昔は何も怖くなかった。
怖いモノなんてなかった。
大切な仲間と。
…大事な全て。
全てが手の平の中にあった。
護っていける。
護っていけた。
そう思っていたのに。



「………………」



大切なモノは驚く程簡単に。あっさりと。
手の平からすり抜けていった。
後に残ったのは…。



「………………」



残ったのは…。



「…何突っ立ってんだよ」
「…土方、君」
「鍵持ってんだろ?」
「先に帰ったんじゃなかったの…?」
「煙草」
「?」
「煙草切れてて買いに行ってたんだよ」
「そっか…」



喫茶店を出て。
金時は帰路に着いた。
しかし。
マンションに着いて。
鍵が掛かってる事が解って。
…ポケットには渡された部屋のキーが入ってるのに。
それを鍵穴に差し込んで捻れば。
この閉ざされた扉は開くのに。
ポケットに入っている鍵を出す気にはなれなくて。
ドアノブに手を掛ける気になれなくて。
部屋の前で立ち尽くしている金時に、声を掛けたのは煙草を買いに行っていたと言う土方だった。



「…………………」
「…………………」
「…酒」
「…え?」



ガチャリと鍵を開け、土方がドア開け、玄関に入る。
それに続いて金時もドアの間に身体を滑り込ませる。
いつもは煩いばかりに饒舌な金時が俯き、黙っている。
それだけで奇妙な沈黙が、2人の間に流れる。
靴を脱いで先に部屋に入った土方が、金時を一瞥し、そして背を向け放った言葉。
突然の単語に、金時は驚いたように顔をを上げる。
土方は振り向かない。
そのまま金時に背を向けたまま言葉を続ける。



「すっかり忘れてたんだけど、前に上層部から上手い酒貰ったんだ。1人じゃ飲みきれねェし、てめェにも分けてやるよ。…飲もうぜ」



曇った表情で部屋の前に佇んでいた金時を気遣ってか。
土方が呟くように言う。



「…っっ…」



それが何だか凄く、自分を救ってるような気がして。



「っ、おいっ…!」



ドンっと。
靴を脱いで勢い良く、土方の背に顔を押し付けた。
そのままギュっと金時は土方の服を掴む。
突然の事で土方は慌てたが、次の金時の台詞に動きを止めた。



「…っめん」
「…おぃ…?」
「…ごめん。…ちょっと、ちょっとだけ…こうさせて…」
「………………………」
「すぐ、だから…ねが…っ…」
「……………………」
「……めっ…ん…」
「…別に…謝んな…」
「…っも…」
「………ちょっと…だけだからな……」
「…ぅん…うん…」



自分は弱くない。
決して弱くなんかない。
弱くなんかないのだ。
誰かを頼ったり。
寄り掛かったり。
そんな事をする人間ではない。
…なかったのだ。
なのに。
何故。
こんなにも気遣いが嬉しいのか。
優しさに…泣きたくなるのだろう。



「……………………」
「…………おい」
「……ぅん?」
「…………………もう良いだろ」
「…………………」
「………っ、おいっ!」



昔の仲間にだって。
こんな感傷的なトコ、見せた事なかった。
誰も。
誰にも弱みなんか見せなかった。
…だって自分は強いんだから。
頼る、寄り掛かる…必要なんてない。
必要ないと思っていたのだ。
…この温もりに触れるまでは。



「………ダ〜メ」
「あぁ?!」
「……もうちょっと……もうちょっとだけ」
「………………チっ」



こんな…こんな感傷的になるのはきっと。
昔の仲間に会ったから。
昔の感傷にちょっと浸ったからだ。
金時はそう思うように。
強く強く手に力を入れた。



「…………土方君」
「…んだよ」
「……………有難う…………」
「…ふん」



素っ気ない回答に笑みが零れた。
…そうだ。
今日は昔の仲間・桂に会って。
今までの色んな出来事を話したから。
だからこんなにも感傷的で、弱気なのだ。
…決して。
……決して特別な『何か』がある訳じゃない。
そうじゃない…。
そんな訳がない。



「………好きだよ、土方君」
「っ!?…おまっ、充分元気じゃねェか!!もう離せ!つうか、離れろっ!!!」



…だって…
これは誰にだって言う言葉。
…だって…
自分は『ホスト』なんだから。


(『女性に夢を見させるのがホストの仕事』)


「ぁ、でも土方君は『女性』じゃないか」
「…は?」



だから。
これは『特別』じゃない。






2006/06/10UP