「おはよー、土方君」
「…はよ」
それから一夜明けて。
何となく眠りの浅かった土方は。
まだ完全に起ききれない頭を引き摺って、部屋を出た。
部屋を出て、リビングに入ると。
朝食の良い匂いと。
…昨日とは打って変わった金時の笑顔が土方を迎えた。
「今ご飯よそうから、ちょっと待っててねー」
「…おぉ」
そのあまりの変わりなさに。
土方は微かに疑問を抱きながらも。
まだ起ききっていない思考では、金時に何と声を掛けて良いのか解らない。
「ほぃ、ご飯。後、新聞はそこね」
「ん。サンキュ」
「イエイエ」
いつもの朝。
変わらない朝。
それなのに。
何処か、何か。
違う気がした。
「んじゃ、頂きまぁす」
「ん…頂きます」
いつもは紙皿を使っている金時が、昨日買った茶碗を使っている。
いつもは割り箸を使っている金時が、昨日買った箸を使っている。
それが…違和感の理由なのか。
「…何?」
「ん?」
「…や、…ジっと見て、る…から」
「え?あ、あぁ…何かお前が割り箸とか以外使ってるのが、な」
「あ、あぁ…うん。買ったからね。早速使ってる」
「あぁ。…良いじゃね?」
「うん」
違う。
本当は解ってる。
無理に振舞ってる。
そう解っていて。
土方は金時に何と言葉を掛けて良いのか解らなかった。
今まで。
人を気にした事はなかった。
こんなにも。
人に自分の領域を許した事もなかった。
だから土方は。
こんな時にどうすれば良いのか解らなかった。
放っておいた方が良いのか。
それとも優しい言葉を掛けてやれば良いのか。
(って、ちょっと待て)
そこまで考えて。
土方は自身の考えに青ざめた。
これではまるで。
金時が初めて自分の領域を許した、気に掛けた初めての人間みたいではないか。
(待て待て待て!!違うぞ?!俺は決して、んな人種じゃねェぞ?!!)
「…土方君?顔色悪いけど、大丈夫?」
「い、言っておくが俺ぁ、お前なんかこれっぽちも全然、気にしてなんかいねェぞ?!」
「…はぃ?」
「ちちちちちち違うぞ。断じて違うぞ。気の迷いだ。つうか、最初にちょっと、ほれ…アレだよ、アレ。アレしたから、情が…情が沸いたんだよ?!!」
「…もしも〜し??何のお話?」
「そうだよ。…騙されるな。騙されるな、俺!!!…落ち着け…落ち着け落ち着け…」
「??ってか、土方君、すっごい手震えてるよ?ってか、味噌汁溢して……」
「熱ぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
「はぃはぃ、タオル、タオルっっ!!!!」
バタバタとタオルを渡されて。
土方は膝に零れた味噌汁を拭く。
「どうしたのよ?」
「うるせェ。ちょっと考え事してたんだよ」
「考え事ね〜…」
「……何だよ」
「ん?別に。…あっと、それでね、土方君」
「あぁ?」
「俺今日出掛けるわ」
「出掛ける?」
「うん。昔馴染みの友達んトコにね。定住変わった事お知らせついでに顔見せて来る」
「…そうか」
「あ、でも土方君が帰って来るまでには家に帰ってるし。そんな遅くなんないよ?夕飯も作ってるから」
そう告げる金時に、土方は「解った」とだけ短く答える。
「土方君?」
「取り合えず鍵だけは持って行く。それと何かあったら携帯に連絡しろ。…まぁ何もねェとは思うけど」
ヒラリと渡された紙キレ。
そこにはやはり綺麗な字とは言い難いが、「土方十四郎」と書かれ、下には数字の羅列が。
「…コレ…土方君の携帯番号?」
「あぁ。…まぁ、念の為…」
照れくさそうに言った土方に、金時も微笑んで。
「じゃぁ。コレ金さんの番号。…ってか土方君、「トウシロウ」って言うのね」
「あぁ?!知らなかったのか?!!」
「だって〜…表札も「T・HIJIKATA」で終わってたし。…そっかそっか〜トウシロウ君ね〜」
「…何だよ」
「うぅん。…覚えたよ」
「……あぁそうかよ。アリガトよ」
「ねぇ、携帯のメモリー『ダーリン』って入れても良い?」
「断るっ!!!」
「俺のは『ハニー』って入れて良いよ」
「ぜってェ嫌だっっ!!!」
着替えに部屋に戻ろうとする土方の背に、金時の声が聞こえる。
それに反論しながらも。
いつもの会話、いつもの調子に。
土方は何処か安心していた。
(何だよ、元気じゃねェかよ)
「って心配なんかしてねェつうのっ!!!!」
「??何、どったの急に頭抱えて?」
苦悩する土方の姿を見て。
不思議がる金時が傍らに居た。
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2006/06/13UP