『…じゃぁ、しばらくトシの家に居る訳だな』
「…あぁ」
『…大丈夫か?』
「あぁ?」
『嫌、その…俺が…指示しといて何だけどさ。…辛いだろ?』
「……………多分」
『はぁ?』
「正直解んねェんだ。辛いのかって言われりゃぁ多分、辛いんだろう…とは思う、けど」
『けど…?』
「他の奴、とかに任せたら、それはそれで気掛り、だと思うし。…大丈夫。多分」
『…ごめんな』
「何でアンタが謝んだよ。大丈夫だよ」
『無理はするなよ』
「…あぁ。っと、アイツ風呂から出て来たみてェだ。悪ぃけど、もう切るな」
『あ、あぁ、そうだな…』
「あ、そうだ、近藤さん」
『ん?』
「本当に…大丈夫だぜ。心配してくれて有難う…でもマジで俺平気だぜ?」
『トシ…?』
「俺、信じてんだ。…信じ…てェんだ…アイツの事」
『…………………』
「だから。近藤さんの言う通り、自分の目で確かめる。…アイツがシロだってな」
『…トシ。お前、もしかして……』
「え?何だよ?」


「土方く〜ん、お後〜」


「っと、マジで切るな。話あんのにごめん。今度出勤した時聞くな。じゃぁ」
『え?あ、あぁ…』


「あれ?仕事の電話?大丈夫?」


カタっとテーブルに携帯を置いた所で、首にタオルを掛け、金時がリビングに顔を出す。


「…あぁ、大した用事じゃねェし。明日オフだから、色々資料の事でな」
「ふぅ〜ん。…あ、ビール飲んで良い?土方君も飲む?」
「あぁ、貰う」
「ほぃ」
「サンキュ」



冷蔵庫からビールを2本出すと、金時は1本を土方に渡す。
そして金時は土方が座るソファー向かいに腰を下ろし、ビールのプルトップを開け、ビールを口にした。



「明日どうしよっかな〜?」
「ん?だからまずお前ん家…」
「あ、それなら大丈夫」
「あ?」
「さっき土方君が風呂入ってる時に仲間に連絡して、前のマンションの退室手続きとか全部やってもらったから」
「……………………」
「必要なものも全部運んでくれるってさ。や〜面倒見の良い奴が居て助かる♪」



ニッコリと微笑む金時に、土方は微かに眉間に皺を寄せた。



「ん?どったの?また怖い顔して」
「どうしたのじゃねェだろうが。俺がやってやるつってんのに、他の奴に頼むなよ」
「…ん〜でもこれ以上土方君に迷惑掛けるのも悪いし。使える奴は使った方が良いでしょ?」
「そう、だけど…」
「それとも…アレ?」
「あぁ?」
「土方君は、俺に頼られて欲しいのかな?」
ブっっ!!だ、だからそう言う…」
「ぁ、違うの?なぁ〜んだ、てっきりヤキモチかと思ったのに。さっきもそうだったけど、土方君って結構独占欲強いねぇ?」
「だから何で野郎相手にヤキモチ妬かなきゃいけねェんだよ!…馬鹿馬鹿しい!!」



ゴクゴクと土方は一気にビールを煽る。
そして空になったビールの缶をテーブルに置く。



「オカワリ?」
「ぃや、もぅ良い」
「そっ?じゃぁ明日は買い物付き合ってね」
「はぁ?!」
「はぁ、じゃないでしょ。だって明日は付き合ってくれるんでしょ?だから買い物付き合ってって」
「買い物って…何買うんだよ?」
「ベット」
「………………あ」
「あ!土方君忘れてたでしょ?!酷いっ!!金さんにはベット必要じゃないって事?!ソファーで充分だって事?!」
「ち、違っ…!」
「あ、それとも土方君のベットで2人で寝ようって事?なぁんだ〜それならそうと早く言ってくれれば…」
「すっかりきっぱり忘れてました!!」
「…随分きっぱりはっきり白状するのね…」
「シングルのベット、俺1人でいっぱいなのに、同じ体格の奴が2人も入れる訳ねェだろう…」
「あ、じゃぁ明日はダブルの…」
「却下!!」
「え〜…」
「それにしても…」
「え…?」



土方は手を顎にやり、ジロジロと金時を見る。



「な、何…?」



いつにない土方の視線に金時が困惑していると…。



「…お前。今日俺のベットで寝ろ」
「はぃ?!」
「今日は俺がソファーで寝る」
「え…?ゃ、あの…急にどったのよ、土方君」



急な土方の提案に、金時が口ごもる。
土方は然して気にもしない様子で言葉を続ける。



「よくよく考えてみれば。俺と同じ体格で、このソファーじゃ身体伸ばせねェだろ?」
「ぇ?あ、う…ぅん、ぁ、でも、ほら。俺、一応居候だし…」
「別に構いやしねェよ。夜勤時とか署ではソファーで寝たりするし。1日くらい身体伸ばして寝ろ」
「ゃ、でも…」
「気づくの遅かったな。…悪ぃ」
「や、急に居座ったの金さんだし…」
「んで。明日はベットとか一式買おう。じゃぁ明日は車だな」
「ぅん?うん…良いよ。送って貰うから」
「馬ぁ鹿。送ったりしたら、数日掛かるだろうが。解体出来るタイプなら車で運んで、明日から使えんだろうが」
「まぁでも…ソファーで寝るのも慣れてるし」
「お前…」
「ん?」



どんな生活送って来たんだ。
そう言おうとして。
土方は口を噤んだ。
…何だか言ってはいけないような気がして。



「良いから今日はベットで寝ろ。俺はココで寝る」
「え、い、良いってば!土方君、今日も激務で疲れてるでしょ?!そ、それに…」
「それに…?」
「…ほら、寝室には入るな、って言われてるし……」



言い難そうにそう告げる金時に、土方は微かに驚く。
何気なく告げた。
何気なく「寝室には入るなよ」と告げた言葉を金時は覚えていて。
そして守ろうとしている事に驚いた。



「…良いよ」
「え?」
「別に盗られて困るモンが寝室にある訳でもねェし。…何となく」
「何となく?」
「…何となく、他人が寝室に入るの嫌いだっただけだから。…入っても良いよ」
「それって……」
「…………………俺ぁ、もう寝る」



何となく。
居心地が悪くて、土方は立ち上がる。
傍らにあった毛布をバサリと広げ、ソファーに身体を横たえると、それを被り、金時に背を向ける。



「…ねぇ、土方君」
「………俺ぁもう寝てる」
「クスクス…寝てるのに、返事するの?」
「…………うるせェ」
「……有難う、土方君」
「…………ふん」



バサリと。
今度は毛布を頭まで掛けて。
金時は上下に揺れる毛布を暫く眺めていた。



「…ねぇ、寝た?土方君」
「………すぅすぅ……」
「本当寝付きの良い奴…それともお疲れかな?」



よっと小さく呟いて。
金時は空になったビール缶を2つ、流しに運ぶ。
カチリと電気を消して。
トタトタと土方の寝室に向かう。
最初に気づいた場所。
…始まりの場所。


『寝室には入るなよ』

『…何となく、他人が寝室に入るの嫌いだっただけだから。…入っても良いよ』


ヒタリと硬く閉ざされたドアに手を当てる。
ドアノブに手を掛け、キィとドアを開く。
部屋に入れば、すぐに目に入る、少し大きめなベット。
金時はそれに近づいて。
掛け布団を捲り、サラリとしたシーツに触れる。



「…ein Unvershamfer Kerl…」


『俺、信じてんだ。…信じ…てェんだ…アイツの事』



まだ引かれていないカーテンの外からは、眠らない街、新宿歌舞伎町の光が煌々と見える。
金時はシーツから手を離すと、窓に歩み寄って。
冷たい窓に、身体を預ける。



「…ein Unvershamfer Kerl…」


『だから。近藤さんの言う通り、自分の目で確かめる。…アイツがシロだってな』



ズルズルと落ち込む身体。
そのまま部屋の隅に、膝を抱えて。
掛け布団だけを肩に掛けて。
膝を抱えて。
ギュっと。
まるで自分の存在を確かめるように。
まるで自分を護るかのように。
金時は強く自分を抱き締める。



『俺、信じてんだ』


「…ein Unvershamfer Kerl…っっ…」



ギュっと瞳を閉じて。
…目蓋の裏に映るのは。
暗く深い、闇ばかり…。






2006/05/31UP