気だるい足を引き摺って。
土方は自宅に帰った。
結局夜中中聞き込みをしたが。
目撃者も無く、捜査は難航した。
結局何1つ手掛かりらしいものはなく、一旦自宅に帰る事にしたのだが…。


(居る訳ねェよなぁ…)


マンションのロビーに入り、集合ポストを開ける。



「…あ?」



そこに入っていると思っていた鍵は無く。



「…何だ?アイツ持って帰っちまったのか…?」



仕方なく、もう1つのスペアの鍵をポケットから取り出し、エレベーターに乗る。


(くっしょ〜…持って帰っちまったら、鍵付け換えなきゃなんねェじゃねェか)


ブツブツと文句を言いながら、エレベーターは最上階に止まる。
エレベーターを出て、自身の部屋の前に来て。
鍵を差込み、扉を開ける。
そして…。



「…あ?」
「あ、おか〜えり〜」
「な…っ!」
「夜中に呼び出されて、警察って大変なんだね〜。これで通常の勤務時間にも出てくの?」



リビングに香るお味噌汁の香り。
かたかたと鳴る鍋の音。
そして思いも寄らぬ人物の出迎え。



「なっ…何でまだお前が居る訳ェェェっっ?!!!



日差しが眩しい朝に、土方の叫び声が響き渡る。



「まぁすぐに出て行けるように、今ご飯作ってるからさ。着替えて待っててよ」
「飯って…おまっ、帰ったんじゃなかったのかよ?!!」
「あ、土方君。好き嫌いなぁい?」
「はぁ?ある訳ねェだろう、んなもん!ガキじゃねェんだから!!」
「良かった〜。あ、それと和食好き?」
「朝からパンなんか食って腹が膨れるか…って質問に答えやがれ!!」
「え〜?質問?何?」
「そこからかよっ!!何でまだ居るのか聞いてんだよ!」
「ん〜それがねぇ…。あ、もう準備出来たから、手ぇ洗って座って」
「〜っっ、良いから質問に答えやがれっっ!!!」



いつまでも埒の明かない金時に、とうとう土方の堪忍袋の緒が切れた。
ダンっとテーブルに拳を打ち付けて、怒鳴る。
炊き立てのご飯をご飯茶碗に盛っていた金時はカタっとそれをテーブルに置いて。



「…土方君」
「何だよ」
「そんなに怒ると血圧あがるよ?」
「っっ!!!」



さらりと聞き流した。
そして…。



「ほら。外から帰って来て、手ぇ洗った?」
「…洗って来る」



一気に脱力した土方は、すごすご洗面所に姿を消した。



「…で?」
「え?」



結局2人で何故か食卓を囲む事になり、一段落着いてから土方が金時に声を掛けた。



「え、じゃねェよ。帰ってなかった理由。まだ聞いてねェんだけど?」



ズズっと味噌汁を飲みながら土方が言うと、金時はあぁ、そう言えば、と呟く。



「それがね〜ちょっと困った事になったのよ」
「困った事?」
「うん。…ほら、これ。ぁ、そうだ、土方君手当て有難うね」
「あ?あ、あぁ…」
「これを、ね、付けた…まぁ簡単に言えば殴られた相手、なんだけど」
「お、おぅ…」



土方は金時の言葉にドキっとした。
結局昨日の事件では、金時と事件を結ぶ確証は何も得られなかった。
まさか金時が中国系用心棒を3人ものしたと言うのも俄かには信じ難い話で。
鑑識を呼んで、被害者の指輪に誰かの皮膚・血液が着いていないか調べさせる訳にもいかなかった。
喧嘩?それとも…?



「俺の客の用心棒なんだわ」
「よぅじっ…?!」
「前も言ったけど、俺ホストでさ。土方君達がガサ入れした店の後に、すぐに他の店で雇ってもらえてさ」
「………………」
「そしたら数日しない内に太い客。…あ、これはホスト用語で金持ちって事ね。まぁ太い客が付いた訳よ、俺に」
「………………」
「んで、まぁアフターでホテル行こうって話になったら、親に見つかっちゃってさ」
「………………」
「その親が用心棒雇っててさ〜1発殴られて、俺速攻逃げた訳」
「………………逃げた?」
「?うん。そりゃぁそうでしょ?用心棒、2人だったんだけどね、俺はしがないホストだし。怖いから逃げたよ」
「殴られたのに、か?」
「1発だけで済んでラッキーと思わなきゃ。相手の女の子の父親が何してるか知らないけど、用心棒雇って娘奪いに来るなんて、危ない系でしょ?」
「…まぁ、そう…かもな」
「でしょ〜?俺、空手とか格闘技やった事ないし。逃げますよ、そりゃぁ」
「そ、ぅか…そう、だよな。…あぁ、そうだ」
「?変な土方君」



首を傾げる金時に、土方はその金時の視線から逃れるように、もう1度味噌汁を口に運ぶ。



「で。土方君の質問の答えなんだけど」
「あ?」
「だから『俺が帰んなかった理由』」
「あ、あぁ…」
「俺をココで飼う気、なぁい?」


「ブ―――――――っっ!!!!!!!!!!!!」


「どぅわっ!!き、汚ェ、土方君!味噌汁吹き出すな!!」
「げほげほっ、てててててめェが変な事言いやがるからだろうがっっ!!!」
「え〜…だって…」
「だってもさってもねェだろうが!誰が飼うか!つうか警察になんて申し出してんだ、てめェっ!!」
「ぃやぁ〜飼われるんなら土方君みたな良い男が良いかなぁ、なんて…」
「………あったま痛ェ……つうかいきなり『飼う』って何なんだよ…」



ケラケラと笑う金時に、土方は頭を抱える。
そんな土方の様子を見て、金時は。



「それがね、真面目な話。今俺、家に帰れないのよ〜」
「は?何で?」
「ほら、さっき話した危ない系親父。あれの用心棒らしき奴が家の前にウロウロしててさ〜」
「…………………」
「俺、家入れないのよ。だから、ね?土方君、家にしばらく置いて〜」
「って、ふざけんな!てめぇの事はてめぇで解決しやがれ!」
「出来ないからこうやってけーさつの土方君に相談してるんでしょ?」
「だからって…それで何で俺の家に住まわせる事になるんだよ?!」
「理由がないって事?…あるよぉ?だって俺…」
「あぁ?何だよ?」
「土方君にもっかい会いたかったんだもん」
「…はぁ?」
「土方君と一緒に居たいの。…この意味解るよねぇ?」



ニッコリと微笑んで言う金時に土方は動揺する。
意味?
一緒に居たい?



「な、何言ってんだ、てめぇ…」



震える声で何とかそう返すと、金時ははぁ〜と溜め息をわざとらしく吐いて。



「だから〜…。も〜鈍いなぁ、土方君。好きだつってんですよ、このヤロー」
「〜っ?!」
「あっはー、良い反応」
「てめっ、からかってんのか?!」
「からかう為に男に告白するほど酔狂じゃないよ、俺」
「お、お前そう言う趣味があったのか…?」
「ん〜…ない、とも言い切れないのかなぁ?この場合。まぁ告白しちゃってるくらいだしねぇ?」
「………」
「あぁ、でも誤解しないでね?男に告白するの土方君が初めて。惚れたのも」
「てめ、それ…信じろってのか…?」
「あっはー、それが正しい反応だと思う。これはもぉ信じてもらわなきゃどーしよーもないんだけどね」
「…………」
「でも女の子好きじゃなきゃホストなんて出来ないんだけど、ってかたまたま一緒に居たいと思ったのが、土方君だったって話でぇ」
「…………」
「今まで付き合った彼女にも、ホストとして付き合った女の子達も、こんな事思った事なかったのに。土方君、男の子だしねぇ?」
「…………」
「困ったなぁ、とは思ったんだけど、自分に正直になろうと思い切って告白しちゃいました。ってあれ?作文??」
「…………」
「ってそんな事言われても困っちゃうよねぇ?…ごめんね?じゃぁそろそろ俺はお暇しようかなぁ」



そう言ってガタリと席を立った金時に。



「…待てよ」



土方は声を掛ける。



「…え?」
「…行くトコあんのかよ?」
「……ん〜…探すよ。お家に帰れないからねぇ」
「…………」
「…土方君?」
「…チっ!」
「?」
「市民守るのが警察の役目だからな!…仕方ねぇ、次の家が見つかるまでだ!」
「…は?」
「置いてやるよ、家に」
「…………」
「な、何惚けた顔してんだよ…?」
「………………」
「な、何とか言ったらどーなんだよ?」
「ま、マジで…?」
「…仕方ねぇだろうが」
「……………」



土方がそう言うと、金時は下を向いて俯いてしまう。



「…?おぃ?」
やったー!!マジでマジで?!ってかさ!それってさっきの告白の返事だと思って良いの?ねぇ?ねぇ?!」
「だぁぁぁっ!朝っぱらから叫ぶんじゃねぇっ!!俺は徹夜明けなんだ!」
「って事はぁ…土方君も俺の事好きなの?ねぇ?ねぇ?!」
「ち、違うわぁぁっ!困った市民を助けてやってるだけだ!ただそれだけだ!断じてお前が好きだからじゃねぇぇぇ!!」
「え〜……まっいっか。チャンスはいっぱいあんだし」
「はぁ?何言ってやがんだ!つか、てめっ!ちゃんと宿探せよな?!」
「はぁぁ〜い」
「…全然探す気ねぇだろ」
「そんな事ありませんよぉ?」
「じゃぁそのうさんくさい笑みは何だ?!」
「ひどぉい、元からこんな顔ですぅ」
「言い方がムカつく!マジムカつく!!やっぱてめえ出てけっ!!」
「だぁ〜め。俺聞いちゃったもん。もうキャンセル利きません。…宜しくね、土方君」
「…ふん」
「んで早めに俺ん事好きんなってね?」
「誰がなるかぁぁぁぁ!!」



ぜぇぜぇと肩で息をする土方。
にこにこと上機嫌の金時。
対象的な2人の。
奇妙な同居生活が始まる。






2006/04/19UP