その男を見たのは、その時が初めてだった。
緊迫したこの場に似付かわしくない飄々とした態度で。
片手にピンクの液体が入ったグラス。
もう片手にはボトル…ドンペリって奴か?…それをしっかり握り締め。
無人のカウンターに寄り掛かってこっちを眺めてる。
忙しなく動くウチの所員達の動きに合わせて小さな顔が左右に揺れてる。



「へぇ〜これがガサ入れかぁ…人がいっぱい、大変だぁね」



感心したかのように呟かれた言葉。
呟いて。またグラスを傾ける。



「…誰だ?」



見た事もない奴。聞けば良いのに。お前は誰だと問えば全ては明らかになるのに。
俺は馬鹿みたいに突っ立って、そいつの姿を凝視してた。
目が離せない…まるでそこから1歩でも動けば、そいつが幻で消えて居なくなってしまいそうな気がして。
今になって思えば、我ながら本当に馬鹿だと思う。
思う…けど、その時の俺は只々そいつを馬鹿みたく見ていた。…見つめていた。
最初に目を惹かれたのは、鮮やか過ぎる金髪。
別にココ、歌舞伎町では差して珍しくもない髪の色。
だが、人間が着けた色にしてはそいつのそれは鮮やか過ぎな気がした。
ふわふわとした柔らかそうな髪が部屋の薄明かりに反射する。
それがやけに目に付いた。



「おい。…てめェも関係者か?」
「ん?俺ぇ?あ〜良かった、ようやく聞かれた。いやぁ〜さっきからココ。ココ…現場?現場って言えば良いの?ねぇ?」
「何でも良いよ。ココに居て?それでどうした?」
「ん。ココにさ、さっきからずっと居るんだけど、だぁ〜れも俺に声掛けてくんなくてさぁ。もしかして俺、見えてない?透明人間ですかぁ〜って心配になってたトコなのよ」
「…質問の回答になってねェじゃねェか。…もう1度聞く。"てめェは関係者か?”」



俺が質問を投げると聞いても居ねェ事をべらべらとしゃべる。
イラついて凄めば、恐い恐い、瞳孔開いてますよ?と騒ぎ出す。
もう1度質問を投げようとしたら。



「まぁそんな恐い顔しないでよぉ、お巡りさん。格好良い顔が台無しよ?」
「…さっさと質問に答えねェか」
「わ〜恐い!はぃはぃ、答えます!答えますよぉ!!俺は関係者じゃねェよ。今日ココに居るのはね、面接に来ただけなの。単なる善良なホストさんよ、俺」
「はっ、善良かどうか…」
「いやぁ〜今日ガサで良かったよ。明日だったら危うく俺もお縄になるかも知れなかったもん。金さんラッキー♪」
「あぁそうかよ。そりゃぁ良かったな。じゃぁ、さっさと帰りな。このまま居たんじゃ、捜査の邪魔だ。しょっぴくぞ」



埒の明かない押し問答に。
さっさと立ち退かせようと、そんな台詞を吐くと…。



「やぁだ〜事情聴取とかしないの?勝手に帰ったら指名手配されちゃうと思って、ずっと居たのに」
「んなんで指名手配になるかよ。それに今日面接に来たんじゃぁ、この店の情報、何も持ってねェだろうが。名前だけそこらの奴に言ってさっさと帰りやがれ」
「マジで〜?…ねぇ、お巡りさん、聞いてくれないの?」
「何を?」
「俺の名前」



ん?と小首を傾げて言って来る男に俺はピタリと動きを止める。
…そうだよ。
忙しそうに動いている所轄の奴等にやらせるより。
今、目の前で話してる俺がコイツの名前とか事情を聞いて、帰らせりゃぁ良い。
帰らせりゃぁ良いのに…。



「…めんどい」
「コラコラ、職務怠慢ですかぁ〜?」
「やかましい!公務執行妨害でしょっぴかれてェのか?!」
「ん〜俺としてはぁ、お巡りさんに聞いて欲しいかもなぁ」
「あぁ?」
「だぁからぁ。俺の名前」



…次に目を惹いたのは。



「…………」
「…………」



瞳。
眠たそうな…虚ろな瞳のくせに。
向けられた、真っ直ぐな瞳が印象的で。



「…、まぇ…」
「ん?」
「チっ!…めんどいが他の奴も手ェ空いてねェみてだから!仕方ねェ、俺が聞いてやるよ。…てめェの名前は?!」



懐にしまっていた煙草を取出し、火を点けながら聞けば。
驚いた顔をして、それからにっこり笑って。



「金時」
「………」
「坂田金時っての、俺。金ちゃんって呼んでねv」



…それがコイツ…坂田金時との出会いだった。






2006/04/04UP