「……………………」
俺は今、1枚の紙切れを見つめている。
「……………………」
てか。
「あ゛〜!もう、さっぱり解んねェっ!!」
こんな紙切れ、見てたって解る訳ねェじゃねェかっ!!!
『土方』
『…あっ…』
『……………』
『な、何だよ…?』
『…お前、何で顔赤いの?』
『!?…う、うるせェっ!よ、用があんだろ?何だよ!!』
『?変な奴。…まっ、いっか。用ってのは…コレ』
『あ?何だ、この紙切れ』
『この間、俺が出した問題』
『…っっ…』
『お前アホだから、言っただけじゃ覚えてねェと思ってな』
『あ゛』
『…だと思った。まっ、一応解く気があんなら渡しとく。言っとくけど、人に見せて答え聞くんじゃねェぞ』
『す、するかよ、んな事!!』
『どーだが。…まっ、ご褒美欲しかったら頑張りなさい』
そう言って渡された。
銀八のお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれた紙。
「…くそっ!」
字を見ているだけなのに。
思い浮かぶあの情景。
『…土方の目って良いよな』
『……シィ。…こう言う時は黙ってるもんだぞ?土方』
『………ん。やっぱ良いな……』
いつもは飄々とした奴なのに。
あの時感じた、あの甘い雰囲気は何々だろう。
「…これじゃぁ問題処じゃねェつうの…」
ご褒美が何なのか。
そしてあの時の言葉の意味は一体何なのだろうか。
頭の中で、色んな銀八がグルグルする。
この3年弱、ずっと見つめて来た。
見ていた。
『…土方の目って良いよな』
…銀八は。
俺がずっと銀八の事を見ていた事を知っているのだろうか?
だからあんな言葉を紡ぎ出したのだろうか?
(…恋文だったりして…)
思わず紙に書かれた文を見直す。
でも。
「ぜってェんな事ねェ〜…」
春の夢とか、訳の解らない言葉ばかりが並んでる。
「それにこの言葉の意味の裏って何だよ…」
『言葉の裏の裏の裏は表?裏?』
「…知るか」
言いたい事があんならはっきり口にすりゃぁ良いじゃねェか。
何の為に言葉があんだよ。
そんな事を思いながら、紙を裏っ返して見る。
…裏には何も書かれてねェよな。
「って、そう言う意味じゃねェつうの…」
言葉の裏が、紙の裏って…どんな寒いギャグだよ。
自分でやっててかなり馬鹿なんだけど。
「土方さん、何してんでぃ?」
「うわっ!!そ、総悟…」
机でうつ伏せてる俺に、総悟が声を掛けて来る。
「な、なななな何でもねェよ…」
咄嗟に銀八から渡された紙を背に隠した。
こいつに知られると、何かと煩いしな。
…つうか。
「?今何隠したんで?」
「や、その…」
…いつの間にか、俺が銀八に惚れてんのもバレてるし。
油断ならない。
「…ふ〜ん」
「な、何でもねェから、帰れ。もう放課後はとっくに過ぎてるぜ」
シッシと俺が手を払うと。
「あ!廊下で銀八と坂本が抱き合ってる!!」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛?!」
「なぁ〜んて。…取〜った」
「嘘かよ!って、おいぃぃぃぃっっ!!!!」
小学生か、こいつ!!!
「み、見んな!!!」
「そんな慌ててどうしたんでぃ?恋文か?恋文なのか?」
「ち、違ェよ、んなんじゃねェけど!!!」
「ん?何何?『春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ』?」
「〜っ…」
何となく居た堪れない。
「何でぃ。百人一首ですかぃ」
「ひゃく…」
「んなモン紙に書いて、どうしたんですかぃ…って土方さん?!」
「サンキュー、総悟!助かった!!」
「は、はぁ…?」
俺は総悟から紙を奪い取ると、図書室に走った。
そうか、百人一首か。
「…とにかく、意味を…!」
意味が解んなきゃ、言葉の表だか裏だかの意味なんか解りゃしねェ!
百人一首なら、図書室に資料くれェあんだろ!!
「…到着!!」
キっと猛ダッシュを止め、図書室の前へ。
「はぁはぁ…ま、間に合った……」
まだ閉じてはねェみてェだ。
ガラリと開けて、中へ。
図書室は相変わらず静まり返って居て、見渡す限り人は居ない。
「まずは…古物書、古物書…」
コーナーに行って、目的のものを探す。
「百人一首、百人一首…あった!」
背表紙に「百人一首・番号と歌の傾向」と書かれた本を取る。
本を読む為に設けられた机と椅子があったが、そこに持ち込むまでの時間すら勿体なかった。
俺は立ったまま本を開く。
(目次…)
そこには、歌の番号が書かれ、そしてその歌を読んだ人物の一覧が載っていた。
ペラリとページをめくって、ドキリとする。
そこに書かれていた文字。
(「百人一首は7種類の歌に分かれる。まずは季節を詠んだ、「春の歌・夏の歌・秋の歌・冬の歌」そして…」)
「…もしか、するか…?」
(「そして「恋の歌」「旅の歌」どれにも分類されない「その他」でも圧倒的に多いのは「恋の歌」である」)
文字を読む目がクラクラする。
もしかして、もしかして。
銀八も俺の事、好きだったりする…?
「えっと…俺が聞かされた歌は…」
心なしか。
ページをめくる手が微かに震えていた。
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2006/04/08UP