「訴えないだと?!」
署に着いて。
早々に土方が聞かされた言葉は。
先日の事件の事だった。
内容は。
被害者は。
今回の事件を訴訟しない、と言うもの。
バンっと机を叩きつけて。
土方はその報告を口にした、上司・近藤に詰め寄る。
「全治3週間の大怪我だぜ。…アバラ骨2・3本折られて許すって、どんな心の広い奴だよ」
「そう言うな、俺達だって混乱してんだ。…なぁ、総悟?」
「そうですぜ。まぁ訴えなくても、そんな傷害事件、放っておく訳にゃぁいけませんがね?どうにも俺達の手の届かないトコに行っちまったんでさぁ」
「…?手の届かない所?」
「……………………」
「…どう言う事だ?」
珍しく渋る近藤に、土方がそう声を掛ければ。
意を決したように、近藤が俯いていた顔を上げる。
「…上が絡んでる」
「…上?」
「あぁ。どうも今回やられた連中は、警察上層部が懇意にしている連中みたいでな」
「!!それなら、余計に俺達が…っ!!」
「まぁ、待て。俺達の話を聞け」
ハァ、と近藤は溜め息を吐くと、静かに言葉を紡ぐ。
「デカい声じゃあまり言えないんだがな…」
「何だよ…?」
「どうもな、俺達じゃなく、特別班が組まれるらしい」
「特別、班…?」
「あぁ。向こうも用心棒だったみたいだしな。面目もあるんだろう。俺達には『訴えない』で終わらせてるが、これで終わらせる気はないらしい」
「………………」
「特別班がそいつを探し出す。…始末するんだろうな、『影』で」
「っっ!!!…それじゃぁ、どっちが悪人か解ったもんじゃねェだろうが!!」
「…そう言うな。だからな。…トシ、あんま無茶…」
「…冗談じゃねェぞ…」
「え?」
「ト、トシ?!」
「冗談じゃねェっ!影で始末するだぁ?俺が、んな事させるかよ!!」
ドカドカと去ってしまった土方を、近藤と沖田が慌てて追い掛けようとする。
が。
「トシ!落ち着け!!何をそんなに熱くなってるんだ?!」
「そうですぜぃ。どうしたんです?いっつもなら、『下らねェ』で片付けるアンタが…」
「俺は熱くなんてなってねェっ!ただ…ただ正しくあるべき警察が、んな汚ねェ真似、放っとけるか!!」
(冗談じゃねェっ!!)
確かに行き過ぎた乱闘だとは思う。
3人。
もし金時が1人だとしたら。
大の男が3人だ。
3人掛かりで1人の人間を暴行しようとしたのだ。
そっちの方がリンチではないか。
…結果のされたのはその3人の方だが。
ギリっと土方は歯を食い縛り、歩く。
「待て!」
「離せ!近藤さん!!」
ガシっと捕まれた肩に、土方はバっと振り払い、近藤と正面で向き合う。
「どうしたんだ?!お前…今回の事件に入れ込み過ぎてるぞ?」
「何でぃ、知り合いでも絡んでるんですかぃ?」
「…っっ!!」
沖田の言葉に、土方の身体が強張る。
付き合いの長い近藤と沖田が、その微かな動揺を見逃す訳もなく。
「…本当か、トシ?」
「…わ、かんねェっ、…確信、全然ねェし…」
「……はぁ〜。…なぁ、トシ」
「…何だよ」
「本当はお前には黙っていようと思ったんだがな」
「何、を…」
「その特別班に、俺とお前と総悟が呼ばれていたんだ」
「!!マジか?!」
「でもお前の特別捜査班の加入は、俺が断った」
「!!な、何でっ…!!」
「今回の事件に、お前の入れ込みは異様だった」
「そうですぜ。…いつもは現場に居るだけで、聞き込みの指示とかだけするアンタが今度の事件は早々に自分から聞き込みを始めた」
「!!」
「…そして、もしかするとお前はその犯人と思しき人物に心当たりがある。…近い存在でな」
「…俺が…俺が犯人を逃がす、とでも言いてェのかよ…」
「そうは言わん。警察と言う仕事を誰よりも重んじるお前がそんな事をするとは俺は思わん」
「俺は思ってますぜ」
「…総悟」
「…チェっ。はぃはぃ」
総悟のチャチャを近藤は制し、真摯な眼差しを土方に向ける。
「…トシ」
「…!」
「俺はお前を信じてる」
「…………………」
「実はすでに特別捜査班には犯人と思しき人物の外見的特徴が伝えられてる」
「!!」
「俺は今からそれをお前に伝える」
「い、良いのか?」
「何。俺はお前を信じてるからな。そいつが犯人にしろ犯人でないにしろ。トシが判断を間違える訳ないだろ?」
「近藤さん…」
「…捜査班の探している人物像は…」
そして。
近藤から紡ぎ出された言葉は。
「金髪のホストを探せ」
「っっ!!」
近藤の言葉に、土方は眩暈を感じた。
…欲しくなかった確信。
土方は踵を返すと、そのまま駆け出した。
「おい、トシっ…!!」
(あの野郎っ…!)
やっぱり自分の勘は正しかった、と。
土方は近藤の呼び掛けも無視して、署を出る。
向かうのは、出て行ったばかりの自分の自宅。
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2006/05/09UP