それから数日後。
「だから。見送りは良いつってんだろ」
「だから。見送りたいつってんでしょ」
「……………」
「……………」
2人は順風に生活を送っていた。
「つうか、お前いつ出てくんだよ」
「またその話〜?まだ怖くて外に出てませ〜ん」
「もう1週間は経ってるだろう?!どんだけしつこい奴等だよ?!!」
「あ〜はぃはぃ。正しくは5日ね?今度部屋探して来るから。ほら、行かないと遅刻しちゃうよ〜?」
「若妻か…てめェは…」
「おんやぁ?土方君の奥さんなら、喜んでなっちゃうけどぉ?」
「ブっ!!だ、誰が野郎の妻欲しがるか!!!」
「チェ〜。こうやって食事作ったり、家事全般やってるのにさぁ〜」
「それはてめェが働いてねェからだろうが…働かざる者食うべからず、だ」
「はぃはぁ〜ぃ。解ったから。行ってらっしゃい。…ん」
ゴスッ
「いっだぁぁぁぁっっ!!ちょ、おま、若妻に何すんだよ!!」
「誰が妻だ、誰が!!つうか、それも毎回毎回止めろつってんだろーが!!」
「良いじゃん!サービスで『行って来ますのチュー』くらいしてくれたって!!」
「何のサービスだ、何の?!」
「いっつも家事頑張ってる金さんに愛情の…」
「それなら日中問わず働いてる俺が労って欲しいわぁぁっっ!!」
「あ、何だ。土方君して欲しかったのね。それならそうと言えば金さんしてあげるのに…ん〜…」
ガスッ
「ぬごぉぉぉぉ、目、目が!!おまっ、目潰しはないだろうぅぅぅ!!!」
「そのまま何も、明日も見えないで居ろ。…じゃぁな」
のた打ち回る金時を尻目に、土方はバタンとドアを閉める。
ドア越しに「俺には土方君しか見えないよ〜」などと言う軽口が聞こえる。
土方ははぁ〜と長い溜め息を吐いて、懐のに手を忍ばせる。
タバコを口にして、もう1度深く溜め息を吐く。
(参った…)
カタンと閉めたばかりのドアに寄り掛かって、空を仰ぎ見る。
帰れない、と言う金時と住む事を渋々だが承諾した土方。
それと言うのも…。
「…ぜってェ関係あるはずなんだ」
先日起こった暴行事件。
1人の男がしていた指輪。
金時のこめかみの傷。
結局金時には聞けなかったが、あの事件と金時は何処かで繋がってる気がした。
それは、土方の刑事としての勘、としか言えないが。
胸がざわついて、予感させる。
傍に置けば、何か出て来るかも知れない。
離してしまえば、もう2度と会えない。
自分を好きだと抜かす、あの飄々とした男を住まわせる事にした。
…それが、土方が金時を住まわせる事にした理由。
「参った…」
土方はもう1度言って、ドアから背を離して、廊下を歩き始める。
冗談だと思った。
正直、冗談であって欲しかった。
『好き』と言った言葉。
でも、冗談とも本気とも取れない態度を金時は見せ続ける。
さっきのやり取りだってそうだ。
行って来ますのキス?
「…冗談じゃねェよ…」
それを振り払うように、土方は歩を早めるのだった。
ジャーっと水道の音が響く。
金時は土方が出掛けてから、彼と自分が取った朝食の食器を片付けていた。
その時だった。
「〜♪〜♪♪」
「…おりぉ?」
部屋の中に響く機械音。
金時はキュっと蛇口を閉めると、辺りを伺う。
「………………」
ココにはすでに自分以外の誰も居ないのは解っているのに。
まるで習慣のように、辺りを気にしてしまう。
「………もしもし?」
金時はポケットから携帯を取り出すと、ピっと通話ボタンを押し、耳に押し付ける。
「…よぉ、久し振り。元気か?…あぁ?電話口で怒鳴るなよ」
「別に姿暗ましちゃ居ねェよ。連絡しなくて悪かったな。ちょっと…『隠れ家』に居てさ。勝手出来ねェんだ」
「え?何処かって?教える訳ねェじゃん。『隠れ家』なんだから。…それよりもさ」
「『例の件』どうなった?」
「あぁ、あぁ、…うん。……そっか。…解った。サンキューな」
「え?俺?ん〜…これからちょっと『アイツ』んトコでも行ってみるつもり。ちょっと相談してェ事もあるし」
「おぅ。お前も来いよ。え?『店』が忙しい?…お前な〜どっちが『本職』か解んねェぞ、それ」
「あはは。…ん、じゃぁな。…あ?気をつけろ?」
「…大丈夫だよ。昨日も……あぁ、やっぱ何でもねェ。じゃぁ……だ〜か〜ら〜大丈夫だって」
「んな無駄な心配ばっかしてっと、ハゲんぞ」
「…お前なら解るだろ?」
「…あぁ、じゃぁな」
「あ」
「…否、ごめん、何でもねェや。…ん、じゃぁな。…また」
「『会えたら』な」
ピっとボタンを押して、パタンと携帯を閉じる。
「…………………」
金時はしばらく携帯を握って居たが。
ギュっとそれを握って、また携帯をポケットへしまう。
そして振り返って、遣り掛けだった片づけを再開させる。
「…よっし。片付け完了!」
そしてその片づけが終わると、ジャケットを羽織り、ドアに向かう。
「…………………」
片手には。
『…ほらよ』
『え?』
『まぁまだ出掛ける訳ねェと思うが、念の為』
『え?え?』
『…それと、俺が出掛けてから、ちゃんと鍵閉めろよ』
キーホルダーも何も付いていない。
…この家の鍵。
「…も〜ぉ」
キュっとそれを握って。
「…本当、良い人過ぎ」
ドアノブに手を伸ばす。
キィと昼間の光が玄関に差し込む。
隙間から足を出して。
1歩出てから、金時はピタリと止まって。
ゆっくりと。
誰も居ない部屋を振り返って。
「…ごめんね。……土方君」
バタンと閉ざされた扉からは。
…一筋の光も、入っては来なかった。
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2006/04/26UP