「コンチワ〜」



「金時〜〜!!」



「痛い!痛い痛い!!何?!何なの?!!何でいきなりタックルなの?!!」


「タックルがやない!抱擁ちや!!」
「何処がだよ?!思いっきり吹き飛ばされてるんですけど、俺ぇぇ?!!」
「わしがどればあ心配してたか…おんし解っちゅうかえ?」
「うっ…ごめん…『辰馬』」
「ごめき済んじょき警察は要らん」
「うぅ〜…」



金時が辿り着いた場所。
それは歌舞伎町から程離れた場所にある『坂本医院』だった。
そこに入るや否や、金時は抱き着かれ、だが勢いに支えきれず床に押し潰された。
金時は抱き着いたと主張する『坂本辰馬』を見上げた。



「で?おんし、まっこと今まで何処で何してたん?」
「ん〜…ちょっと、さ。ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっと失敗しまして……」
「ちっくとぉ?おんしのちくたぁ信用出来ん」
「そう言うなよ〜」



白衣を着た坂本はキィと回転椅子に座って。
カルテなのか、何か書類らしきものを見ながら話を進める。



「ちっくとってどがな失敗したんじゃ?」
「…その…ちょぉぉぉっと接近し過ぎて…その……」
「見つかったかえ?おんし、まっことアホじゃな」
「…言うなよ…反省してんだから…」
「その反省も次に活かせるか、怪しいもんぜよ」
「うぅ…」
「まぁ…おんしがなんちゃーがやないなら良いんじゃけんど」
「…サンキュ…」
「えぇよ。でもげにまっこと、おんしめぇった奴ちやな」
「…ごめんなさぃ」
「…何じゃ。今日はやけに素直やき。何かしょうえいことあったがなが?」
「べ、別に…ねェよ…」
「んん〜?怪しいやき。何なが?どがなしょうえい事があったがなが?」
「だぁぁっ!うるせェっ!ねェってば、ねェっ!!」
「ん?」
「な、何だよ…」



椅子から立ち上がって。
坂本は金時の隣に座ると、急に黙る。
不思議に思った金時だったが、次の瞬間坂本のした行動に驚く。



「だっ、だぁっ!い、いきなり人の匂いを嗅ぐな!金さん、ちゃんと毎晩風呂に入ってるぞ?!」
「おんし煙草吸うようになったかえ?」
「…へ?」
「おんしから煙草のかざがするがで」



クンクンと金時の身体の匂いを嗅ぎ始めた坂本の言葉に。
不意に金時の脳裏に掠めたのは…。



「ま、マジで…?」
「するがでよ。でも金時、煙草吸いやーせんよね?客か?おんしはや仕事復帰してちょるが?」



現在同居?同棲?中の土方。
それはまるで移り香みたいで…。
そう思うと金時は俯いていた顔をますます深く下げる。



「…金時?」
「……あ、あ〜…まぁ一緒に住んでるからしょうがねェけどな…アイツ吸い過ぎなんだよ…」
「は??一緒に暮らしちゅうってどうゆう事なが?」
「あ…あ〜…っとだな、その…追われてる時に、バッタリつうか、偶然つうか…」
「誰かに会ったが?」
「…ぅ、ん…まぁ、…そんな感じ」
「ふ〜ん…ほき、ほれと煙草とどうゆう関係があるちや?」
「ゃ、それで…まぁ、その…今そいつんトコに、だな…居る、みたいな…?」
「同棲しちょるのか?!何じゃ、おんしも隅に置けんぜよな!!」



あっはっは、と坂本は豪快に笑って金時の背中をバンバン叩く。



「た、辰馬!ぃ、痛い!痛いから、それ!!」
「しっかし、ちゃっかり女の所に転がり込むらぁて、金時らしいぜよ!あっはっは〜」
「……ぁ、あ〜っと、な?」
「…?何ぜよ?」
「落ち着いて聞けよ」
「だから何ぜよ?」
「……女じゃない」
「……は?」
「…だから。女じゃないんだな。これが」
「…………………」
「…………………」



微かな沈黙の後。
ようやく事を理解した坂本がガタリと立ち上がって。



「はぁー?!!!おんし何言うちょるんじゃー!!!」
「だー!!うっさいうっさい!耳元で怒鳴るな、馬鹿!!」
「これが怒鳴らんと居られるか!!おんし何しちょるが!?」
「だ〜か〜ら!不可抗力なんだって」
「不可抗力ってなちや?!おんしまっこと何してちや!!」
「落ち着け!落ち着けよ、辰馬!!順を追って説明するから!!」



坂本の剣幕に金時も落ち着けと繰り返し、コホンと咳払いをすると今までの経緯を説明した。
ホストとして働こうとした矢先、面接に行ったお店に強制執行ガサ入れが入り。
そこで『土方』と言う男に会った事。
その後すぐに。
『高杉』の居場所を調べようと、あるお店に入った事。
そしてその店が高杉と親密な関わりがある事が解り、躍起になり過ぎて用心棒に捕まりそうになった事。
その逃亡途中に『高杉』に会った事。
そこからまた逃亡を始めた矢先また『土方』と再会した事。
そして今はその『土方』の家に居る事。
1つ1つを語る金時に。
坂本は時々頷いて見せ、話を聞いた。



「おんしは一人で派手に動き過ぎなちや」
「…ごめん」
「ほりゃあはや聞きたった」
「うぅ〜…」
「ほき?その警察、土方ゆうんはおんしを疑っちゅうのか?それとも疑いは晴れたんじゃろうか?」
「…解んね」
「でも一緒に暮らそうってゆうたちやな。晴れたがやないがか?」
「暮らそうって言うか…居ても良いって言ってくれただけ…部屋余ってるからって」
「ふぅ〜ん…ほき、おんしはこれからどうするつもりながやき?」
「どうするって…このまま土方の家に居る訳にもいかないし…」
「何でじゃ?元々『隠れ家』にするつもりで居座ったがじゃろ?居て良いってゆうなら一石二鳥やか。そこに居って色々動けばエェじゃろ」
「そ、だけど…」
「…金時?」



珍しく言い淀む金時に坂本が首を傾げると。



「…苦しいんだ」
「苦しい?」
「最初は…『惚れたから』って転がり込んだんだ…」
「何じゃ、まっこと惚れちゅうか?」
「…だぁ〜から。土方は男だつうの」
「エェがエェが。恋する事は良き事じゃ」
「だから違うから!それ、は…アイツん家居る手段つうか、口実つうか…まぁ、そんな訳だった訳で」
「つまり。…嘘じゃったと?」
「嘘つうか…まぁ、それ言って誤解されるならそれでも良いかな〜みたいな感じで〜…」
「普通は誤解するろー?」
「ぅ…で、でも人間としては…それ程土方の事は知んねェけど!…気に入ってはいたよ。『何か』が。…じゃなきゃ言わねェよ」
「…ほぉ〜」
「……でも。最近何つうか…騙してる…騙してるんだよな。…何か、それが苦しい」
「罪悪感か?」
「…それ…とも違う…ぃや、違わない、のかな…」



金時は胸元に手を置いて。
まるで気持ちを持て余すようにして居る。



「嘘、吐いてるんだもんな…俺がそのつもりがなくても…」
「ほりゃぁ…」
「?」
「ほりゃあ『好きだ』ゆうて嘘吐いてる罪悪感か?ほれとも違う罪悪感か?」
「…………解んね。でもはっきり嘘とは…『恋愛』の好きじゃなくて…そ、の…ゅ、『友情』的、つうか…」
「…ふぅ〜ん。ほき?おんし『今』はそいつの事どうどう思っちゅう?その『気に入ってる何か』が解って、まっこと惚れたが?」
「惚れっ…?!だ、だから…っ…友情的つったろ…それだけ…特別とかはべ、別に…」
「今更わしに嘘吐いても仕方ないろー?」
「う、嘘じゃねェっ!!!」
「ムキになる所がいよいよ怪しいぜよ?」
「辰馬ぁっっ!!」
「解った解った。じゃぁ、ホレたハレたは別として。そいつの事、『素直』にどう思っちゅう?」
「素直…?」
「そっ。『素直』にじゃ。わしに素直なおんしの気持ちを話してみいーや」
「……………………」



暫く口を噤んでいた金時だったが。



「………そ、の」
「ん?」
「…さ、ぃきん、…や、優しくされたり…そ、の…相手の『領域』みてェのに踏み込ませてくれんの…ぅ、嬉しい、かな…とか…」



その予想外の言葉に驚いたのは坂本だった。
何度か目を瞬かせて金時を見たが、ゆっくりと微笑んで。



「…おんしがそう思うのは珍しいがやない?」
「うん…俺もそう思う」
「おんしはぎっちり「深入りせず」やきな」
「…否定はしねェよ。でもそいつは嬉しかったんだ。…嘘じゃない」
「誰も嘘じょきぁてゆうてないろー?」
「…でも深入りすればする程、怖いんだ。…『闘え』なくなりそうで」
「……………………」
「黙ってる事が。…怖くなる。何もかも初めてで。…怖い」
「……………………」
「解ってる…解ってるよ、辰馬」
「……………………」
「高杉があんな事になって。俺はただ…ただ感傷的になってるだけだ…そうなんだ…」
「……………………」
「…がぅ…違う…違う違んだ…」



両手をギュっと握り、金時は祈るような格好をする。
…それはまるで懺悔のように。
…祈るように。
願いが…叶うように。



「金時…」
「『闘う』って決めたのは俺だ。…感傷的になんのなんか違うって解ってる。…この気持ち、だって」
「金時」



違う、と繰り返している金時を、坂本は真摯な声で呼ぶ。
そのいつもと違った声に、ビクリと金時が反応する。



「…っ、な、何だよ…」
「わしは、はやちっくとそいつの傍に居た方が良いと思うぜよ」
「何で?!良くねェだろう!これ以上、気持ち引き摺るような真似っ…!」
「さっきもゆうたけど、おんしは人間関係じゃーやちっくと深入りして生きて行った方が良いと思うぜよ」
「……………………」
「おんしがほがな風に思う相手はなかぇか見つからんから、はやちょびっとそいつの傍に居て、人間関係勉強して来やー」
「…でも、そんな時間」
「無いとは言わせやーせんよ。動くがやきゃ、まだ時間がげに」
「…それで…俺が俺でなくなっても?」
「おんしはおんしのままちや。のぉなったりしやーせん。わしはその気持ちの結末、見てみたいぜよ」
「何だよ、気持ちの結末って…」
「その内解るがでよ」
「意味解んねーんだけど…」
「今は解らのうてもしょうえいよ」
「はぁ?」
「晋介の事ばあがやない。おんしももっと幸せになっちょき」
「…んだよ。それじゃぁまるで俺が不幸みてェじゃねェか」
「不幸じゃのうても、もっと違う幸せをわしは感じて欲しいとゆうてるちや」
「違う幸せ…?」
「その内おんしにも解るぜよ。…もうはや見つけてるみたいやけど」
「???」



不思議顔する金時に。
坂本はポンっと頭を撫でて。



「今日ははや帰れ。その土方ってがやき宜しくな」
「ぉ、ぉう?」
「こがな時じゃけんど。わしはおんしの幸せも願りゆうよ」
「俺の幸せ??だから何だよ、それ??」
「気をつけて帰りやーよ。知らん人にお菓子あげる言われても着いて行っちゃダメやきな」
「着いて行かねェよ!俺は幾つだ!!」
「あっはっは〜」



気が付けば。
時計はもう12時を越えている。



「あ〜俺家事何にもして来なかったんだ〜…うん、今日はもう帰るわ」
「何じゃ。おんし家事なんかやっちゅうかえ?」
「うん。まっ、せめてもの罪滅ぼし?」
「…そればあでおんしが家事なんかするかえ?」
「え?」
「なんちゃーない。気をつけて帰っちょき」
「うん。また来るな。連絡もその内入れる。ヅラに宜しくな」



そう言って金時は坂本医院を後にした。
坂本はそれを確認した後、そっと引き出しにしまっていた携帯を取り出して…。



「…あ、ヅラか?わしやけど、ちっくと調べて欲しい事があるんやけど?」






2006/06/20UP