「トシ!…どうだった?!」
署に戻ると開口一番に土方は近藤に呼ばれた。
「…悪ぃ」
心配そうに駆け寄る近藤に土方は苦笑して、そう答えると…。
「悪ぃって…どっちにだ?!逃げられたのか?!」
「犯人決定かよ…」
「え?」
「…勘違いだった」
「へ??」
「だから。…勘違い。金髪違いだった」
「…金髪違い?」
「そっ。…いっぱい居るだろ。金髪なんて新宿歌舞伎町には」
「そりゃそうだが…」
「勘違いして先行して悪かったな」
そう言って自分の机に座ろうとした土方に。
「トシ」
「あぁ?…何だよ、近藤さん」
近藤が引き止めるように声を掛ける。
「…お前、何で疑った?」
「え?」
そして近藤から紡ぎ出された言葉に土方は目を見開く。
「疑わしい何かがあったんだろう?それは一体何だ?」
「そ、れは…」
疑わしい何か。
それは事件当夜、金時が誰かに追われていた事。
誰かに殴られた形跡があった事。
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙の後。
「トシ」
ゆっくりと近藤は土方を呼ぶ。
「偶然にしろ、そいつを疑うって事は。お前にとって疑わしい何かがあったって事だろう?」
「……………」
「それにそいつは金髪で。捜査上に浮かんでいる人物と外見的一致がある。…疑った理由を俺に教えてくれ」
「…でも…でもあいつは…」
言われた言葉に土方ははっきりと「違う」とは言いきれなかった。
それは心の何処かで自身も微かに金時を疑っているから…?
「トシ。…誰でも知り合いを疑うのは苦しい。けど疑うのも俺達の仕事の一貫なんだ。…話してくれ」
「……………」
いつになく真剣な近藤の言葉に。
土方は一つ小さく溜め息を吐いて。
「…実は…」
事の始まりを語り始めた。
テーブルに置かれたカップ。
中に入っていたコーヒーはすでに冷めきっていて。
何だか自分の心みたいだ、と金時は笑った。
…否、その笑みはそんな事を考えている自分を嘲笑ってなのかも知れない。
「…ばっかみてェ…」
くしゃりと髪を撫で、俯く。
心の中で、口の中で何度も何度も言葉を繰り返す。
「大丈夫…まだ、…大丈夫だ。…大丈夫大丈夫大丈夫…」
繰り返し、それはまるで呪文のように。
そして口を噤んで。
「…よし…」
小さくそう呟くと、金時は勢い良く顔をあげる。
その顔はいつもの飄々とした金時の顔で。
金時はテーブルに置かれたカップを取ると残りを捨て、それを洗い片付けた。
そしてベランダに出ると大きく伸びをして空を仰いだ。
「う〜ん、…良い天気!」
夜には煌びやかな光が包む新宿歌舞伎町。
いつもその光に包まれて居た自分が。
今はこの街を見下ろして。
太陽の光を浴びている。
「よっし!…金さん、今日も元気!!」
さっきまでの雰囲気を一蹴するかのように、金時が叫ぶ。
そして後ろで鳴り始めた携帯電話。
「…グットタイミング、と言って良いのかねぇ…」
うなざりするように呟いて。
カラカラとベランダの戸を開く。
鳴り続ける携帯電話。
早く取らねば。
そう思うのに。
金時の足は、ベランダから部屋に1歩踏み込んだ状態で立ち止まる。
「…ein Unvershamfer Kerl…」
ポツリと呟いて。
立ち止まっていた位置から、足を踏み出す。
部屋に入り、携帯を掴み、通話ボタンを押す。
「…もしもし?ちょっとヤバい事態になったみたいなんだけどさぁ…」
![]()
2006/05/23UP