出掛けようと思っていた。
だが、玄関を出て。
エレベーターに続く廊下を歩いている際に、嫌な予感を覚えた。
廊下から見える空は青くて。
金時は踵を翻すと、先程閉めたばかりのドアを開け、部屋に戻った。
今日は天気が良いから布団でも干そう。
だから今日は家に居よう。
それは第六感とも言える、彼の直感だった。



「………………」



しかしその判断は正しかった。
彼、土方が突如戻って来たのだ。
目の前でコーヒーを飲む土方に、金時は安心した。
出掛けなくて良かった。



「…何だよ」
「え?何が?」



ジっと土方を見る金時に、土方は居心地悪そうに呟く。



「…何か…ジっと見てる、気が、した…」



自意識過剰と思われるのが嫌なのか。
それとも照れているのか。
恐らくは後者だろう。
思った事を口にする。
そんな素直な土方が羨ましいと思った。
赤い顔した土方を見ながら金時が感じた印象。



「ん〜…良い男だな、と思って」
「ブっ!!…お、お前な、んな事言うなっ!!!」
「え〜何で?思ってる事言わなきゃ」
「い、言って良い事と悪い事があるだろうが!!」
「そう?これは言って良い事でしょ?」
「………………」
「気分悪くないでしょ?」
「…悪ぃよ」



プイっと横を向いてしまった土方に、金時は笑う。
本当に、この男は可愛いと思う。


(…でも)


コトリとコーヒーカップをテーブルに置いて。
金時は考える。


(拙い、なぁ)


ふと土方から視線を外して。
さっき土方から言われた言葉を考える。
警察が捜している。
『金髪のホスト』


(…ちょっと油断したかなぁ)


「…おぃ」


(取り合えず『アイツ』にもっかい連絡して…)


「…ぉい」


(怒られんだろうなぁ〜…うるせェからな『アイツ』)


「おいって!!」
「へ?!…あ、あぁ…土方君、どったの?」
「どうしたのはこっちの台詞だ!ボーっとしてどうしたんだよ?」
「あ、うん。…ほら、金髪のホスト探してるって聞いたからさ」
「あ?あぁ…」
「染めようかな〜と思って」
「え?」
「髪。もし外に出て、疑われたらダメじゃん?」
「…悪ぃ」
「嫌々!そう言うんじゃなくてね?!迷惑掛かっちゃうでしょ?」
「迷惑?」



金時の言葉に、土方が首を傾げる。



「ほら、俺今土方君トコ置いてもらってるでしょ?実質上、ここが住居とかになっちゃうと思うのよ」
「…まぁ、…そう、だろうなぁ…」
「職質とかされて、もし土方君と暮らしてるってバレたら、土方君に迷惑行っちゃうでしょ?」
「……それは……」
「住まわせて貰ってる上に、迷惑なんか掛けちゃ、流石に金さんも心苦しい訳よ」
「……………………」
「それに」
「…それに?」
「好きな人には迷惑掛けたくないし?」
「!!だ、だからお前はっ!!」



金時の言葉1つ1つに真っ赤になって反応する。
そんな土方が面白くて堪らない。



「本気よ〜?」
「嘘吐けっ!つうか、その性質の悪ぃジョーク、いい加減止めやがれっ!!」
「だから〜冗談じゃないんだってば。本当の本当に土方君が好きなの」
「んなの信じられるかぁぁぁ!!!!」
「……………………」
「…………あ?何だ、よ…」



いきなり黙ってしまった金時に、土方は怪訝な顔をする。
が。



「…じゃぁ試してみる?」
「…は?」
「試してみる?『俺の本気』」
「は?…って、おい!何してやがる!!!」
「だって傍に行かなきゃ出来ないでしょ」



テーブルに伸し掛かり、金時は土方の傍に寄る。
突然の金時の行動に、土方が面食らって居ると…。



「は?!何が…」
「SEX」
「…は?」
「SEX。幾ら何でも冗談で男と寝れないでしょ?特別に金さんが女役やったげるから。…シよ?」
「なななななななななななな何血迷ってんだ!!!」
「血迷ってなんか居ないよ〜。好きな人と肌を合わせたい。それって自然の摂理でしょ?」
「思いっきり不自然だ!俺達は男同士だつうの!!!」
「でも俺は土方君が好きなの。信じてもらいたいし、シたいし。…一石二鳥」
「何処がだっ!!!!」
「良いじゃん。『据え膳食わぬは男の恥』だよ?」
「ばばばばばばばばば馬鹿言ってんじゃねェっ!!!!」
「じゃぁ、…………信じてくれる?」
「はぁぁっ??!」
「俺が。土方君を。本気で好きって事」
「せ、迫るな!乗っかるなぁぁ!!」
「信じてく・れ・る?」
「わ」
「わ?」
「解った!信じる!信じるから!!」
「…ホント?」
「本当!本当!!だから退け!!!!」
「…OK」



土方の台詞を確認すると。
金時は土方に乗っかっていた身体を離し、土方からも離れる。


(…あれ?)


「そう言えば、土方君仕事良いの?さっき出たばっかだったんじゃない?」
「あ、そうだ!」



金時の台詞に、土方は勢い良くソファーから立ち上がる。



「ヤベっ、急いで戻んなきゃ!!」
「あ〜…やっぱお仕事行くの?」
「ったり前だろ!」
「む〜…もっとゆっくりすれば良いのに」


金時が言葉を紡ぎ出した途端に土方が勢い良く立ち上がる。



「十分ゆっくりしただろうが」
「…あぁ。言わなきゃ良かった」
「何言ってんだよ。…じゃぁな。戸締り、忘れんなよ」
「はぁい。行ってらっしゃい」



ドタドタと玄関に向かう土方に、金時も後に続く。



「マジ疑って悪かったな。…じゃぁ、仕事に戻るわ」
「うん。お仕事頑張ってね」
「…あ、そうだ」
「?」
「髪」
「髪?」
「染めんなよ。それ、綺麗で気に入ってんだ、俺」
「!!!!」



出掛ける際にサラリ告げた、土方の一言。



「ちょっ…」
「あ?…って、な、何でお前真っ赤んなってんだよ?!」
「…うぅ〜…土方君、それ卑怯…」
「あぁ?!卑怯って何…っ、ちょっ、…お前がいきなり赤くなるから…俺、も…うつ、った…だろ…」



2人して、玄関先で赤くなって、黙ってしまう。



「だ、だぁぁぁっ!!もっ、良いから俺が仕事行くからな?!」
「あ…ちょっ…、待って、土方君」
「あ?何だ…」


…チュ…


「○×△□?!!!」
「…髪、褒めてくれたお礼。と行ってらっしゃいのキス」
「てててててててめっ、ななななななななな何しやがる!!!」
「良いじゃん、ほっぺなんだから」
「そ、そう言う問題じゃねェだろうが!!」
「え〜…ぁ、唇の方が良かった?」
「〜っっ、金時っ!!!」
「あ、初めて名前呼んでくれた。…嬉しい…」
「!?…いいいいいいいい行って来ます!!!」
「…行ってらっしゃぁ〜い」



バタンと勢い良く出て行ってしまった土方に、金時は手を振って見送る。
カチャンと言われた通りにドアの鍵を閉めて。
金時が部屋にも戻ろうとした時。



「……………………」



ふとした時に気づいた。
玄関の傍らに置かれた姿見。
映される、自身の姿。



「綺麗、か…」



そこには。
顔を歪めて笑う。
金時が居た。






2006/05/14UP