「…ただいま」
「おっ帰り〜!今日も早かったねぇ」
7時。
帰宅した土方を迎えた金時は上機嫌のように見えた。
「…何か機嫌良くねェか?」
「そっ?つうかさ、ちょっと聞いてよー!」
「あ?何だよ?」
「今日さ〜会った奴、『坂本辰馬』って奴なんだけど」
「…あぁ」
『知ってる』とは流石に土方も言えなかった。
どうして知ってるんだ、と聞かれたら困るから。
「…変な謎解き出された」
「謎解き?」
「そっ。…何でも、俺には幸せになって欲しいんだって」
「…そりゃまるでお前が不幸せみてェな言い草だな」
「でしょ〜?俺もそう言ったのよ。そしたら『もっと違う幸せ』なんだってさ。…何だと思う?」
「んなモン、俺が知るか」
「その内解るとか、もう見つけてるとか…あーっ、もー訳解んねェー!!」
「……なぁ、そいつって」
『1人はその、病院を営む男。名は解ってやせん』
『ホスト仲間なのか?』
そう聞こうと思って言葉を出したが、そこから先が進まなかった。進めなかった。
まるで誘導尋問みたいで。
土方はネクタイを緩めると、ハァと溜め息を吐いた。
「え?何?何か言った?」
「…否、何でもね」
「そぅ?」
バサリと上着を脱いでソファーに座る。
聞いてどうしようと言うのだ。
歌舞伎町には様々なホストが居る。
その内、病院を営むホストが数人居たっておかしくないだろう。
「…嫌々、おかしいだろ、んなの…」
「え?何か言った??」
「…ぃや、何も」
「??今日の土方君、何か変。…や、変なのは土方君だけじゃないか…辰馬は一体何を……」
ブツブツと呟く金時を尻目に。
土方は暫しソファーから見える夜景を眺めていた。
紫煙がユラユラと揺れる向こう側に見える、眠らない街・歌舞伎町。
何度この景色を見たか。
そして灰皿に煙草を押し付け、ゆっくりと振り返る。
そこには先程の謎掛けとやらを考えるの止めたのか。
夕飯を慌しく準備する金時の姿があった。
『…坂田金時から目を離すな』
今日架かって来た、意味不明の電話。
…否、意味は解っている。
金時から目を離すな。
言葉の通り、そう言う意味だ。
だがそれは何の為に架かって来た?
そしてそれは何故自分の個人携帯に?
しかも非通知で。
やはり金時は事件と何らか関係があるのか?
「…………………………」
動く金時の背を見ている。
いつの間にかこの風景が常になっている。
一緒に暮らして、まだ1ヶ月も経たないのに。
傍に居る、常。
カチリと煙草に火を点けて。
もう1度。
紫煙を見つめる。
ユラユラ。
「土方君」
「あぁ?」
「ご飯出来たよ?」
「…あぁ」
金時に呼ばれて。
土方はまだ残っていた煙草を、もう1度だけ深く吸い、灰皿へと押し付けた。
そして立ち上がると食卓へ着く。
正面に金時が座る。
「ん?どったの?俺の顔ジっと見て?」
「…ぃや…今日も美味そうだな…」
「そ?あ、あのねあのね、このキンピラ自信作〜」
笑顔で話す金時を、土方はジっと見つける。
その時、土方の脳裏には帰宅前に署の前交わした、近藤との会話が浮かんだ。
『…トシ』
『近藤さん。どうしたんだよ?』
「じゃ、冷めない内に食べますか!頂きます」
「…頂きます」
『この間の電話の件なんだがな…』
『電話?…あぁ、途中になったアレか。何だっけ?何か言いたい事…』
「……………………」
「……………………」
『トシが気づいてないみたいだから、敢えて言うがな』
『あ?気づいてないって何…』
「…ぁ、そだ、土方君」
「あ?何だよ…」
『…トシ、そいつの事、好き…なんじゃねェか?』
「今日、これから出掛けるね」
「あぁ?!こんな時間に何しに…」
『好…っ?!な、何言ってんだよ、近藤さん!そいつ、男だぜ?!』
「…面接」
「面接?」
『でも前にお前『疑われる奴は何かしら火種を持ってる。何1つ信用なんか出来ねェ』そう言ってたよな?』
『あ、あぁ…それとこれとどう言う関係…』
「
『大有りだ。だってトシ、この間今疑われてるそいつを『信用する』って言っただろ?』
『そ、それは…!』
『そう言ってたトシがそんな風に『信用する』って言った相手だ。もしかしたら気持ちの方も向いてるんじゃないのかと思ってな』
『………それこそ関係ねェよ。本当に疑わしくねェ奴を疑う理由がねェ』
『じゃぁ、トシ。お前は誰かが自分の領域に入って来るのを凄く嫌ってたじゃないか。そいつを家に置く理由は?』
『…捜査の為、だ、ろ…』
『疑う理由がないのに、か?』
『…っっ、だって…それ、はっ…!』
『トシ。…もう逃げるなよ』
「これ逃したら探すのまた手間取りそうだしさ」
『な、に言ってんだよ、近藤さ…ぉ、れは別に逃げて、な、か…』
「行って来るよ、面接。それで決まれば。色々約束クリアーってね」
「約束…?」
「ほら、前に『仕事だけはしろ』って言ったじゃん。約束って訳じゃねェけど、…な」
『良いじゃねェか、男でも』
『…良く、ねェだろ…』
『誰かを信じられたり、自分の領域許したり。俺はそう言うの素敵だと思うけどな』
『そ、りゃ…ア、タは…』
『俺はな、トシ。お前がずっとそう言う相手見つけられれば良いと思ってたんだ』
『…それがよりにもよって男かよ』
「夜の仕事だから、受かったとしても今まで通り食事の準備も出来るし」
『男でも女でも』
「家賃とかも折半しようぜ。あぁ、後食事代とかもな。今んトコ、俺土方君にパラサイト状態だからな」
『トシが本当に好きな奴出来たら』
「あ。…俺昼間寝る事になるから、掃除とかはするけど、洗濯とか溜まったらちょっとは手伝ってよ?」
『俺は全力で応援するし、賛成だぞ?』
「って何かコレ、本当に夫婦みたいな会話じゃない?共働きの夫婦」
『だからトシ』
「…って。土方君?聞いてる?」
『だからもう…』
「…………聞いてる」
「………土方君?」
カタン、と土方がテーブルに箸を置いた。
「ひじ、かた君…?」
ガタリと席を立ち、金時の傍らに立つ。
金時は座ったまま、ジっと自身を見つめる土方を見上げる。
『逃げるなよ』
「…勝手な事ばっか言うなよ…」
『誤魔化すのもナシだ』
「…認めちまったら、後戻りなんか出来ねェんだ…」
『俺はトシの味方だからな!』
「っ?!ひひひひひ土方君?!!」
手を伸ばせば。
自然とそれは。
…金時の身体を包んでいた。
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2006/06/23UP