「…ん…っ」



金時が目を覚ました時、一番最初に視界に飛び込んで来たのは見慣れぬ天井だった。



「…あ〜…」



ほんの少し、自分が何処で何をしていたのか忘れて。
でもすぐに直前に自分が会った人物を思い出す。



「…寝ちまった、のか?」



ギシっとベットが軋み、金時は起き上がる。
周りを見渡せば。
小ざっぱりと片付いた寝室。
カーテンは引かれ、辺りは暗かった。
…今、一体何時なのだろう?



「…ベット、占領しちまって悪かったな」



起き上がり寝室を後にする。



「…寝ちまってる、か?」



部屋を出ても、何処にも明かりの木漏れ灯も、人の気配もしない。
不思議に思いながらも、リビングと思しき部屋に入ると。



「…?」



テーブルの上に置かれた、1枚の紙切れ。
金時がそれに気づき、紙を取り上がると。


『仕事が入った。起きたんなら勝手に帰れ。鍵はポスト。―土方』


お世辞にも綺麗な…どう見ても走り書きしたとしか思えない文字。
それに、何だか全然知らない土方の性格が見て取れて。
金時はプっと吹き出す。



「あはは、几帳面なのか違うのか解んねェ奴〜」



見知らぬ人間を家に置いて、そのまま仕事に出てしまう。
それのなのにちゃんと書き置きまでして。
テーブルに置かれた、キーホルダーも何も付いていない鍵。
…信用されている、のだろうか?



「…怪我の手当てもしてくれたんだ」



ソっと痛むこめかみに手を当てれば、ガーゼだろう。優しい感触が手に伝わる。



「人が良過ぎだぜ、お前。…そう言う奴は利用される。特に歌舞伎町ココじゃな」



ふと明るい景色に顔を窓の方に向ければ、ベランダに続き窓はまだカーテンが引かれえなく、新宿歌舞伎町の夜景がよく見える。



「…メチャメチャ走ったから、ココが何階か解んねェけど。結構良いトコ住んでんな」



カラリと窓を開け、ベランダへと出る。
冷たい夜風が金時の身体に吹き荒ぶ。



「…仕事って、アレ…かなぁ」



ベランダの手摺りに腕を乗せ、その腕の上に顎を乗せる。
綺麗なネオンが眼前に広がる。
広いこの街。
優しくないこの街。
それでも。



「…逃げらんねェ…」



ポツリと呟いた言葉は夜風に掻き消され、誰にも届かない。



















































「何だ、こりゃぁ…」



現場に着いた土方が目撃したのは、正に惨劇だった。
折り重なるように取れた中国系黒服。
すでに意識は無い。
土方は急いで携帯を取り出すと、



「土方だ。救急車の手配はしたのか?!…あぁ?!まだ来てねェよ!!」



救急車の要請の確認をし、雑然とする野次馬に「道開けろっ!救急車が入って来れねェだろう!!」と叫ぶ。
意識のない人間は下手に動かせない。
今はただ、救急車が到着するのを待つしかない。
チっと土方は舌打ちをし、もう1度折り重なった3人の黒服を見る。
…酷い暴行の跡。
でも黒服なんて着ている人間。
それは誰かのボディーガードだったり、用心棒だったりする。
そんな人間を一体誰が…?



『え?…あ〜…思いっきり殴られたから』



ヘラリと笑ったあの顔が思い浮かぶ。



(…まさか…)



カチリと煙草に火を点け、土方は自身の考えを一蹴した。
金時は独りだった。
3人もの中国系黒服を暴行出来る程の体力も、腕っぷしもあるはずがない。



(違う…違う違う…)



まるで祈るようにそう思う。
そして…。



「救急車、到着しました!!!」



現場の声に我に返り、顔を上げる。
駆けつけた救急隊員が折り重なり倒れる3人の救護に向かう。
色々と叫び声が飛び交う中、1人…また1人と救急車の中に収容される。
その時。



「…!!!」



土方の目に飛び込んで来た。
それは倒れていた黒服の1人の。



「…指輪」






2006/4/15UP