「…誰が呼ぶかよ」
「ぅくくく」
「……ぁんだよ」
「ほっぺ、赤いよ?」
「…っ、…!?」
「何でヤローの名前聞いて赤くなるのぉ?」
「っ、テメっ…!!」
「土方さん、全ての調査終了しました!撤退指示を!!」
「…チっ!」
「あらぁ。…遊んでる内に終わっちゃったよぉ?」
「遊んでたのはテメェだけだよ」
「?」
「あぁ、悪ィな、山崎。…解った。撤退しろ」
「は、はいっ!!」
土方にそう告げられた山崎は敬礼の形を取り、踵を返して現場へと戻った。
土方はそれを横目で見ながら、フゥ〜っと紫煙を吐き出して、それを近くの灰皿へと落とした。
「ってな訳で俺も行くぜ」
「うん。じゃぁね『土方』君」
「あぁ?何でテメェが俺の名前…」
「だって今呼びに来た子が言ってたじゃん。『土方』さんって。本名でしょ?それともコードネーム?」
「何処の世界にコードネームで呼び合う刑事が居るんだよ」
「いやぁ、それは…。ほら、俺の知らない世界が広がってるかも知れないでしょ?」
「アホか」
「まぁ、とにかくお仕事頑張ってね〜。バイバイ」
「…大の男がバイバイなんて言うな」
「え?でもバイバイの時はバイバイでしょ?」
「その言い方止めろ。馬鹿に聞こえるぞ。…あ、馬鹿だったか」
「ムッカー!今の言い方すっごいムカついた!ムカつきました!!」
「だったら、バイバイなんて言うな。手を振るな。キモい」
「俺がやると可愛いでしょ?」
「………病院行け……」
バイバイと手を振る金時に。
土方は何も言わず、踵を返した。
(何が「バイバイ」だよ)
…何処となく、面白くない気持ちを感じながら。
「ふぅ…」
それから数日後。
仕事を終えた土方は、疲れた身体を引きずって、帰路に着いた。
土方は新宿・歌舞伎町付近にマンションを借りている。
マンションを選んだ理由は管轄している署に近いから。
そのお陰でどんなに遅くなっても、電車を使わないで家へと帰れる。
「…そろそろ異動の時期だなぁ〜」
勤続年数を考えると、そろそろ異動か、と懐から煙草を探りながら思う。
「今んトコ、家賃も良いし、引越ししたくねェな〜」
カチリと煙草を点けて、深呼吸する。
ふぅ〜と吐き出した紫煙が夜の歌舞伎町へと消える。
異動が決まったら、勤続する事になった署の近くにマンションを借りる土方。
しかし今回、もし異動が出ても引越しする気になれなかった。
それは何故か…。
「…気に入ってんのかもな」
この歌舞伎と言う街が…。
そんな事を考えながら、紫煙の煙を吐き出して、マンション前に立つ。
「…まぁ異動が決まってから、考えりゃぁ良いか」
まだ異動の出る前。
もし異動が出たら。
そんな考えに至った本日。
何故急にそんな考えに及んだのだろう。
不思議に思いながらも、土方はポケットから鍵を取り出して、玄関を開ける。
その時だった。
「…?」
ダダダダダっと走る音がマンション内に響く。
「な、何だ…?」
それは段々と近づいて。
玄関を開けたまま、不思議に思った瞬間。
ガっ
ガン
ドンっっ!!!
「ぅわっ…!!」
突然身体を押されて。
そのまま玄関内へと押し込められる。
何事かと目を開けば。
「…あ?」
「はぁはぁはぁ…ご、ごめんね。ちょっと…あの、人に追われてるつうか…その、うん。ちょっとだけ匿って…ぁ、俺別に怪しい奴じゃなぃから…」
目の前に広がる金髪。
そこには肩で息をしている、金時が居た。
「な…っ!」
「あ、っれ〜?アンタ確か、この間面接に行ってガサ入れに来た……ぇっと、多串君?」
「土方だっ!!先日会ったばっかなのに、いきなり訳解んねェ名前で呼ぶんじゃねェっ!!!」
「あぁ、そうだそうだ、土方君。…やっほ〜元気?」
「元気?じゃねェよっ!!」
「あれ?元気じゃない?ダメだよぉ〜刑事は身体が基本なんだから…って仕事全般そっか」
「…って。てめェ怪我してんじゃねェか」
「え?…あ〜…思いっきり殴られたから」
「あぁ?殴られたって…傷害か?人に追われてるつったな。何したんだ、てめェ」
「や、その…ちょっちトラブルって言うか…ちょっ、と……」
「あ…?」
それだけ言うと、金時の身体がグラリと揺れる。
「ぉ、おいっ…!」
「かく、ま…って…ほ、しぃ、…かな…と、か…」
「おいっ、て、めっ…!!!」
「最近、寝てね、ん…だ、ちょ、っと…寝かせ…て…」
そのまま倒れ込んでしまった金時の身体を土方の腕が支える。
声を掛けても、金時はピクリとも動かなかった。
顔を覗き込んで見れば、クゥクゥと安らかに寝息を立てている。
どうやら本当に寝てしまったらしい。
「…マジかよ…」
いきなり部屋に転がり込んで来て、気を失うように眠ってしまった人物。
土方はその人物を腕に抱えて呆然とするしかなかった。
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2006/04/07UP