ガタンっ!



包まれた温もりに金時は思わず立ち上がって後退さる。



「…逃げんな」
「…っ!」



呟かれた言葉とグっと込められた腕の力に、金時の身体が固まる。



「なっ…何?ど、ったの…土方、君…」



何かが気持ちをもたげる。
それは…。



「…解んね」



優しくて暖かい。
今まで感じた事のない気持ち。



「解んないって…んでいきなり抱き締めるの?」
「……うっせ……」



それでも離さない土方に。
金時はクスリと笑って。



「…甘えん坊なんだ、土方君は」
「うるせェつってんだろ。…黙れ、殺すぞ」
「…はぃはぃ」



ダラリと下げていた腕を、土方の背に回して。
ジっと。
ただジンワリと伝わって来る、土方の体温を瞳を閉じて感じて居た。


(あったけ…)


誰かと抱き合う事は初めてじゃない。
誰かの背に手を回す事なんて珍しい事じゃない。
それでも…。


(…土方の…匂いがする…)


土方の肩に頭を乗せ、瞳を閉じて呼吸する度に肺に土方の香りが満たされる。
誰かの体温に安心するなんて。
誰かの匂いに満たされるなんて。


『まっこと惚れちゅうか?』


脳裏に浮かんだ、坂本の言葉。
好きか嫌いかなんて、自分にとって価値はなかった。
仕事ホストとして。
商売出来るか否か。
それだけしか思っていなかった。感じていなかった。
でも。
本当は違った。


(…あぁ…も、良っか…)


あの時は否定したけど。


(もぅ…解んねェ振りするのも、気づかねェ振りするのも…)


だって。
本当はこんなにも…。



「…す…き…」
「……………………」
「…土方、が…す、き…」
「…ぉ、前……」
「…好き…土方が…好、き」



紡ぎ出された言葉はただストンと。
…金時の気持ちに降って来た。


(…あぁ、やっぱそうなんじゃん…)


「…んで、そこで泣きそうなツラ、…してんだよ」
「…好き、…好き…」



顔を覗き込んで来た土方から逸らすように。
金時はまた土方の肩に顔を埋める。
体温を確かめるように。
鼓動を感じるように。
存在を確かめるように。
ただギュっと。
腕に力を込めて。



「…金時…」
「好き…好き…好き…」



今ならきっと。
坂本の言ってた意味が解る。


『わしはその気持ちの結末、見てみたいぜよ』


気持ちの結末。
きっとあんな風に思ったのも。
あんな風に感じたのも。
きっときっと、土方だから。
土方が…『好き』だから。
あんなにも解らなかったのに。
抱き締められて。
体温を感じて。
匂いを傍で感じて。
ようやく気づけた。


(…解っちゃえば…結構楽、だよな…)


本当は解ってた気がする。
解ってて…気づいていたのに、気づかない振りをしていたのだ。
だって自分が誰かを好きになるなんて。
こんな気持ちになるなんて。
思ってもみなかった事だから。
戸惑って。
解らない振りをして。
気づかない振りをして。
拒否していた。
『特別』じゃないなんて。
思い込んでいた。



「金時…」
「…好き、だよ…」



知らなかった。
好きって言うのがこんなに照れくさいものだった、なんて。
知らなかった。
こんな…気持ちを伝えただけで泣きたくなる、なんて。
知らなかった。
人の…好きな人の体温がこんなにも暖かくて気持ちの良いものだ、なんて。
知らなかった…。



「バ、っカヤロ…」
「…土方?」



ギュっと抱き締められて。



「認めちまったら…後戻り…出来、ねェだろうが…!」
「…ぅん…」
「こんな…こんな状況で言うか…普通…」
「こんな状況だから、言うんだよ」
「…ち、くしょっ…」



ますます腕の力は強くなって。
苦しくて。
でも金時は言わなかった。
ただそれを甘受して。
苦しげに息をゆっくりと吐き出す。



「これじゃぁ俺が情けなさ過ぎるだろうが」
「んな事ないよ。そのまんまで充分お前は格好良いよ」
「…お前、キャラ違わないか?」
「そっ?コレが俺の地なの」
「…あ〜…もう良いや!」
「おっ?!」



唐突に身体を離されて。
でもグっと肩を手で押さえられて。



「…あぁ、くそっ…」
「…土方?」
「……………解った。解ったよ、解りましたよ。…あぁ、もう!…観念する。観念すりゃぁ良いんだろ!!」
「へ?え?え?何?何が?どったのよ、お前?」
「金時」
「…っ!」



呼ばれて。
真摯な瞳で見られて。
ドキリと。
顔が。
身体が。
カっと熱くなるのを金時は感じた。



「……逃げんのも、誤魔化すのも。…もう止めだ。……悔しいけど降参だよ」
「……………………」
「好きだ」
「……………………」
「お前が。…好きだ」
「…………………」



言われた言葉に金時は暫し呆然する。
そして…。



「…何で…泣くんだよ…」
「…ぁ、あはは…」
「泣きながら笑ってっし…何なんだよ、てめーは」
「ぁはは、だって…笑うしか…ないっしょ…」



ポロポロと涙が金時の瞳から零れた。
それを土方は優しく指で拭って。



「…すっげ…ぅ、れし…」



小さく呟いて。
キュっと涙を拭ってくれる土方の手を取った。
今日もう1つ。
初めて知った事。
…好きな人と心を繋げる喜びを知った。



「…金時…」
「…んっ…」






2006/06/27UP