ガタンガタン!!
「…んっ…」
大きな音に金時は眠りから覚醒する。
「な、に…?何の音…?」
眠い目を擦って身体を起き上がらせれば。
「…っ…!」
不意に身体に走った痛みにベットに沈み込む。
「な、何だ…?」
一瞬訳が解らなくて。
何が起きた?と昨夜の事を思い出そうとして。
「…ぁ…」
甦る、昨夜の出来事。
熱くなる顔を枕に押し付け、思わず「うぅー…」と唸る。
(そっか…俺…昨日……)
微かに咽喉が痛い。
いつもは出さない、使わない声帯を使ったせいか。
それに筋肉…と言うか、股関節も痛い。
…ついでにアソコも。
何処彼処で悲鳴をあげる自身の身体も、何故か痛みが幸せに感じた。
「うぅー…」
そう感じる事すら恥ずかしくて。
初めて感じる心、感情を持て余してしまう。
こんな朝は迎えた事がない。
幸せな朝。
とその時。
ガチャガチャ
ドアノブが回る。
その音に気づいてそちらに視線を向ければ…。
「おっ、起きたか」
「ひ、土方君…!」
そこには土方が当然だが居て。
しかしその格好に金時は唖然とするしかなかった。
「な、何、その格好…?」
初めて見る姿。
それはエプロンをした土方だった。
「朝飯作ったんだ。だから起こしに来た」
「朝…ご飯…?…はっ!今何時?!え、もぅこんな時間…っっ!!」
ベットサイドに置いてある時計に目を走らせて、時計が指し示す時間に金時は飛び上がる。
が、急に動いた事で痛む身体がますます悲鳴を上げた。
「…っつつつっ…」
「きゅ、急に起きるな!大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫…そ、それよりお前、出勤……」
「あぁ、それは大丈夫。もう大抵の支度は終わってる」
「あ、朝ご飯…」
「それも俺が作った」
「土方君が?!!…っ、ぁててて…」
「だから急に動くなって。今飯持って来るから、そこで大人しくしてろよ」
そう言い残し、部屋を出て行った土方を金時は呆然と見つめる。
そしてカァァっと赤くなる。
(何だ、このシチュエーション……恥ずかし過ぎるつうの……)
いつもはしない事をされ、ますます気恥ずかしさは募る。
嬉しいけど、恥ずかしい。
金時は何とかベットに体制を整える。
(新婚さん、初夜その後…)
『…初めて、なのか…?』
不意に昨夜聞かれた言葉にズキリと心が痛んだ。
それが表情にも表れたのか。
申し訳なさそうな顔をして、すぐに…。
『…ごめん…』
サラリと撫でられた土方の手が心地良かった。
…初めて好きになって。
初めて抱かれたのが、コイツで良かったと。
金時は心から思った。
心を繋げたのが、君で良かった。
「金時」
「え?ぁ、な、何?!」
不意に呼ばれて、振り返ると…。
「………………何、コレ」
「…だから…朝、飯的な…」
「朝飯ぃぃ?!これの?!何処が?!黒こげじゃん!!」
お盆を持って現れた土方。
それを金時に渡す。
が。
差し出された盆の中身に金時は絶句した。
それは目玉焼き、と呼ぶには黒過ぎる代物。
一緒に添えてあるウィンナーも真っ黒で。
「これ目玉焼き?!つうかどうすればこうなるのか金さん聞きたい!!」
「う、うるせェな!しょうがねェだろ、家事なんかやった事ねェんだから!!」
「…へ?家事やった事ないって……メイドさん付き?お前もしかしてお坊ちゃま??」
「ち、違ェよ!…飯は今、コンビニとかあんだろ。それで済ませてた」
「不衛生〜」
「…うっせ。っ……やっぱコンビニで何か買って来る。んなモン食ったら身体に悪……」
「頂きまぁす」
「金時?!」
コンビニへ行こうと立ち上がる土方に、金時はパンっと手を合わせて黒焦げの目玉焼きを食べ始める。
「馬鹿っ!んなの食ったら…」
「苦〜…」
「だから……」
「でも美味しいよ?」
「はぁ?んな訳……」
「土方が俺の為に作ったんだろ?だから美味しいぜ。真心っての?詰まってる感じがする」
「…っ…」
ニコっと笑って金時は食べる。
「?どったの?」
「な…何でもねェっ…!」
突然自分に背を向けてしまった土方に金時が声を掛けるが、何でもないと言われてしまう。
金時はそれに然して気にも掛けずに食事を続ける。
だから知らないのだ。
土方の顔が今、これ以上にない程真っ赤になっている、なんて事。
「ご馳走さま〜」
「……本当に全部食いやがった」
ようやく土方の顔の赤みが去った頃。
金時も食事を終え、食べ始めた時と同じようにパンっと手を合わせて言った。
空になった食器を見て、土方は呆然と呟いた。
「そりゃ食べるでしょ。折角俺の為に作ってくれたんだし」
「そう…だけどよぉ…」
「それよりお前は飯食ったのか?」
「あぁ。さっき冷蔵庫にあるモン適当に食った」
「適当?!ダメだよ、これから仕事行く奴が!…あぁ、もう!昼はしっかり食えよ。夕飯はちゃんと作ってやっから!!」
「…良いよ。今日は家で大人しくしてろよ」
「……意外に過保護だね、お前」
「心配してんだよ」
俺のせいだし。
と土方がサラリと金時の髪を撫でる。
その仕草があまりに甘いから。
金時はカァっと頬が赤くなるのを止められなかった。
「…ん?顔、赤いな。熱あんじゃねェのか?」
「ななななななな何でもねェから!つうかお前時間大丈夫か?!!」
「あぁ?…あぁ、そろそろ出ねェとな」
「じゃぁ遅刻しないように出る出る!!」
「お、おい、押すな!!つうか動くな!!」
グイグイと土方の背を押し、金時は出勤を促した。
「マジで今日は大人しくしてろよ?!」
「解った!解りましたから!!」
ベットから起き上がり、金時はシーツで下半身を覆う。
床に両足を置くと微かに違和感を覚えたが、それは気づかない振りをした。
「大人しくしてろつったろ」
「大人しくしてんでしょ」
「…だから。見送りは良いつってんだろ」
「だから。見送りたいつってんでしょ」
「……………」
「……………」
玄関に向かう土方の後について来る金時に、土方が怪訝そうな顔つきで言う。
しかしそれは譲れないのか、金時が返す。
しばらく睨み合って。
「…プっ!前にもこんな会話しなかったっけ?」
「…あぁ、したな」
クスっと笑って。
然して昔でもないデ・ジャヴを懐かしむ。
靴を履いている土方の背を見ながら。
金時は不意に思いついた悪戯に、微かに口元を緩ませた。
「じゃぁ、俺は出るけど。…マジで大人しくしてろよ。家事も良いから」
靴を吐いて立ち上がった土方に。
金時は「あ、待って。ネクタイ曲がってる」と近寄って…。
「ん。オッケ、格好良いよ、土方君」
「…サンキュ」
「どーいたしまして」
「じゃぁ、行って来……」
「なぁ」
「あ?」
「…行ってらっしゃい、ダーリン?」
スィっと土方の頬に金時がキスをしようとした時…。
「!?」
「こう言うのは『旦那』の役目、だろ?」
「おまっ…!!」
「…行って来ます、ハニー?」
バタンと閉じられたドア。
「なななななな…!」
鼻腔をくすぐった、煙草の香り。
唇に灯った、温もり。
微かな苦味。
キスをしようとして。
…逆にされてしまった。
「…やられた」
そう言って金時は誰も見ていないのに。
赤くなった頬を隠すように、その場に座り込むのだった。
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2006/07/04UP