「…ただいま」
「お帰り〜早かったね。すぐご飯にするから」
「あ、あぁ…」
「?どうしたの?」



いつもと違った様子の土方に、金時は首を傾げる。



「何だかお疲れ?お風呂にして、すぐ寝る?」
「否…飯食う」
「そう?じゃぁ急いで支度するから着替えて来てよ」
「…なぁ」
「ん?なぁに?」
「もう外出ても良いんじゃねェのか?」
「ん?んん…」


『…なるほどな』


「…別に出てけって言ってる訳じゃねェよ」
「…へ?」


『そりゃ確かに怪しいな』


「署の近くって事で借りてたこのマンションも。部屋は余ってるし…」


『…トシ』


「家事全般もやってくれてこっちは大助かりだし…」


『嫌かも知れないが』


「ココに居たいなら別に…居ても良いぜ?」
「え…?」


『本犯人ボシが見つかるまで』


「かと言ってこのままプラプラ家に居るってのは俺も困るから」


『マークだけはしてけ』


「前にやってた、ホストでも何でも良いから」


『…忘れるなよ』


「働き口は探せよ」


『“疑わしきはマークせよ”…捜査の第一歩だ』


「それに丁度明日ぁ俺、オフだ」


『信じているなら』


「前に住んでたトコ引き払うのも手伝ってやる」


『自分の目でシロだと確かめろ』


「…良いだろ?金時」
「う、うん…そりゃぁ願ったりだけど…」
「じゃぁ着替えて来るな」
「うん…」



土方はそう告げると、ノロノロとリビングから出る。
金時はそれを見送って。
はぁ、と溜め息を吐く。



「さてさて…どう言うつもりかな…」



ふしゅふしゅと後ろでは、味噌汁が沸く音が鳴った。



ガチャリと自身の部屋に着いた土方は。
はぁ〜と長い溜め息を吐いて、ベットに座る。
薄暗い部屋。
…まだカーテンが敷かれていない。


(…そう言や、部屋には入んなつってんだよな)


他の部屋のカーテンは敷かれているのに。
自分の部屋だけ敷かれていない。
それは金時が入っていないから。
土方以外にこの部屋にカーテンを敷ける人物が居ないから。


(偶然、だよな…)


シュルリとネクタイを取って。
土方は考える。
あの日。
誰かに追われている、と金時が言ったのも。
あの日、用心棒と思われる中国系男3人が暴行を受ける事件が起こったのも。
そして…。



「刑事である、俺んトコに転がり込んで来たのも…」



全てが偶然だと。
だが、土方は心の何処かで疑っていた。
偶然にしては出来過ぎている事も。
じゃぁ…。



「…あの『告白』も俺んトコに居る為の嘘、か…?」



バサリと上着を脱いで。
乱暴にベットにそれを放る。



「くそっ…!」



何かに。
自身でも解らない何かにイラついて。
土方はポケットから煙草を出し、口に咥える。
火を点けようとした、その時…。



「…土方君、ご飯の支度出来たけど?」
「あ、あぁ…今行く」



その時金時が部屋をノックして。
部屋の外から声を掛けて来る。
土方は煙草に火を点けるのを止め、部屋を出た。



「今日はちょい凝った魚の煮込みだよ〜」
「…そっか」



ガチャリとドアを開けると。
笑顔でそう告げる金時に、土方も微かに笑って答えて。
2人で食卓を囲む。
…それが常になっていた。



「…あの、さ」
「ん?」



『頂きます』と手を合わせて。
ご飯を食べ始めると、恐る恐ると言った感じで金時が口を開く。



「…何で?」
「あぁ?何が?」
「何で…その、急に…出て行かなくて良いって言い出した、の?」
「……………………」



かちゃりと箸を置いて。
土方は目の前の金時を見る。
金時は何処か居心地悪そうに、土方を見る。
数秒。
沈黙が流れてから。



「…そう、だな」



口を開いたのは土方だった。



「…変な言い方だが、悪くなかった」
「へ?な、何が?」
「…電気」
「電気??」
「そうだ。…帰って来て、誰かの…その、『お帰り』とか電気が着いてるの、悪くねェなって思った」
「そう言えば…」
「ん?」
「今日は『ただいま』って帰って来たね」
「…あぁ」



これは土方の正直な気持ち。
疲れて帰って来て。
誰かに『ただいま』と言う事。
誰かが『お帰り』と返してくれる事。
部屋に明かりが着いてる事。
食事が用意されてる事。
誰かと食事をすると言う事。
それは今まで一人暮らしをしていた土方にとって。
決して悪いモノではなかった。



「だから。…まぁ、その…そ、れで…」
「…そっか。…うん、そっか」
「…金時?」
「まぁ、期待してた答えじゃないけど。うん、でも嬉しい」
「…嬉しい?」
「俺も一人暮らし長かったからさ。俺の『お帰り』が土方君のお出迎えになれて」
「………………………」
「それにね。俺も本当はそろそろ働きに出なきゃ、と思ってたんだ」
「そ、そうか」
「うん。でもそれで「じゃぁ出てけ」って言われたんじゃ、淋しいしさ」
「あぁ…」
「…本当は「俺を好きになった」って答えが一番嬉しいんだけどね」
「!?だ、だから…!!」
「はぃはぃ。それはまだ保留にしといてあげる。って事で」
「?」


ガタリと金時は席から立ち上がって。



「…あ?」



スっと出された金時の手に、土方は不思議そうにそれを見つめる。



「握手」
「握手?」
「そっ。…これからも宜しくって事で」
「……別に必要ねェだろうが」
「ブーっ。良いじゃん良いじゃん!ほら、早く、手!!」
「…ったく」
「はい、宜しく〜」
「………宜しく」



土方が金時の手を握ると、金時はニコっと笑って。
ブンブンとそれを上下に振る。



「じゃ、ご飯にしよっか」
「…あぁ」



そして離してから、ストンと座って。



「明日何処行こっか?」
「まずお前の前の家だろ?」
「それ後でで良いよ。どーせ解約するにしても、1か月分は家賃取られるんだから。ギリギリで」
「思った時にやんねェと、お前はやらないタイプだろ?」
「うっ!そ、それはそうだけど…」
「引越し屋の手配もしなきゃな」
「う〜…もう全部捨てちゃっても良いよ」
「却下。勿体ねェ」
「…土方君って結構貧乏性?」
「普通だろうが。お前が可笑しいんだ」
「ん〜…でも別に必要なモンないよ?」
「はぁ?何言って…」
「本当だって。必要なモンは服とかだけで…それも結構古いから新しいの一式揃えようかと思ってたの」
「はぁ?タンスとか?ベットは??」
「ない」
「はぁぁ?!じゃ、お前今まで…ぁ、もしかして布団派か?」
「うぅん、布団もない」
「え゛…じゃぁ、お前今までどうやって…つうか何処で寝てたんだよ?」
「…まぁ、お客さんトコ、とか…」
「…へぇ〜」
「あ、もしかして軽蔑してます?軽蔑してますよね、その視線」
「…べ・つ・に。随分お盛んな事だな。つうか、お前、追われて当然だよ」
「ひ、ひっでェー!それにそれに、別に毎回イタしてた訳じゃねェぞ!」
「へぇ〜ほぉ〜ふぅ〜ん」
「信じてねェな!!…つうか」
「あ?」
「…ヤキモチ、ですか?」
「ブっ!!な、何でそうなんだよ!!!」
「あれあれあれ〜?図星ですかぁ?顔赤いですよ〜?」
「っっ!!!良いから黙って食えっ!!!」
「はぁ〜い」



土方がそう叫べば。
金時は素直に箸を進める。
が。



「…おぃ」
「ん?何?」
「…そのニヤけ面、今すぐ止めろ」
「へ?」
「留置所放り込むぞ、てめェ…」
「嫌々!金さんいっつもこんな顔だから?!」
「嘘吐け、この野郎…」



ドタバタと押し問答があって。



「楽しいねぇ、土方君!!」
「楽しいかっ!!!」






2006/05/30UP