伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2022年8月27日: 最後の愛犬フクとの生活   GP生

 7月末、フクは満一歳を迎えた。生後2ヶ月で我が家に来てから一年近い歳月が過ぎ去ったことになる。フクはトイプードルとポメラニアンのハーフ犬である。どのくらいの大きさになるのか、性格はどちらの親に似るのかは、犬屋でも全く判らないと言われた。独特の眼差しに魅了され購入してしまった。過去五匹の犬は全て雌であった。フクは初めての男の子である。期待と不安を伴った生活が始まった。

 子犬はある程度成長しないと躾は無理である。這い這いしている子供に躾けが出来ないなのと同じだ。ケージから出した時、常時眼を離さない様にしていた。食事は幼犬用の餌をお湯でうるかして与えた。咀嚼力が十分でないからだ。フクが来たことで面倒ごとが増えても、煩わしさを覚えないのが犬の世話である。体重僅か650グラム、掌に乗る大きさであった。

 一歳を迎え、フクの体重も3.5s前後で安定をしてきた。性格も明確になってきた。どちらの犬種の性格が強いかは判らない。同じ犬種でも性格が異なるからなおさらである。フクは身体能力が極めて優れていている。今までの犬はシーズー犬が多く、しかも女の子、おとなしさが目立っていた。所が男の子のフクは、行動も活発を極めている。食卓テープルには椅子を経由して簡単に飛び乗り、コラ!と声をかけるとテーブルから楽々飛びをリ逃げてしまう。その素早さはアット言う間の行動である。成長するにつれヤンチャの度合いが増してきた。

 フクは布巾やマスク、テッシュペーパー等のヒラヒラした白い物を見ると何故か興奮する。咥えようと懸命に行動するのだ。台所のカウンターに置いた布巾を何時も狙っている。飛び上がると顔はカウンターをオーバーする能力である。布巾がコーナー近くにあるのを確認すると咥えて一目散に走り出す。取り返そうとしても、動きは素早く、部屋中を逃げ回るのだ。取り返す手段は二つ。一つは追い回すと必ず自分のベッドに逃げ込み、そこでボロリと落とすのだ。もう一つは、犬用ボーロをフクの目の前に落とす事だ。

 下の躾は飼育の基本である。ケージから出してからいくら教えても未完である。雌犬は排尿の際、腰を落とすが、雄犬は必ず片足を上げる。そのとき壁やテーブルの脚等の固形物をめがけるのが習性であるからだ。犬用トイレには、目標が無いため、落ち着いて脚を上げられないようだ。そこで細長い容器をトイレに置いている。粗相をした時、フクの頭を押さえ「駄目、駄目」と何回も声をかけ、そのままトイレに連れて行って教えている。トイレのシートが尿で変色しているから、覚えては居るのだろうが未だしである。排便も同じである。

 今まで犬の食事は朝8時、夕方5時の2回与えてきた。犬達はそれを楽しみにして、準備している自分の側を離れなかった。餌入れを置くと、犬達は夢中で噛み飲み込んで居た。所がフクは少し食べると餌場から離れ、食べ残しが午後にまで残ることは常時であった。夜間、完食もざらである。朝、多めの餌を与え、一日一食が状態となってしまった。活発なフクは運動不足なのかも知れない。

 昨年7月、8月と相次いで二匹のシーズー犬が死んでいった。いずれも寿命である。そして、一匹の犬も居なくなってしまった。何時も複数の犬達が側に居る生活が当たり前と感じてきただけに、心にボッカリと穴が開いた寂しさを覚えていた。気持ちを紛らわすため、家人と訪れた犬屋で出会ったのがフクである。まん丸い小さな眼に魅了され、他の犬達には目が行かなかった。末期高齢者には、最後まで面倒を見られる保証は無い。諦めるしか無いのだ。それでも諦めきれず息子に電話をし、万が一の時は引き取って貰えることを確約した。衝動買いである。考えてみれば、今までの5匹は全て衝動買いであった。フクは、シーズー犬チャコが死んだ日に生まれていた。何かの因縁であろう。犬を飼える幸福と誕生の地が福岡県であったことから、フクと名付けた。

 フクが来てからの我が家の雰囲気は一変した。フクは、自分か家人にいつもついて廻っている。立ち上がって脚に手を掛け舞える仕草をする。歩いているフクに声をかけるとコロッと横になり、お腹を上にして顔を見つめるのだ。犬の弱点は腹部であり、警戒する時は伏せの姿勢で身構え、腹部は床にぴったりと付け隙を見せない。腹部を見せることは警戒心が一切なく、心を許し甘えているのだろう。

 犬の躾は、お座り、お手、伏せが基本である。フクは比較的早くこの動作を覚えた。おやつは家人が与えている。欲しくなるとフクは家人の前でお座りをし、丸い目で見上げ続けている。何時までも見上げているのだ。家人はこれに負け、何時も余計に与えてしまっている。最近は「お母さんが呼んでいるよ」と声をかけると一目散に走り寄っていく。言葉には出せない愛らしさである。

 犬との意思の疎通は最大の楽しみである。言葉を全て理解しているわけでは無くても雰囲気は判るようだ。悪さをした時は、一目散ににげまわる。優しく声をかけられるとお座りをして、少し首を傾げる仕草をする。「何だろう、判らない。」と言いたげである。

  訪れる宅配便屋さんに犬好きの人が多い。フクは来客があると玄関に走り寄ってくる。そして、戯れ付くのだ。誰にでもする動作では無く、犬好きの人を見分けている。お座りと言われ玄関先でお座りすると「可愛いですね」と声をかけられる。すると今まで以上に戯れ付き始めるのだ。一度かわいがられた宅配便屋さんを覚えていて、次に来た時は戯れ付き方が異なるのだ。

 フクの寝床は準備していても、その時々で寝場所は異なる。夏の暑い盛りは玄関に寝ることが多い。今までの犬達も同じであった。秋口から冬にかけては自分の寝床に潜り込んでくる。枕元で丸くなり、必ず自分の身体に密着させて寝ているのだ。犬達は、家の中でボスが誰であるかを見分けている。ボスの側に居るのが、気持ちの安定につながるのだろう。昼間、自分の部屋で座り、何かをしていると、フクは必ず近くで横になっている。時にはお座りをして片足を上げ、何かを訴える仕草をする。膝をたたくと飛び乗ってくるのだ。

 室内犬のシーズーと異なり、フクには散歩が必要である。夏場は暑すぎるので早朝散歩となる。所が、帯状疱疹を患い、未だ完治しない状態では散歩は無理だ。歩くと脇の下がこすれ痛みを生じるからだ。見かねて、息子が自分の犬達と一緒に散歩に連れて行っている。今朝も7時前に出かけていった。フクにとって三匹一緒の散歩は楽しいだろう。大好きなポメラニアンと一緒なのだから。朝の散歩を始めてから食欲も増してきたようだ。

 フクは間違いなく家族の一員である。フクも完全に我が家に溶け込んでいる、朝、フクに「おはよう」と声をかけることから一日が始まる。家人が起きてくると纏わり付き、家人が話しかけると、色々な仕草で気持ちを表している。もしフクが居なければ老夫婦の生活は、寂しい物になっていただろう。フクは、文字通り我が家に幸福をもたらして呉れたのだ。いつまで、この幸せが続くか判らない。何時までもフクと生活できることを願っている。

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