『生きて』なんて言わないで。

本当は。

身も世もなく、情けないくらい、みっともないくらいに生に縋り付きたいのに。

でも、忘れたくない。…大切な人達。大切なアナタ。

だから…。

『生きて』なんて言わないで…。




〜タイムリミットまで1時間〜




「着きましたね」

「…っ、コンっ!!」

「待って下さい」

「…っ、止めるなっ!!」



浦原商店に着くと、一護はその勢いのまま玄関へと突入しようとする。

その一護をやんわりと、浦原が止める。



「…はぁ。黒崎さんね。コン君を心配なのは解りますが、いきなり行って、何を言うつもりなんですか?」

「…っっ、そ、れは…」

「『死ぬな』『生きろ』…今彼にとってその言葉の類は一番辛いと思いますよ?まずはアタシが行って、ちょっと落ち着かせますから。ここで待ってて下さい」

「…っっ…!!」

「一護」



そっと恋次にまで制され、一護は俯き、きつく唇を噛む。



「……れの……」

「一護?」

「俺のっ…!俺のミスのせいで、コンが死ぬかも知れねェんだ!!それを…それをここでジっと待ってなんてられっか!!…俺が…俺がアイツを…!」



思いの丈を叫ぶ一護。

それをジっと聞いていた恋次だったが…。



「…言うな」



その先をそっと制した。



「恋、次…?」

「その先は言うな。…まだそいつ生きてんだろ?後悔はそいつが死んでからにしな。…まだ何も動き出しちゃいねェだ。後悔するのは…まだ早い」

「…っ、恋次っ…」



グっと肩に回された手が一護の肩を握る。

それに引き寄せられるまま。

一護はそっと、恋次の胸に顔を埋めた。



「…有難うございます。阿散井さん」

「……フン」

「まずはアタシが話をしますよ。…大丈夫ですよ、黒崎さん。アタシだってコン君を死なせたくないですから」

「……ゲタ、帽子……!」



一護達に背を向け、店に入ろうとする浦原を一護が呼び止める。



「…はい?」

「…コンを……コンを…頼むっ!!」



搾り出された声に、一瞬呆気に取られた浦原だったが。



「…はい」



ニッコリとそれに応えて、羽織をはためかせ店内へと消えた。



「…なぁ、クゾガキ」



静まり返った外に、ジン太の声が響く。



「…お前の方がクソガキだろうが」

「ハン。俺はこんな姿してっけど、お前等よりはずっと年上だぜ?」

「………………何だよ」

「…本当は店長が自分で話そうと思ってんだろうけど。時間ねェんでココで俺が言っちまうぜ」

「だから…何だよ…」

「アイツが生きるとして…お前、任されて大丈夫か?」



ジン太から紡ぐ出された言葉に、一護は一瞬意味を理解出来なかった。



「ど、言う意味だよ…?」

「どーって…そのままの意味だけど?」

「新しい義骸、つまり身体に入る。それって、前見たくヌイグルミとかの身体だとお前思ってんの?」

「………………………」



そう言えば。

浦原は言っていなかった。

コンの…新しい義骸がどんなものか。



「……………………て」



「あぁ?」


































「俺は一度アイツを護れなかった!でも今度は護る!!それが…それがどんな身体であったって!!」




































考える瞬間もなかった。

顔をあげた一護が。真っ直ぐジン太の顔を見ながら、そう叫んだのだった。



「……………………」



その言葉に、ジン太は驚いた表情を浮かべたが。



「く、っくっくっく…ぁ、あははははははは!!!」



次の瞬間には、それは大笑いに変わっていた。



「な、何が可笑しいんだよ!!」

「ひっひっひ…あっはっはっは!!駄目だ!あ〜駄目だっ!!あっはっは〜っ、く、苦しいっ!!」

「な、何だよ……」



































「店長がアンタに任せる訳だ」


































「は…?」

「あっはっは、店長さ。新しい義骸作る時に、『本当にアイツで大丈夫なんか』って俺が聞いたら…」






































『大丈夫だよ、ジン太』



































『だって彼は一度はコン君を助けてくれたんだから』





































「そう言うんだぜ…あっはっは…、本っ当!期待通り過ぎて……あはは〜可笑しいっ!!」

「…あの野郎…」

「…良いんじゃね?」

「恋次?」

「自分の好きな奴、任せられるなんて相当信頼されてるって事だしさ」

「………さっき殺され掛けた奴に信頼されても説得力ねェよ」

「………まぁ、そりゃぁな

「あいつはコンに甘過ぎんだよ」

「そりゃお前にも言えるぞ、一護」

「はぁ???」

「無自覚な訳ね………」

「??」













































「…コン君?」



真っ暗な部屋に声を掛けても。返って来るのは沈黙ばかりで。



「おかしいな…ここに……」



「嘘吐き」



「ぅわぁっ?!そ、そこに居たんスか?」



「嘘吐き。起きるまでずっと傍に居るつったじゃんかよ…」

「や、そ、それはっスね…」

「嘘吐き。やっぱアンタなんか信用ならない」

「ごめんなさい、許して下さい」

「…大っ嫌い」

「コン君…」

「やっぱ、アンタなんか大っ嫌い」

「そんな事言わないで下さいよ、コン君。それに…アタシは大好きですよ?」

「俺は嫌いだっ!!俺を…俺を放って置いたアンタなんか、大っ嫌いだ!!!」

「別に放って置いた訳じゃないっスよ。…まぁ確かに約束は破ってしまいましたが…」

「ほら!!」

「…でもそれは。……アナタにきちんと前を見てもらいたいから」



「……え?」



言われた言葉に、コンは一瞬動きを止める。

揺れる瞳は外から漏れて来る明かりにキラキラと小さな反射を繰り返して。



「アタシの知ってるコン君は。いつも笑顔で。それに前向きで」



「………………………」



「だから簡単に諦めてしまう、そんなアナタを見るのが嫌だったから。ちゃんと前を見てもらいたかったんスよ?」



「や、ヤだっ!!前向きにって…要は『生きろ』って事だろ?!生きる事を選んだら…!!俺は折角見つけた大切なモノ、全部失ってしまう!!」



「…見つかりますよ、きっと。次だって」



「…っっ!!それがっ!!それがアンタだって保証が何処にあんだよ?!アンタ良いのか…?!俺が…俺が、他の誰かを想ってもっ…!!」

「コン君…」

「…っっ嫌いだ!嫌いだ、嫌いだ、大っ嫌いだ!!アンタ、やっぱり俺をからかってただけじゃねェかよっ!!」

「からかってなんか居ませんよ、コン君」



浦原が捕らえた手首に、コンが暴れて拒んだ。



「離せっ!離せよっ!!…アンタなんか…アンタなんか好きになるんじゃなかった……そ、すれば……」



情けない程生に縋り付いて。

何の未練もなく、治してもらう事が出来たのに。

新しい人生だと、手を伸ばす事が出来たのに。



「そ、ぅすれ…ば……」



いつしか、力を失ったコンの手首が。

捕らえられたまま、ズルズルと力を失くす。





「…ぅ、…っ、ぅ……っ…」





「…泣かないで下さい、コン君」





「………泣ぃて…な、っか…ぃね…っ…!」



流れ出た涙は、そのまま頬を伝い床へと落ちる。



「ぉれ…って……」



「…コン君?」



「俺だって生きたいっ!」



「……………………」



「生きてェよっ!…でも!!」



ドンっと、力を失っていたコンの両拳が、浦原の胸を叩く。



「それに払う、代償がデカ過ぎるんだよっ…!!」



何度も、何度もコンが胸を叩く。

しかしそれは。

次第に力を失って。



「忘れたくねェんだよ、皆の事…っ!!!」










































『大好き』


































だから。

失いたくなんかない。

知らなかった事になんか。

出来ない。

したくない。











コンの魂魄が壊れるまで。

〜タイムリミット、30分〜