもあったんだろうが、何か意図的なものを感じてな」
「山崎に調べさえたんですね?」
「あぁ」
「んで、結果はBingoって訳か」
「丁度この間、『攘夷』の話が出たからな。もしかしてまた『高杉』が絡んでるのかと思って、念の為調べさせて正解だった」
「奴は…何を企んでるんですかねぃ?」
「それは解らん。だが、俺達が探している『金髪』が『高杉』と何らかの関わりがあるのは否定出来んな」



各々考えるように黙ってしまう。
その沈黙を破るように、山崎が口を開く。



「それで…『攘夷』の事も調べたんです」
「『攘夷』の?」
「でも…それは以前調べあげたじゃねェか」
「はい…何か新しい情報出て来ないかなぁ、と思ってダメ元で探ったんですけど…結構新情報が出て来たんです」
「何?!」
「一体何が?!」
「まずは…他の身元が探れなかった2名なんですけど…」
「解ったのか?!」
「はい…それが……」



口ごもる山崎がチラリと土方の方を見る。



「…?何だ?」
「ぁ、ぃや、その…」
「もたもたしてねェでとっとと話せさねェかっ!!!」
「は、はいっっ!!」



視線を向けられた土方は噛み付きそうな勢いで、山崎に喝を飛ばす。
それに怯えたように返事をし、山崎は話を続ける。



「それが…」
「それが?」
「どうしたんでぃ?」
「…『金髪』、なんです」
「え?」
「何が?」
「どれが?」



山崎の発した単語に3人は顔を合わせる。
『金髪』



「じょ、『攘夷』に居た四天王、それの1人がどうやら『金髪』みたいで…」
「!!!」
「!!!」
「!!!」



山崎の発した言葉で。
近藤・土方・沖田の周りの空気が緊迫したものに変わる。
また出て来たキーワード。

"金髪”

歌舞伎町で起きた傷害事件の正体不明の被疑者・金髪の男。
事件当初知り合った、金髪のホスト・金時。
そしてホストクラブ『攘夷』の四天王の中に居た・金髪のホスト。


『…す…き…』

『…土方、が…す、き…』

『…好き…土方が…好、き』


脳裏に浮かぶのは昨夜の金時の切なげな表情、声、仕草。
抱き締めて。抱き返され。
温もりを分かち合った。



「…っ」



よろりと崩れ落ちそうになる背に、壁が当たる。
それが支えとなって。
土方は何とか崩れ落ちるのを留まった。


(あれは…あれが…嘘?)


『…すっげ…ぅ、れし…』


(あんな…嬉しそうなツラ、したじゃねェか…)



…もう自身の気持ちを偽れないと、土方は痛感した。
…今回の傷害事件。
『攘夷』の四天王。
―――――――それは間違いなく金時だろう。



「…くそっ…」






2006/07/05UP