「お前には聞きたい事が山のようにあるのだ」



喫茶店に入ると、コーヒーを2つ注文し、金時と桂は向かい合わせに座った。



「しっかし。随分その姿も板に着いて来たなぁ、ヅラ子ちゃん?」
「…煩い。黙れ。好き好んでこんな格好をしている訳ではない」
「そうかぁ?ホストとして働いてる時より輝いて見え…」
「黙れと言っている」



ビシ



「痛っっ!!おめ、ちょっ、角砂糖飛ばすなよ?!つうか、角当たってめっさ痛いんですけど?!!」
「貴様が減らず口ばかり叩くからだろうが」
「それで角砂糖投げ付けるって、どんな了見なんだよ!!」
「……取り合えず、電話で言ってた件を聞こう」
「……………………」



腕組みをして、聞く体制になってしまった相手に、金時は。



「…はぁ」



と小さく溜め息を吐いてから、ゆっくりと背もたれに寄り掛かった。



「だからぁ。…電話で言った通り。警察サツに目ぇ付けられてます」
「俺はその経緯を聞きたいのだ」
「『俺』なんて言って良いのか?客が泣くぞ」
「茶化すな、…金時」



真剣な声に。
金時はゆっくりと1回瞳と閉じて。
そしてゆっくりとまた、瞳を開いて。
目の前には。
着物姿だが、本当は男の『桂』が居て。
自分をジっと見ている。
金時はゆっくりと背もたれから起き上がると。



「…なぁ、ヅラ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
「…俺達、ホストとして働いてたんだよな?……お前は今カマっ子やってっけど」
「…本意ではない。調査の為だ」
「…何処から違えた?」
「…何処、から…?」
「俺達は。ホストとして働いて。ホストの…歌舞伎町で働くホストとして。お客が過ごし易いように。ホストでも道を外さないように。…ずっと働き掛けて来た」
「金時…?」
「いつからだ?何が違った?何がいけなかったんだろうなぁ…」
「……………………」
「……アイツに会ったんだ」
「!!アイツって…まさか?!」
「あぁ。…アイツ…『高杉』に」
「それで?!会ったとは、何処で?!アイツは…」
「…元気そうだったよ。…元気…あぁ、元気そう…だった……」
「何か…話したのか?」
「…否、…多分、狙いは俺を警察サツにマークさせる事だったんだろうな…」
「そんな…まさか…!!」
「…そっ。この間追われたつったろ。そん時に…」
「仲間…だったのか?」
「違う。違う…のかなぁ…よく解んねェや」
「……………………」
「追われてて。角曲がった行き止まりでバッタリ。つうかアイツ、俺がそこに逃げ込むの知ってたのかなぁ…」
「金時…」
「……追って来た3人を2人で…つっても殆ど俺は手らしい手は出さなかった…出せなかった……」
「………………………」
「…アイツ、強くなったよなぁ。『あん時』とは大違いだよ」
「それで…?」
「ん?」
「それで…どうしたのだ…?」
「あぁ…。それで…それで俺、高杉と話そうとしたんだぜ?そしたらアイツ…」



『これで終わりだと思うか?』



「そう…言った、のか…?」
「あぁ。『これで終わりだと思うか?…次がすぐ来るぞ』ってな」
「ま、さか…」
「…多分。…多分、アイツ…手、組んでる……」
「ま、まさか!!だって…奴はあれ程っ…!!!」
「…信じたく、ねェけど…。多分…」
「…………………」
「んで…全部終えたら…」
「…言うな」
「ヅラ…」
「言うな。聞きたくない。…信じたくもないわ、そんな事!!!」
「……俺、だって……」



俯いて呟いた金時の言葉。
桂はそれに答えず。
お互いが口を噤んでしまう。
その間に注文していたコーヒーが運ばれる。
『ごゆっくり』と言う店員の言葉。
辺りに立ち込める、安っぽいコーヒーの香り。
人々のざわめき。



「…信じんぞ」



先に口を開いたのは桂だった。
それに弾けたように金時が顔を上げて。



「……ヅラ?」
「俺は信じんぞ!!アイツは…アイツは何処までも勝手で…自分の事しか…考えてな、ぃ…そんな奴だったではないか……」
「……ヅラ……」
「そんな…そんな事をする奴ではない……!!」
「おいっ!!!」
「証明してやる。…貴様の考えが間違っている事を。きっと…きっと何かの間違えだって事を」
「………………………」
「調査は続行させる。貴様もあまり派手に動くな。…また連絡する」



パシっと傍らに置かれた伝票を手に、桂は店を出る。
それを金時は見ながら。



「…俺だって…」



手には。
先程桂が投げた角砂糖。



「…信じたくねェよ…」



ポチャン、と。
運ばれたコーヒーに入れる。
角砂糖は。
小さな波紋をコーヒーに広げただけで。
すぐに溶けて。
…消えてなくなった。






2006/06/07UP